光と瘴気の境界で

天気

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レクナ村

レクナ村2

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 村長宅の奥の応接間は、壁一面に古い地図や道具が整然と並んだ、
質素ながら落ち着いた空間だった。

村長・タッドは深く息を吐き、
テーブルを挟んだ向かいの椅子に腰掛けたアルバートとルートに向き直る。

「……ほんとうに、来てくださってよかった。
ここ数日で、状況が急に悪くなりましてな」

アルバートは黙って頷き、
促すように視線を向ける。

タッドは卓上の地図を指でなぞりながら説明を始めた。

「被害が出ているのは、村の西側の森で、
あそこから……じわじわと瘴気が広がってきておりましてな。
最初は“少し空気が淀んでいる”程度だったのですが――
気づけば森に近い家が三軒、畑も幾つか、まるごと飲み込まれてしまいまして」

ルートが眉をひそめる。

「まだ人への直接の被害はないんですが……
いまにも魔物が表に出てきてもおかしくなく、村人も気が休まらんで…男の者が夜も交代で見張りをしております。
子どもや年寄りもおるでな……
どうか、討伐をお願いしたいのです」

言葉の端々ににじむ恐怖と不安。
それでも村を護りたいという意地が感じられた。

アルバートは静かに目を閉じ、
小さく頭を下げた。

「村人の安全は、我々が必ず守る」

その一言で、タッドの顔が少し和らいだ。

ルートは地図を引き寄せ、
すぐにメモ用紙と鉛筆を取り出す。

「瘴気の境界線、おおよその広がり、
家が飲み込まれた位置……
できれば、最近不自然な動物の死骸や、音なども――」

「おお、ある程度は記しておきましたぞ。
ここです。ここ……それとこれも……」

二人は地図を挟んで次々に情報を書き込み、
作戦の骨格を短時間で組み上げていく。

アルバートはそれを眺めながら立ち上がった。

「日没まで少し時間がある。
現地の状況を自分の目で確認する」

ルートもすぐに道具を片付けて立ち上がる。

「結界を張りながら行きましょう。
瘴気の濃度が上がっているなら、
魔物が潜んでいてもおかしくない」

呼ばれた三名の騎士が即座に整列し、
隊長と副隊長の背を追うように外へ出て行った。


***


村の西側へ向かう道は、
昼なのに薄暗く、どこか湿った空気が漂っていた。

村の外の森まで来ると、
その理由がすぐに分かった。

――紫色の靄が、木々の間からゆっくりと流れ出ている。

「この奥が……瘴気の源か」

アルバートは剣の柄に手を置いたまま呟く。

ルートは結界具を取り出し、
周囲に薄い青光の膜を張っていく。

「ええ。……視界は悪いが、魔物の姿はなし。
ただ、気配がまったくないわけじゃない。
この奥に“巣”がある可能性が高いですね」

近づくだけで皮膚がひりつくような気配があった。

騎士の一人が、すぐそこに広がる靄を見て震える。

「これ……2日前の森より濃いかもしれませんね」

ルートは険しい表情で頷いた。

「村がのみ込まれる前に、手を打たないと」

アルバートは紫の靄の奥を見据えたまま、
低く決意のにじむ声で言う。

「日が落ちる前に引き返す。
明日、さらに奥地まで調査し――
必要であればそのまま討伐に入る」

夕光が森に差し込み、
紫の靄を淡く照らしていた。

“何か”が蠢いている気配だけを残し、
魔物の姿は、まだ見えなかった。








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