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第4話 アイドルだった私、黙ってなんかいられない
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陽も傾きかけたころ、部屋をノックする音がした。いよいよご対面だ。
「どうぞ」
ソファから立ち上がりドアを開ける。
マルタがお辞儀をし、中に入ってきた。そしてドアの方に改めて深々とお辞儀をし、外の二人を迎え入れる。
うわ、派手……。
わたし、思わず笑っちゃいそうになって口元に力を籠める。
真っ赤なドレスに身を包んだご婦人。これが継母、シャルナに違いない。化粧も派手で、場末のママみたいな雰囲気。目つきも鋭く、まぁ、美人ではあるけどイメージとしては悪女とか、そっち系だな。気高さとか優雅さからはかけ離れている感じだ。
続く若い女の子。これがアイリーンか。こちらもどぎついピンクのフリフリドレスに身を包み、ハッキリ言って似合ってない。気の強そうな瞳は母親譲り。金色の巻髪は可愛らしく彼女を飾るけど、性格の悪さがにじみ出ちゃってるの、残念。ああ、なんだか見ただけでもう、お近付きになりたくないタイプだとわかる。
そういえば私……リーシャって母親似なんだろうか?
アイリーンとは半分血が繋がってるはずだけど、あまり似ていない。彼女がやや釣り目の狐顔だとすれば、私はやや垂れ目の狸顔。リーシャって、年齢の割のは童顔よね。スタイルはいいけど。髪の色も栗色で、ドストレート。乃亜は癖っ毛でふにゃふにゃだったから、背中まで伸びたサラサラの髪って、憧れだったんだよなぁ。
「あら、もう起きているのね」
労うわけでも心配するわけでもなく、単なる厭味ったらしい口調でシャルナが言う。
「ええ、医師も申しておりましたが、特に異常はないそうです」
ニッコリ笑って答える。
私の態度が意外だったのか、継母シャルナが驚いた顔で目を見開いた。
「お姉さま、どこも悪くなかったの?」
アイリーンが続ける。
そうよね、あなたは私が心配よね。
「そうね、今のところ何も見つかっていないみたい」
私、少し強い口調でそう言ってあげる。アイリーンは目を泳がせ、ふぅん、とだけ言った。
「お茶をお持ちしますね」
マルタがそう言ってお茶のセットを運び入れ、若いメイドと共にお茶会の準備を始めた。
私たちはそれぞれソファに腰を下ろし、注がれたお茶を口にする。
「記憶がないというのは本当なの?」
シャルナが探るような眼で私を見る。私は少し目を伏せ、
「そうなんです。申し訳ありませんが、お母様のこともアイリーンのことも、今初めてお会いしたかのような感覚です」
これは嘘ではない。
「へぇ、何も覚えてないんだ」
あからさまにほっとした顔で、アイリーン。
「ではダリル家との婚約解消の件も?」
「そうですね。私には何の思いもありません。アイリーンが望むのであれば、アルフレッド様との婚約を進めていただいてもよろしいと思います」
私が少しも悲しそうでないことに、アイリーンは納得出来ないようだった。ふてくされたような表情を浮かべ、私を睨みつけた。私は臆することなく続ける。
「あら、アイリーンたらおかしな顔をしているわ。私は二人を祝福します、って言っているのに、どうしてそんな顔を?」
そんなことを言われると思っていなかったのだろう、アイリーンは目に見えて動揺していて、それがとても滑稽だった。
「なっ、なによそれ!」
顔を真っ赤にして立ち上がるアイリーン。
「あら、私ったら勘違いをしていたのかしら。アイリーンは私から婚約者を奪った形になってしまったから心を痛めているのかと思っていたの。折角の婚約というめでたいことを、後ろめたい気持ちで台無しにされては可哀そうだと思っていたのだけど……、」
アイリーンだけではなく、シャルナの顔までみるみる赤く染まる。
「リーシャ! なんという口の利き方なの!」
大きな声で一喝される。
「お気に障ったなら謝りますわ。でもお母様、私が意識をなくす前に、アイリーンからもらったお菓子を口にしていたことが知れたら、もしかしてアイリーンが困ったことになるかもしれないじゃない?」
そう。
リーシャの日記の最後には、婚約破棄を受けて落ち込んでいるのを心配したアイリーンが、お菓子を差し入れてくれたと書いてあった。食べたら少し変な味がした、とも。
もちろん、そんなものとっくに処分されているのでしょうけど。
「あなた、なにをっ」
私に物言いたげなシャルナではあったが、傍らのアイリーンが尋常でないほど震えているのが見え、察したのであろう。シャルナは立ち上がると、アイリーンの手を引いて無言で部屋から出て行ったのだった。
「あら、行っちゃった」
私としては物足りなさも感じたけれど、まぁ、以前のリーシャしか知らない二人にとっては相当なショックだったに違いない。ファーストインパクトとしては、やりすぎですらあったかも……?
