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あのクリストファーの笑みの意味を理解したのは、村に着いてすぐの事だった。
「待ち侘びたぜオッサン!」
「リベンジだぞ」
「ぶっ⁉︎」
俺達を出迎えた二人の青年。
それはそれは見覚えのある青年達だった。
一年近く見ない間に、彼らは一段と逞しくなっていた。腰と背に剣を提げて、腕を組み仁王立ちをしている。
オッサン、という不躾な呼び方は相変わらずで、勝ち気な性格がその自信に満ちた顔から見て取れた。
一体、あの男は何を考えているんだ。俺は苦々しい想いで目の前二人――レオナルドとアルフレッドを見やった。
「二人とも、着いて来んなって言ったろうが」
「俺らは里帰りに来ただけだぜ?」
得意げに顎をしゃくるレオナルドは、一番上らしく落ち着いた様子で俺に報告してくる。頭が回るのは一体どこの誰に似たのか。
日に日に父親に似ていくその姿に、何とも言えない気持ちになる。
「何だよその顔」
その内、亡き父の後を追って国の騎士団にでも入ってしまうんではなかろうかとすら思う。
才能はあるのだ。父譲りの剣の才。少しだけ期待しながら、その姿は見れないだろう事を残念に思う。
「村長が助けを求めてるって聞いたら行くしかねぇだろ!」
図体ばかり大きくて、それでもどこか幼さを残すアルフレッドは、いつも兄と比べられて背伸びをしがちだった。
もっと落ち着きなとシャロンには怒られているが、頑張りが空回りしているだけであるのは皆分かっているのだ。
偶に、一人きりで涙を堪えていた事は俺も知っている。きっと、もう少し経てばうまくいくようになる。
背伸びなんてする必要もない。レオナルドとは五つも違いながら、既に同じ程の体格なのだ。きっとそれは武器になる。彼もまた、同じく神速と呼ばれるのだろうかと期待している。
「そりゃそうだけどよ……」
「オッサン、村長にはちゃんと挨拶行けよ。アンタが来んのをずっと待ってんだから」
最もな事を言うレオナルドに何も言えず、俺は思わず顔を覆った。
今更神殿に戻れだなんて、この二人が聞くはずもない。俺が神殿を去ってからも、きっとこの二人はずっと鍛錬していたに違いないのだ。
見違えるほどに洗練された立ち振る舞いと、鍛え込まれた肉体がその本気度を物語っているようだった。
あの神殿には騎士もいる。きっと彼らに無理を言って教えてもらったのだろう。そう思うと、神殿に彼らを預けたのが正しかったのか分からなくなる。
歴代最強と名高い、人外の域に達した神官長の守る国の神殿。一番安全なのがあそこだというのは、疑いようのない事実だったから。
だがそんな事を考えていた時だった。突然、エリアルが言ったのだ。
「今、赤い悪魔の目的が成った。じきに神殿から遣いの者が来る」
驚いて声の方を振り向けば、そこにはいつもと変わらず、無表情のエリアルがいた。
「おい、それはどういう意味だ」
ポカンとする周囲だったが、俺はすかさずその意味を聞く。その言葉の意味を何となく察してしまって、血の気が引くような思いがした。
「宿敵無き神殿では、あの悪魔の侵攻は食い止められない」
「あの悪魔の宿敵ってのは……」
「あの神の御使い。先程、おまえ達も会っただろう」
そう説明したエリアルに、トウゴ達も次第に状況を理解し始めたようだ。はっと息を呑むような音が、俺の耳にも届いていた。
「……あの男の誤算だった、って訳か」
「そうだ。そういう選択したのは彼だが。ただ、遅かれ早かれそうなってはいただろう」
「“バルベリト”の目的は何だったんだ? なぜわざわざ神殿なんかに……」
「子供達だ。四人共、前代の血縁だろう? おまえを戦いに引っ張り出そうと思うのなら、それが一番確実だ」
そこで思わず顔を覆った。ガツンと頭を殴られたような感覚だった。
自分のせいだ。この旅の何もかもが、自分のせいだった。
それに今気付いてしまった。
「二人は……?」
「捕まっているだけだ。あの悪魔は何もしないだろう」
「……」
「あの悪魔が何を思っているのかは、私にもよくわからないが……全てはアレがしでかした事だ。おまえ達が倒しきれなかったせいではない」
「……んなのは詭弁だ」
「そうかもしれない」
「あの場で討てていれば、こんな事にはならなかった」
ずっとずっと、旅の間中に俺が思っていた事だった。あの時、何が何でも倒すべきだった。
目の前から逃げ去っていく瀕死の赤い悪魔を、例え仲間がその場で死のうとも追いかけるべきだった。それを選択できなかったのは、本当の戦いというものを知らなかった俺の落ち度だ。
だが、目の前のエルフは即座にそれを否定した。
「どの未来でも、赤い悪魔はあの場では死ななかった」
「!」
「一時を境いに、その未来が完全に消えていた」
「なぜ、そんな……」
「私達にもその理由は分からない。悪魔は人間以上に理解が難しい。ただ、あの悪魔が何かを選択したから今の状況があるというのは忘れてはいけない」
「……」
「おまえ一人の選択が状況を作ったのではない。覚えておくといい」
「分かった、分かったから……説教はもう辞めてくれ」
「……そうか」
エリアルと俺の話はそこで終わった。きっと、この場にいる皆がこの話の意味を聞きたがっているのだと思う。
けれど今は、そんな元気は少しもなかった。
着いてこようとするリオンを置いて、俺は皆の側から離れた。どこからどこまで話すかは、リオンやレオナルド達に任せようと思う。
それに大丈夫だろう。きっと薄々、トウゴやトバイアス達も気付き出す頃だろうから。
