光と瘴気の境界で

天気

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王都

12

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王城の離宮での生活にも、少しずつ“型”ができてきていた。

朝はセナの診察から始まり、
その後は魔力測定室での検査。
波形、回復速度、外的干渉への反応――
はるはこの一週間で、四度も精密検査を受けていた。

その合間に、国王との謁見。

「疲れてはおらぬか?」
「食事は口に合うか?」

内容は穏やかで、まるで孫を気遣う祖父のようだったが、
はるはどこか落ち着かない気持ちを拭えずにいた。

(……見られてる、というより……量られてるみたいだ)

自分でも言葉にできない違和感だった。



その日の夕刻。

離宮の一室で、アルバート、セナ、ルートが集まっていた。
窓の外では、王都の灯りが静かに瞬いている。

「……二日後、西の瘴気湖」

セナが低く告げる。

「やはり、そう来ましたか」

ルートは肩をすくめた。

「“実戦こそ最良の教育”ってやつだね。
 いかにも陛下らしい」

アルバートは、腕を組んだまま沈黙していた。
その表情は、いつも以上に硬い。

「……早すぎる」

ぽつりと、そう零す。

「はるは、まだ“力”を理解していない。
 使い方以前に、“境界”を知らない」

セナが深く頷く。

「同感だ。
 魔力波形は安定してきているが、
 黒の力は疲労や恐怖に引きずられやすい」

ルートが苦笑する。

「でもさ、陛下はこう言うだろ?」

真似るように、少し芝居がかった口調で。

「“力を使えとは言っておらぬ。
 見て、学べと言っておるのだ”――って」

沈黙。

アルバートは、ゆっくりと息を吐いた。

「……第二騎士団が同行する以上、
 最大限の安全は確保される」

「アルバート?」

「だからこそ、俺が前に立つ」

低く、しかし揺るぎない声だった。

「はるが何も知らずに傷つくことだけは、絶対にさせない」



翌日。

離宮の中庭で、はるはミエルの簡易診察を受けていた。

「うん、問題なし。
 魔力の戻りも、やっぱり早いですね」

ミエルは柔らかく微笑む。

「無理はしないでください。
 君は“回復が早い”だけで、“無限”じゃない」

「……はい」

素直に答えながらも、はるの視線は遠くを見ていた。

(西の……瘴気の湖)

聞いたことのない場所。
でも、アルバートたちの表情が、いつもと違ったことだけは分かる。

その視線に気づき、ミエルが声を落とす。

「……怖い?」

少し考えて、はるは首を振った。

「怖い、っていうより……
 僕が行っていい場所なのかな、って」

ミエルは一瞬言葉に詰まり、
それから、静かに答えた。

「それを決めるのは、本当は君自身だ」

その言葉が、胸に残った。





夜。

アルバートは、はるの部屋を訪れていた。

「……話がある」

ベッドの端に腰を下ろし、
はると目線を合わせる。

「二日後、はると俺たちは西へ向かう。
 瘴気に汚染された湖だ」

はるは、少しだけ緊張した面持ちで頷く。

「うん……」

「お前に戦えとは言わない。
 力を使う必要もない」

アルバートは、はっきりと言った。

「ただ、見るだけだ。
 魔物、瘴気、そして――人がどう戦うのか」

沈黙の後、はるが小さく尋ねる。

「……僕が、行きたくないって言ったら?」

その問いに、アルバートは一瞬も迷わなかった。

「行かなくていい」

「え……?」

「お前の意思を、誰にも踏みにじらせない」

その言葉に、胸がじん、と熱くなる。

はるはしばらく考え、
それから、静かに口を開いた。

「……行く」

アルバートの目が、わずかに揺れた。

「でも、約束してほしい」

「何だ」

「……一人にしないで…」

アルバートは、はるの頭にそっと手を置いた。

「約束する」

その手は、力強く、確かだった。




二日後。

第二騎士団と、黒の力を宿す少年はるは、
王都を後にする。

それは“教育”と称された、
――静かで、危うい一歩目だった。







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