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王都
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しおりを挟む王城の離宮での生活にも、少しずつ“型”ができてきていた。
朝はセナの診察から始まり、
その後は魔力測定室での検査。
波形、回復速度、外的干渉への反応――
はるはこの一週間で、四度も精密検査を受けていた。
その合間に、国王との謁見。
「疲れてはおらぬか?」
「食事は口に合うか?」
内容は穏やかで、まるで孫を気遣う祖父のようだったが、
はるはどこか落ち着かない気持ちを拭えずにいた。
(……見られてる、というより……量られてるみたいだ)
自分でも言葉にできない違和感だった。
◆
その日の夕刻。
離宮の一室で、アルバート、セナ、ルートが集まっていた。
窓の外では、王都の灯りが静かに瞬いている。
「……二日後、西の瘴気湖」
セナが低く告げる。
「やはり、そう来ましたか」
ルートは肩をすくめた。
「“実戦こそ最良の教育”ってやつだね。
いかにも陛下らしい」
アルバートは、腕を組んだまま沈黙していた。
その表情は、いつも以上に硬い。
「……早すぎる」
ぽつりと、そう零す。
「はるは、まだ“力”を理解していない。
使い方以前に、“境界”を知らない」
セナが深く頷く。
「同感だ。
魔力波形は安定してきているが、
黒の力は疲労や恐怖に引きずられやすい」
ルートが苦笑する。
「でもさ、陛下はこう言うだろ?」
真似るように、少し芝居がかった口調で。
「“力を使えとは言っておらぬ。
見て、学べと言っておるのだ”――って」
沈黙。
アルバートは、ゆっくりと息を吐いた。
「……第二騎士団が同行する以上、
最大限の安全は確保される」
「アルバート?」
「だからこそ、俺が前に立つ」
低く、しかし揺るぎない声だった。
「はるが何も知らずに傷つくことだけは、絶対にさせない」
◆
翌日。
離宮の中庭で、はるはミエルの簡易診察を受けていた。
「うん、問題なし。
魔力の戻りも、やっぱり早いですね」
ミエルは柔らかく微笑む。
「無理はしないでください。
君は“回復が早い”だけで、“無限”じゃない」
「……はい」
素直に答えながらも、はるの視線は遠くを見ていた。
(西の……瘴気の湖)
聞いたことのない場所。
でも、アルバートたちの表情が、いつもと違ったことだけは分かる。
その視線に気づき、ミエルが声を落とす。
「……怖い?」
少し考えて、はるは首を振った。
「怖い、っていうより……
僕が行っていい場所なのかな、って」
ミエルは一瞬言葉に詰まり、
それから、静かに答えた。
「それを決めるのは、本当は君自身だ」
その言葉が、胸に残った。
◆
夜。
アルバートは、はるの部屋を訪れていた。
「……話がある」
ベッドの端に腰を下ろし、
はると目線を合わせる。
「二日後、はると俺たちは西へ向かう。
瘴気に汚染された湖だ」
はるは、少しだけ緊張した面持ちで頷く。
「うん……」
「お前に戦えとは言わない。
力を使う必要もない」
アルバートは、はっきりと言った。
「ただ、見るだけだ。
魔物、瘴気、そして――人がどう戦うのか」
沈黙の後、はるが小さく尋ねる。
「……僕が、行きたくないって言ったら?」
その問いに、アルバートは一瞬も迷わなかった。
「行かなくていい」
「え……?」
「お前の意思を、誰にも踏みにじらせない」
その言葉に、胸がじん、と熱くなる。
はるはしばらく考え、
それから、静かに口を開いた。
「……行く」
アルバートの目が、わずかに揺れた。
「でも、約束してほしい」
「何だ」
「……一人にしないで…」
アルバートは、はるの頭にそっと手を置いた。
「約束する」
その手は、力強く、確かだった。
二日後。
第二騎士団と、黒の力を宿す少年はるは、
王都を後にする。
それは“教育”と称された、
――静かで、危うい一歩目だった。
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