5 / 20
第5話 アイドルだった私、ダンスを始める
しおりを挟む
それからしばらくの間、私の元にあの二人が訪れることはなかった。
屋敷には専属の先生がいて、昼間はガッツリ勉強。しかしそればかりでは飽きる! 今まで毎日分刻みに飛び回り、レッスン漬けでやってきた生活を考えると、時間の流れが十倍にでもなったかのようなスロースピード。いい加減、踊りたいし歌いたい。
私はその日をきっかけに、父であるエイデル伯爵に頼んでダンスレッスンを受けさせてもらうことにしたのだ。
……でも、私がやりたいダンスではなく、社交ダンスだったけど。
「リーシャ様は飲み込みが早いですね!」
ダンスの講師、カインはそう言って手を叩いた。
「先生の教え方がうまいんですよ、きっと」
私は息を切らせながらそう言って笑った。
ダンス自体はさほど難しくない。
ただ、リーシャは体力がなさすぎるのだ。少し動いただけですぐに息が切れる。これでも自主練して少しはマシになったのだが、まだまだ『以前の私』には程遠い。
それと、この、スタイル……。
グラマーな人ってこんなに大変なんだね!!
私、乃亜だった頃は肩が凝ったことなんてなかったし、走ると痛い、って、そんなの都市伝説だと思ってた!
この世界の下着は、中世ヨーロッパの感じと似てるけど、ガッツリとコルセットで固定、っていうほどでもない。だから激しい動きをすると……その……痛い。
何か方法考えないとな。
「先生、もう少しハードなダンスはないんですか?」
私の言葉に、カインが怪訝な顔をする。
「ハードな、って……、良家のお嬢様はそのようなダンスを覚える必要などありません」
そりゃそうか。でもなぁ…、
「私、体力をつけたいの! 体が強ければ、あんな風に倒れたりすることもなくなるでしょう?」
苦しい言い訳だったが、カインは納得したように頷いた。
「そういうことでしたら、まぁ、お教えいたしましょう」
「やった!」
思わず素が出てしまう。
「まったく、お嬢様は無邪気なお方だ」
笑いあう私たちを、屋敷の陰から覗いていたのはアイリーンである。
とにかくアイリーンは、リーシャが気に入らない。
あの日、お菓子のことを指摘されてからというもの、母親に『リーシャには近付くな』と言われているため何も出来ずにいたが、急にダンスを習うと言い出した姉の姿をこうして遠くから見ていると、イライラするのだ。
「なんであんなに楽しそうなのよっ」
姉には不幸になってほしい。
そうすることで、自分の幸せを噛み締めたいアイリーンだった。
「……そうだわ!」
アイリーンは頭に浮かんだ壮大な計画にニンマリ笑うと、その場を後にした。これは、きちんと計画を練る必要がある。用意しなければいけないことも山ほどある。最高の舞台を思いついたのだ。
「ああ、私ったらなんて賢いのかしら!」
スキップしそうな勢いで、部屋へと戻っていったのである。
*****
「パーティー?」
エイデル伯爵に呼ばれて書斎へ行くと、唐突にそんな話を受ける。
「そうだ。アイリーンがどうしても自分とアルフレッドの婚約発表パーティーをしたいと言い出した。異論はあるか?」
それは質問ではなく、ただの報告にしか聞こえない言い方だ。
このマドラ・エイデルという男、なんだかいつもこんな風。上から目線で決めつけてくるし、愛が感じられない。伯爵ってどのくらい偉いのか知らないけど、感じ悪いなーって思っちゃう。
「異論なんか、別に……、」
「そうか。それならいい。ついでにお前の婚約相手になりそうな子息たちを集めようと思っているから、そのつもりで」
「……あ、はい」
そのつもりで?
どのつもり?
は?
よくわかんないけど、集団見合いみたいな話なのかしら?
私、よくわからないまま返事しちゃったけど…ま、いっか。
それにしても、婚約破棄してきた男と妹の婚約パーティーに出席させられた上、次の婚約者候補と集団見合いって……ねぇ?
