国民的アイドルを目指していた私にとって社交界でトップを取るなんてチョロすぎる件

にわ冬莉

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第5話 アイドルだった私、ダンスを始める

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 それからしばらくの間、私の元にあの二人が訪れることはなかった。

 屋敷には専属の先生がいて、昼間はガッツリ勉強。しかしそればかりでは飽きる! 今まで毎日分刻みに飛び回り、レッスン漬けでやってきた生活を考えると、時間の流れが十倍にでもなったかのようなスロースピード。いい加減、踊りたいし歌いたい。

 私はその日をきっかけに、父であるエイデル伯爵に頼んでダンスレッスンを受けさせてもらうことにしたのだ。

 ……でも、私がやりたいダンスではなく、社交ダンスだったけど。




「リーシャ様は飲み込みが早いですね!」
 ダンスの講師、カインはそう言って手を叩いた。
「先生の教え方がうまいんですよ、きっと」
 私は息を切らせながらそう言って笑った。

 ダンス自体はさほど難しくない。
 ただ、リーシャは体力がなさすぎるのだ。少し動いただけですぐに息が切れる。これでも自主練して少しはマシになったのだが、まだまだ『以前の私』には程遠い。
 それと、この、スタイル……。

 グラマーな人ってこんなに大変なんだね!!
 私、乃亜だった頃は肩が凝ったことなんてなかったし、走ると痛い、って、そんなの都市伝説だと思ってた!
 この世界の下着は、中世ヨーロッパの感じと似てるけど、ガッツリとコルセットで固定、っていうほどでもない。だから激しい動きをすると……その……痛い。
 何か方法考えないとな。

「先生、もう少しハードなダンスはないんですか?」
 私の言葉に、カインが怪訝な顔をする。
「ハードな、って……、良家のお嬢様はそのようなダンスを覚える必要などありません」
 そりゃそうか。でもなぁ…、

「私、体力をつけたいの! 体が強ければ、あんな風に倒れたりすることもなくなるでしょう?」
 苦しい言い訳だったが、カインは納得したように頷いた。
「そういうことでしたら、まぁ、お教えいたしましょう」
「やった!」
 思わず素が出てしまう。
「まったく、お嬢様は無邪気なお方だ」

 笑いあう私たちを、屋敷の陰から覗いていたのはアイリーンである。
 とにかくアイリーンは、リーシャが気に入らない。

 あの日、お菓子のことを指摘されてからというもの、母親に『リーシャには近付くな』と言われているため何も出来ずにいたが、急にダンスを習うと言い出した姉の姿をこうして遠くから見ていると、イライラするのだ。

「なんであんなに楽しそうなのよっ」
 姉には不幸になってほしい。
 そうすることで、自分の幸せを噛み締めたいアイリーンだった。

「……そうだわ!」

 アイリーンは頭に浮かんだ壮大な計画にニンマリ笑うと、その場を後にした。これは、きちんと計画を練る必要がある。用意しなければいけないことも山ほどある。最高の舞台を思いついたのだ。
「ああ、私ったらなんて賢いのかしら!」
 スキップしそうな勢いで、部屋へと戻っていったのである。


*****

「パーティー?」

 エイデル伯爵に呼ばれて書斎へ行くと、唐突にそんな話を受ける。
「そうだ。アイリーンがどうしても自分とアルフレッドの婚約発表パーティーをしたいと言い出した。異論はあるか?」
 それは質問ではなく、ただの報告にしか聞こえない言い方だ。

 このマドラ・エイデルという男、なんだかいつもこんな風。上から目線で決めつけてくるし、愛が感じられない。伯爵ってどのくらい偉いのか知らないけど、感じ悪いなーって思っちゃう。

「異論なんか、別に……、」
「そうか。それならいい。ついでにお前の婚約相手になりそうな子息たちを集めようと思っているから、
「……あ、はい」

 そのつもりで?
 どのつもり?
 は?

 よくわかんないけど、集団見合いみたいな話なのかしら?

 私、よくわからないまま返事しちゃったけど…ま、いっか。
 それにしても、婚約破棄してきた男と妹の婚約パーティーに出席させられた上、次の婚約者候補と集団見合いって……ねぇ?



 書斎を出て部屋に戻ろうとしたら、アイリーンに出くわした。あの日以来、私を避けてたみたいだけど、もういいのか。

「お姉様、少しお話いいでしょうか?」
 畏まった声で目をウルウルさせるアイリーンを見ていたら、いつかの出来事を思い出す。

 ああ、嫌なこと思い出しちゃったのだ……。
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