Zinnia‘s Miracle 〜25年目の奇跡

弘生

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最終章

  咲月の魔法

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 だからさ、ぼくがサクラに再び触れる事の出来たあの日には、すでにサツキのかけた奇跡の魔法は始まっていたんだよ。

 ぼくが発芽寸前に川に捨てられて、暗闇の中で意識が遠のいて眠ってしまいたかった時、石鹸くさい手がぼくを掬い上げて救ってくれた。あの嵐の後の時みたいに。
 ぼくは二度も溺れる所をキリトに救われたんだ。
「ジン、頑張ったな、これから咲月の魔法の始まりだよ」
 キリトの隣には、長い黒髪をさらさらさせて、優しい目を三日月にしたサツキが居た。
 ふたりのあの頃のままの姿に、ぼくはたくさんたくさん泣きたくて鳴いた。
「ニャアニャアニャアニャアニャアニャアニャアニャア……」
 ありったけの声を出したら、ぼくは昔の白猫の姿で鳴いていたのだった。
「ジン、長い間サクを見守ってくれてありがとう。甘え下手のサクは、あなたがずっと傍に居てくれて、どんなに支えになっていた事か」
 サツキが涙なんて流すから、
「ぼく、何にも出来なかったよ。ただ、サクラがぼくを信じて語りかけ続けてくれたから、ぼくは花としてあんなに長い間生きられたんだ。だから、ただただ傍で見ているだけで何も……」
「サクはひとりじゃないって、いつも頑張れたじゃない。ありがとう、ジン」
「どうだい、ジン。本当の化け猫になった気分は」
 キリトがにやりと笑って言った。
「ええ! まさか、これって化け猫なの?」
「化け猫じゃないわよ、ジン。今は精霊。ちゃんと生まれ変わるわ、また白猫だけど文句ないわよね、うふふ」
 サツキがいらずらっぽく笑うと、やっぱりユウキとそっくりだった。ぼくがそれを告げると、
「結月に咲月の姿が見えたら羨ましがるぞ。あいつ、本当のおばちゃんになっちゃったから」
 キリトはくすくす笑い、サツキに軽く拳骨で頭を叩かれてうれしそうだ。
「おれ達、あんなに早く死んじゃって、朔空や父さんや結月、それにジンに、悲しい思いをさせてしまったけど、父さんと結月とジンの最強見守り隊が朔空に寂しがる隙を与えないでいてくれたんだって思ってるよ」
「本当にそうね……でも、わたしは自分で育てたかったな。ごめんね、今更こんな事言って」
 サツキの大きな目がふやけた。
「おれだって一緒に……」
 キリトがそこで言葉を切った気持ちが、ぼくにはわかった。
「おれはこの家族の一員で幸せだよ。今だって……」
「わたしも、まんまる幸せよ、うふふ」
 そこでキリトがサツキをちらりと見たんだ。だから、
「キリトもサツキも次の世界でも、絶対に出会えるはずだよ」って片目を瞑って見せたら、
「うるせえ」って、照れ隠しフレーズが返ってきた。
 ぼくは、こうして石鹸くさいキリトの胸とサツキの優しい声に柔らかく包まれて、二年近くの間、まったりとあの頃の記憶を何度も何度も反芻した。


「そろそろ時間よ、ジン」
 サツキがぼくの頭を撫でながら言った。
「ねえ、サツキって魔法使いなの?」 
 ぼくは、ずっと気になっていた事を訊ねた。
「うふふ、そう思う?」
 ぼくはじっとサツキの目を見た。
「ジンの左目がうっすら赤くなってるわ。馬鹿ね、ジン。そんなわけないじゃない。この奇跡はね、わたしが作った歌をサクとジンが憶えていてくれて、百日草の奇跡を信じて作り上げてくれたのよ。それに、ジンが二十五年も頑張ってくれたご褒美なのかもしれない。みんなが幸せになれるように」
「そうか、ぼくが花になってから二十五年目だったんだ」
「本当はね、あの詩は『巡る命に自由、五年の魔法』だったのよ。でもサクが『めぐる命、二十五年の魔法』って書き違えたの……半分は結月の責任だけど、うふふ。でも、それで良かったのよ、きっと。サクもいろいろな人生経験したし、ジンもそれだけサクと一緒に居てくれたんだもの。これからもっともっとサクに可愛がってもらいなさい」
 サツキがキリトに笑顔を向けると、キリトが言葉を続けた。
「そうだよ。ジンが百日草になって五年経った頃、うちの庭に琴音ちゃんが来ただろ。あの時さ、おれ、ピンと来ちゃってさ、わはは。誰も気づいてなかったと思うけど」
「あら、わたし、すぐに気づいたわよ、うふふ」
 サツキが横槍を入れるから、キリトが咳払いをして仕切り直すのが面白い。サツキのユウキ化? 
「ごほん。だからさ、五年の奇跡はいろんな意味で、機は熟してないって思ったんだよ。二十五年の間、いろんな事があったから、おれも人生の追体験させてもらったよ。なんたって、今の朔空はおれよりひと回りも歳上だからな、わはは」
「そういえば、わたしよりも歳上だわ」
 ふたりは顔を見合わせて幸せそうに笑った。
「それからね、きっとお父さんならこう言うと思うわ。ジンがじりじりしていた千弦さん。彼女があなたを捨ててくれた事が、こうやって生まれ変わる強いきっかけをくれたのかもしれないって事、忘れてはだめよ」
 サツキが大きな目をぱっちり開けてぼくを見るから、
「うん」と頷いた。

「さあジン、新しいスタートラインよ。いってらっしゃい」

 やっぱりサツキは魔法使いだよ、多分……
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