この恋は決して叶わない

一ノ清たつみ_引退騎士

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 やはりと言うべきだろうか。俺のこんな姿に意義を申し立てようとする声が上がった。

「……このオッサン、本当に大丈夫なんだろうか? 信用できるのか?」

 一番手は、彼らの中でも特に高圧的な態度を見せる男だった。見た目はまんま騎士で、恐らくは国一番と目されているそれが彼なのだろうと推測する。

 腰程まである赤髪を後ろに結い、髪と同じ色の目は隙なく俺を見張っている。
 決して低くはない俺の背丈を優に超える長身で、誰よりも偉そうに踏ん反り返っていた。

 聞けばまだ成人したてだと言う彼は、名をトバイアスと言った。若くして既に頂点に立ち、しかしそれで尚未成熟な彼は未だ伸び代を残していると聞く。妙に態度がデカイのはその所為だろうか。
 未成熟な精神が今後の課題だろうか。そんな分析をしながら、その男の視線を受け止めた。
 
「見るからに……」

 その赤髪の隣でそう呟いたのは、やけに貧相な男だった。
 長いのか短いのか、中途半端な長さの黒髪はざっくばらんで、前髪が斜めで随分と珍妙な髪型をしている。その目は灰色だろうか。容姿の端麗さと相まって、髪とは違った透き通るような色に一瞬目を奪われそうになった。

 そして、最も妙ちくりんだったのが、その男が背負う剣に非常に見覚えがある所だった。

 まさかこんな……こんなちんくしゃが、異世界から来なさったという、例の伝説の勇者だなんて。

 ヒクリと歪みそうな口を必死で抑えた。確か名前はなんだったか――聞き覚えのない音だった事は確かだ。
(後に名前はトウゴだとクリストファーから教わった)
 当時の俺と比べてすら、随分とひ弱そうな勇者様だった。

「いくら神官長の頼みでも限度があります」

 そう言ったのは、無駄に女受けしそうな見た目をした小綺麗な男だった。

 白銀とでも言えば良いのか、肩で切り揃えられた綺麗な色の髪、そして身に纏う一級品の装備の数々。

 まさに良い御家出身、といった風体の魔法使いだった。そして、この中では最も嫌な印象を受ける。俺を、まるで動物か何かでも見るような目付きで見つめてくるのだ。

 直感とでも言えばいいのか。俺は、この男がハッキリ嫌いであると自覚した。こういう男は、俺が最も苦手とするタイプなのだ。
 人を見た目で判断するような、典型的なぼっちゃま。昔からどうもウマが合わない。触れないに限る。

 うんうん、と一人でそう納得させる。彼の名は確かジョンだとかジョージだとかいうアレだった気がする。そういう適当な事を考えながら、俺は気を紛らわした。
(名前がジョゼフだというのは後から知った)

 だが、そんな俺の考えを遮る声が聞こえてきて思わず目をやる。

「へんな匂いがする……」

 奇妙な言葉を漏らした男は、明らかに人族ではなかった。耳は人よりも長くて尖っているし、キラキラと輝く艶やかな金の髪は腰程まであった。

 そして極め付けは、その魔力である。あの異常な量の魔力を授かったクリストファーにも引けを取らない、膨大な魔力。

 彼がエルフと呼ばれる種族だろうというのは容易に想像ができた。彼の名をエリアルといった。
 以前、一度だけエルフにまみえた事があったが、その時と変わらず不気味な印象を受けた。

 そしてこの時俺は理解する。
 俺の旅立ちの際、彼らはその同行を断った。そのくせ、今回のこの旅にはでしゃはわってくるという事はつまり、本当に今度の旅は伝説に違わないような重要なものだろうと。
 悔しいような心躍るような、俺は何とも名状し難い感情を覚えていた。

 そして、最後の一人。エルフと同様に人族ではない男が言った。

「へんな匂いってなんだよ……俺は匂わねえぞ?唯の人間のオッサンにしか……」

 見た目は、二足歩行をこなす獣のような姿をしていた。
 まんまネコ科のそれで、丸みを帯びた耳と、顔は凛々しいネコのそれとそっくりだった。全身が黄色混じりの茶色い体毛で覆われており、ふさふさとしていた。

 後ろから伸びている尻尾は、尾の先端が緩くカーブを描いており、感情に沿っているのか、時折フルフルと横に揺れていた。

 そんな凛々しいネコちゃんの名前はアーチボルトといった。名前は一発で覚えた。彼の尻尾の揺れがどうしても気になって、視線を引き剥がすのに苦労したというのは内緒である。


 と、そんな感じで彼等から一通りの洗礼を受けてから。俺は見せつけるようにため息を吐いてやった。腹立たしくなるような仕草をワザと入れて、やれやれと両手を上げ肩をすくめながら言った。
 
「言うほど怪しくねぇって。旅する賞金稼ぎみてぇなもんだ。昔っからそんなヤツ珍しくもねぇだろ? 俺が頼まれたのは、たまたまそこの人に俺の強さが目に留まったから。俺にとっちゃ暇潰しよ。報酬もたんまり出るし、こんなオイシイ話他にゃねぇしさ。俺もそろそろ歳だしラクして暮してぇの。坊っちゃん方にもそれくらいは分かんだろ?」
「……」

 そう言えば納得したのか、不服そうにしながらも誰もが黙り込んだ。腰に挿さる剣にも気付いたはずだ。

 平和ボケしつつあるこの御時世、少なくなりつつある悪者や魔獣を狩る賞金稼ぎも楽ではないのは周知の事実だ。俺はそこを上手く利用した。

「まぁそういう訳だから、ひと月後の出立を控えて、各自交流を深めて――」

 それらしくクリストファーが声をかけた所で。俺は遮るようにして言った。
 クリストファーも中々の演技力だ、なんてそんな事を思いながら、ダメっぷりを見せつける。

「俺ァ嫌だね」
「――は?」
「団体行動は嫌いなんだよ、顔合わせは済んだろ。んじゃあな、また後で」
「おい、君!」

 長く接してしまえばきっとボロが出る。
 だからそう、軽くあしらうようにしてクリストフの叫びを背に聞きながら俺は歩き出した。

 頼り甲斐はまぁまぁありそうな面々に少しだけ安心する。この俺が居なくとも、陛下をお護りするナイトは順調に育っているようだ。あの短い時間でも分かる事は多いのだ。

 未熟さこそ見られるけれども、あの位の若者は時として驚くべき成長を見せる。

 例えもし、俺だけが夢の中で死んだとしても、もうこの国は心配いらない。それを確認できただけでも俺がここへ戻ってきた意味はあった。

 俺には、この旅でしか晴らす事のできない強い心残りがある。誰にも邪魔をされたくない。を殺すのは俺だ。

 そんな事を内心で強く願いながら、俺は神殿からすぐの森へと足を向けた。

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