「待ち侘びたぜオッサン!」
「リベンジだぞ」
「ぶっ⁉︎」
俺達を出迎えた二人の青年。
それはそれは見覚えのある青年達だった。
一年近く見ない間に、彼らは一段と逞しくなっていた。腰と背に剣を提げて、腕を組み仁王立ちをしている。
オッサン、という不躾な呼び方は相変わらずで、勝ち気な性格がその自信に満ちた顔から見て取れた。
一体、あの男は何を考えているんだ。俺は苦々しい想いで目の前二人――レオナルドとアルフレッドを見やった。
「二人とも、着いて来んなって言ったろうが」
「俺らは里帰りに来ただけだぜ?」
得意げに顎をしゃくるレオナルドは、一番上らしく落ち着いた様子で俺に報告してくる。頭が回るのは一体どこの誰に似たのか。
日に日に父親に似ていくその姿に、何とも言えない気持ちになる。
「何だよその顔」
その内、亡き父の後を追って国の騎士団にでも入ってしまうんではなかろうかとすら思う。
才能はあるのだ。父譲りの剣の才。少しだけ期待しながら、その姿は見れないだろう事を残念に思う。
「村長が助けを求めてるって聞いたら行くしかねぇだろ!」
図体ばかり大きくて、それでもどこか幼さを残すアルフレッドは、いつも兄と比べられて背伸びをしがちだった。
もっと落ち着きなとシャロンには怒られているが、頑張りが空回りしているだけであるのは皆分かっているのだ。
偶に、一人きりで涙を堪えていた事は俺も知っている。きっと、もう少し経てばうまくいくようになる。
背伸びなんてする必要もない。レオナルドとは五つも違いながら、既に同じ程の体格なのだ。きっとそれは武器になる。彼もまた、同じく神速と呼ばれるのだろうかと期待している。
「そりゃそうだけどよ……」
「オッサン、村長にはちゃんと挨拶行けよ。アンタが来んのをずっと待ってんだから」
最もな事を言うレオナルドに何も言えず、俺は思わず顔を覆った。
今更神殿に戻れだなんて、この二人が聞くはずもない。俺が神殿を去ってからも、きっとこの二人はずっと鍛錬していたに違いないのだ。
見違えるほどに洗練された立ち振る舞いと、鍛え込まれた肉体がその本気度を物語っているようだった。
あの神殿には騎士もいる。きっと彼らに無理を言って教えてもらったのだろう。そう思うと、神殿に彼らを預けたのが正しかったのか分からなくなる。
歴代最強と名高い、人外の域に達した神官長の守る国の神殿。一番安全なのがあそこだというのは、疑いようのない事実だったから。
だがそんな事を考えていた時だった。突然、エリアルが言ったのだ。
「今、赤い悪魔の目的が成った。じきに神殿から遣いの者が来る」
驚いて声の方を振り向けば、そこにはいつもと変わらず、無表情のエリアルがいた。
「おい、それはどういう意味だ」
ポカンとする周囲だったが、俺はすかさずその意味を聞く。その言葉の意味を何となく察してしまって、血の気が引くような思いがした。
「宿敵無き神殿では、あの悪魔の侵攻は食い止められない」
「あの悪魔の宿敵ってのは……」
「あの神の御使い。先程、おまえ達も会っただろう」
そう説明したエリアルに、トウゴ達も次第に状況を理解し始めたようだ。はっと息を呑むような音が、俺の耳にも届いていた。
「……あの男の誤算だった、って訳か」
「そうだ。そういう選択したのは彼だが。ただ、遅かれ早かれそうなってはいただろう」
「“バルベリト”の目的は何だったんだ? なぜわざわざ神殿なんかに……」
「子供達だ。四人共、前代の血縁だろう? おまえを戦いに引っ張り出そうと思うのなら、それが一番確実だ」
そこで思わず顔を覆った。ガツンと頭を殴られたような感覚だった。
自分のせいだ。この旅の何もかもが、自分のせいだった。
それに今気付いてしまった。
「二人は……?」
「捕まっているだけだ。あの悪魔は何もしないだろう」
「……」
「あの悪魔が何を思っているのかは、私にもよくわからないが……全てはアレがしでかした事だ。おまえ達が倒しきれなかったせいではない」
「……んなのは詭弁だ」
「そうかもしれない」
「あの場で討てていれば、こんな事にはならなかった」
ずっとずっと、旅の間中に俺が思っていた事だった。あの時、何が何でも倒すべきだった。
目の前から逃げ去っていく瀕死の赤い悪魔を、例え仲間がその場で死のうとも追いかけるべきだった。それを選択できなかったのは、本当の戦いというものを知らなかった俺の落ち度だ。
だが、目の前のエルフは即座にそれを否定した。
「どの未来でも、赤い悪魔はあの場では死ななかった」
「!」
「一時を境いに、その未来が完全に消えていた」
「なぜ、そんな……」
「私達にもその理由は分からない。悪魔は人間以上に理解が難しい。ただ、あの悪魔が何かを選択したから今の状況があるというのは忘れてはいけない」
「……」
「おまえ一人の選択が状況を作ったのではない。覚えておくといい」
「分かった、分かったから……説教はもう辞めてくれ」
「……そうか」
エリアルと俺の話はそこで終わった。きっと、この場にいる皆がこの話の意味を聞きたがっているのだと思う。
けれど今は、そんな元気は少しもなかった。
着いてこようとするリオンを置いて、俺は皆の側から離れた。どこからどこまで話すかは、リオンやレオナルド達に任せようと思う。
それに大丈夫だろう。きっと薄々、トウゴやトバイアス達も気付き出す頃だろうから。
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