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愛し君へ
9 side琉伊
しおりを挟む久しぶりに子供から解放された一日が過ごせるわけだが、どうしたものかと空を見上げたのち、休日出勤した夫にランチデートの誘いのメールを送る。
車に乗り込んでしばらく走ると、夫から了解と現在地と集合場所の確認の返信があり、路肩に車を停める。夫と自分の現在地を地図に描き、集合場所と時間の提案。
すぐさま了解の返信が来て、目的地へ向かおうとウインカーを出しかけて、やめる。
もう一度携帯電話をとり出して、リダイヤルから目的の人物へ。
『はぁい、こちら堂島会計事務所~』
「はいはい、ご無沙汰してます。実冴お義姉さま」
コール三つで繋がった先から夫の経営する会計事務所を騙られて、なんだかもうガックリ力が抜けた。
『ノリ悪いわね』
「突っ込みようがないです」
『まあいいわ。どうしたの? 久しぶりに電話とか。なんかあった?』
「そうですね。本当に申し訳ありませんね。何かないと電話しない義妹(いもうと)で。おっしゃる通り、何かあったわけですけれどね、今回も」
ぽんぽんとお互い軽い応酬ののち、事情を説明する。掻い摘めるものではないことと、この義姉がああ見えてとても口が堅いことを知っているので、包み隠さず伝えた。おそらく実冴ならば、当人たちにも知っていると言う事実を悟らせない。
『はー ったく。私の時になんて言ってくれたかリプレイして差し上げたいわ』
本気で溜息を吐いている気配。
実冴は哉たちとは逆で、先に子供ができた口だ。それも、出産予定と式の日取りが重なる事態に陥り、急きょ式を三ヶ月も前倒しした。
結婚することは既に決まっていたとはいえ、まだ入籍も済ませる前に長兄の子を妊娠した実冴がその事実を伝えたのは、琉伊も含めた家族を集めた会食の場だった。いたので知っている。
その時母は『犬猫でもあるまいし、発情したからと言って男を誘って子供を作るなんて』と、吐き捨てるように、だがはっきりとその場にいるものの耳に入る声量で言ってのけた。
そして『何年かは子供を作らずに夫婦水入らずで過ごすべきものでしょう。そうして愛を育んで、その過程で子供とは生まれる物です』とも。
なので、結婚早々子供ができた琉伊は、どんな嫌味を言われるかと、実母にその事実を三ヶ月も伝えられなかったのだが、どこから聞いたのか巡り巡って情報が届いたらしい母は、あの時の発言などきれいすっぱり忘れ去って琉伊を褒め称え、樹理を貶めた。
と言うかどちらかというと、樹理を貶めることが主体だっただろうと思う。
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