「お嬢様!」
部屋の片隅で、固唾を吞んで見守っていたマルタが私に駆け寄る。
「先ほどの話は本当なのですか? アイリーン様が、まさか、」
「ああ、本当だけど、騒ぎ立てないでね。今更だし、そのお菓子のせいで意識を失ったっていう証拠もないし」
ちょっとからかってみただけだし、とはさすがに言えないのでやめておく。
こうして、私の転生人生一日目は怒涛の勢いで過ぎていったのである。
「どうぞ」
ソファから立ち上がりドアを開ける。
マルタがお辞儀をし、中に入ってきた。そしてドアの方に改めて深々とお辞儀をし、外の二人を迎え入れる。
うわ、派手……。
わたし、思わず笑っちゃいそうになって口元に力を籠める。
真っ赤なドレスに身を包んだご婦人。これが継母、シャルナに違いない。化粧も派手で、場末のママみたいな雰囲気。目つきも鋭く、まぁ、美人ではあるけどイメージとしては悪女とか、そっち系だな。気高さとか優雅さからはかけ離れている感じだ。
続く若い女の子。これがアイリーンか。こちらもどぎついピンクのフリフリドレスに身を包み、ハッキリ言って似合ってない。気の強そうな瞳は母親譲り。金色の巻髪は可愛らしく彼女を飾るけど、性格の悪さがにじみ出ちゃってるの、残念。ああ、なんだか見ただけでもう、お近付きになりたくないタイプだとわかる。
そういえば私……リーシャって母親似なんだろうか?
アイリーンとは半分血が繋がってるはずだけど、あまり似ていない。彼女がやや釣り目の狐顔だとすれば、私はやや垂れ目の狸顔。リーシャって、年齢の割のは童顔よね。スタイルはいいけど。髪の色も栗色で、ドストレート。乃亜は癖っ毛でふにゃふにゃだったから、背中まで伸びたサラサラの髪って、憧れだったんだよなぁ。
「あら、もう起きているのね」
労うわけでも心配するわけでもなく、単なる厭味ったらしい口調でシャルナが言う。
「ええ、医師も申しておりましたが、特に異常はないそうです」
ニッコリ笑って答える。
私の態度が意外だったのか、継母シャルナが驚いた顔で目を見開いた。
「お姉さま、どこも悪くなかったの?」
アイリーンが続ける。
そうよね、あなたは私が心配よね。
「そうね、今のところ何も見つかっていないみたい」
私、少し強い口調でそう言ってあげる。アイリーンは目を泳がせ、ふぅん、とだけ言った。
「お茶をお持ちしますね」
マルタがそう言ってお茶のセットを運び入れ、若いメイドと共にお茶会の準備を始めた。
私たちはそれぞれソファに腰を下ろし、注がれたお茶を口にする。
「記憶がないというのは本当なの?」
シャルナが探るような眼で私を見る。私は少し目を伏せ、
「そうなんです。申し訳ありませんが、お母様のこともアイリーンのことも、今初めてお会いしたかのような感覚です」
これは嘘ではない。
「へぇ、何も覚えてないんだ」
あからさまにほっとした顔で、アイリーン。
「ではダリル家との婚約解消の件も?」
「そうですね。私には何の思いもありません。アイリーンが望むのであれば、アルフレッド様との婚約を進めていただいてもよろしいと思います」
私が少しも悲しそうでないことに、アイリーンは納得出来ないようだった。ふてくされたような表情を浮かべ、私を睨みつけた。私は臆することなく続ける。
「あら、アイリーンたらおかしな顔をしているわ。私は二人を祝福します、って言っているのに、どうしてそんな顔を?」
そんなことを言われると思っていなかったのだろう、アイリーンは目に見えて動揺していて、それがとても滑稽だった。
「なっ、なによそれ!」
顔を真っ赤にして立ち上がるアイリーン。
「あら、私ったら勘違いをしていたのかしら。アイリーンは私から婚約者を奪った形になってしまったから心を痛めているのかと思っていたの。折角の婚約というめでたいことを、後ろめたい気持ちで台無しにされては可哀そうだと思っていたのだけど……、」
アイリーンだけではなく、シャルナの顔までみるみる赤く染まる。
「リーシャ! なんという口の利き方なの!」
大きな声で一喝される。
「お気に障ったなら謝りますわ。でもお母様、私が意識をなくす前に、アイリーンからもらったお菓子を口にしていたことが知れたら、もしかしてアイリーンが困ったことになるかもしれないじゃない?」
そう。
リーシャの日記の最後には、婚約破棄を受けて落ち込んでいるのを心配したアイリーンが、お菓子を差し入れてくれたと書いてあった。食べたら少し変な味がした、とも。
もちろん、そんなものとっくに処分されているのでしょうけど。
「あなた、なにをっ」
私に物言いたげなシャルナではあったが、傍らのアイリーンが尋常でないほど震えているのが見え、察したのであろう。シャルナは立ち上がると、アイリーンの手を引いて無言で部屋から出て行ったのだった。
「あら、行っちゃった」
私としては物足りなさも感じたけれど、まぁ、以前のリーシャしか知らない二人にとっては相当なショックだったに違いない。ファーストインパクトとしては、やりすぎですらあったかも……?
「お嬢様!」
部屋の片隅で、固唾を吞んで見守っていたマルタが私に駆け寄る。
「先ほどの話は本当なのですか? アイリーン様が、まさか、」
「ああ、本当だけど、騒ぎ立てないでね。今更だし、そのお菓子のせいで意識を失ったっていう証拠もないし」
ちょっとからかってみただけだし、とはさすがに言えないのでやめておく。
こうして、私の転生人生一日目は怒涛の勢いで過ぎていったのである。
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