書斎を出て部屋に戻ろうとしたら、アイリーンに出くわした。あの日以来、私を避けてたみたいだけど、もういいのか。
「お姉様、少しお話いいでしょうか?」
畏まった声で目をウルウルさせるアイリーンを見ていたら、いつかの出来事を思い出す。
ああ、嫌なこと思い出しちゃったのだ……。
屋敷には専属の先生がいて、昼間はガッツリ勉強。しかしそればかりでは飽きる! 今まで毎日分刻みに飛び回り、レッスン漬けでやってきた生活を考えると、時間の流れが十倍にでもなったかのようなスロースピード。いい加減、踊りたいし歌いたい。
私はその日をきっかけに、父であるエイデル伯爵に頼んでダンスレッスンを受けさせてもらうことにしたのだ。
……でも、私がやりたいダンスではなく、社交ダンスだったけど。
「リーシャ様は飲み込みが早いですね!」
ダンスの講師、カインはそう言って手を叩いた。
「先生の教え方がうまいんですよ、きっと」
私は息を切らせながらそう言って笑った。
ダンス自体はさほど難しくない。
ただ、リーシャは体力がなさすぎるのだ。少し動いただけですぐに息が切れる。これでも自主練して少しはマシになったのだが、まだまだ『以前の私』には程遠い。
それと、この、スタイル……。
グラマーな人ってこんなに大変なんだね!!
私、乃亜だった頃は肩が凝ったことなんてなかったし、走ると痛い、って、そんなの都市伝説だと思ってた!
この世界の下着は、中世ヨーロッパの感じと似てるけど、ガッツリとコルセットで固定、っていうほどでもない。だから激しい動きをすると……その……痛い。
何か方法考えないとな。
「先生、もう少しハードなダンスはないんですか?」
私の言葉に、カインが怪訝な顔をする。
「ハードな、って……、良家のお嬢様はそのようなダンスを覚える必要などありません」
そりゃそうか。でもなぁ…、
「私、体力をつけたいの! 体が強ければ、あんな風に倒れたりすることもなくなるでしょう?」
苦しい言い訳だったが、カインは納得したように頷いた。
「そういうことでしたら、まぁ、お教えいたしましょう」
「やった!」
思わず素が出てしまう。
「まったく、お嬢様は無邪気なお方だ」
笑いあう私たちを、屋敷の陰から覗いていたのはアイリーンである。
とにかくアイリーンは、リーシャが気に入らない。
あの日、お菓子のことを指摘されてからというもの、母親に『リーシャには近付くな』と言われているため何も出来ずにいたが、急にダンスを習うと言い出した姉の姿をこうして遠くから見ていると、イライラするのだ。
「なんであんなに楽しそうなのよっ」
姉には不幸になってほしい。
そうすることで、自分の幸せを噛み締めたいアイリーンだった。
「……そうだわ!」
アイリーンは頭に浮かんだ壮大な計画にニンマリ笑うと、その場を後にした。これは、きちんと計画を練る必要がある。用意しなければいけないことも山ほどある。最高の舞台を思いついたのだ。
「ああ、私ったらなんて賢いのかしら!」
スキップしそうな勢いで、部屋へと戻っていったのである。
*****
「パーティー?」
エイデル伯爵に呼ばれて書斎へ行くと、唐突にそんな話を受ける。
「そうだ。アイリーンがどうしても自分とアルフレッドの婚約発表パーティーをしたいと言い出した。異論はあるか?」
それは質問ではなく、ただの報告にしか聞こえない言い方だ。
このマドラ・エイデルという男、なんだかいつもこんな風。上から目線で決めつけてくるし、愛が感じられない。伯爵ってどのくらい偉いのか知らないけど、感じ悪いなーって思っちゃう。
「異論なんか、別に……、」
「そうか。それならいい。ついでにお前の婚約相手になりそうな子息たちを集めようと思っているから、そのつもりで」
「……あ、はい」
そのつもりで?
どのつもり?
は?
よくわかんないけど、集団見合いみたいな話なのかしら?
私、よくわからないまま返事しちゃったけど…ま、いっか。
それにしても、婚約破棄してきた男と妹の婚約パーティーに出席させられた上、次の婚約者候補と集団見合いって……ねぇ?
書斎を出て部屋に戻ろうとしたら、アイリーンに出くわした。あの日以来、私を避けてたみたいだけど、もういいのか。
「お姉様、少しお話いいでしょうか?」
畏まった声で目をウルウルさせるアイリーンを見ていたら、いつかの出来事を思い出す。
ああ、嫌なこと思い出しちゃったのだ……。
30
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた
夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。
そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。
婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる