光と瘴気の境界で

天気

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王都

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王都西門。

朝靄の中、第二騎士団の隊列が静かに整えられていく。
馬の鼻息、金属が触れ合う微かな音、張り詰めた空気。

その中央――
外套とフードに身を包んだはるが立っていた。

(……本当に、行くんだ)

胸の奥で小さく鼓動が強まる。

「緊張してる?」

隣から、ルートが軽い調子で声をかけてくる。

「少し……」

「そっか。でも大丈夫だよ」

いつもの柔らかな笑顔。
だが、その瞳は前方を鋭く捉えている。

「ここにいる全員が、はるを守るためにいるんだから」

はるは小さく頷いた。





アルバートは馬上から隊列を見渡していた。

――異変は、まだない。

瘴気湖までは半日強。
途中の地形は比較的安定しているが、油断はできない。

「団長」

セナが馬を寄せてくる。

「はるの魔力波形、今は落ち着いている。
 だが、瘴気が濃くなれば反応が出る可能性がある」

「分かっている」

アルバートは短く答える。

「前兆が出たら、即引き返す」

「……本当に、それでいいのか?」

セナの声は低かった。

「…陛下は“見るだけ”と言ったが、
 黒の力は“見るだけ”で済むとは限らない」

アルバートは視線を落とし、
馬車の中のはるを見る。

それ以上は、何も言わなかった。





進むにつれ、空気が変わっていく。

草の色がくすみ、
風がどこか重く、冷たい。

はるは馬車の窓から外を眺めながら、
胸の奥がざわつくのを感じていた。

(……なんだろう……)

理由は分からない。
だが、“呼ばれている”ような感覚。

――きみは、まだ終わっていない。

夢の中で聞いた、あの声が蘇る。

はるは思わず胸元を押さえた。

「……はるくん?」

向かいに座るミエルが、すぐに気づく。

「大丈夫?」

「はい……ちょっと、変な感じがして」

ミエルは即座に簡易測定具を取り出す。

「……魔力波形が、わずかに共鳴してる」

「共鳴……?」

「外部魔力だ。
 瘴気……いや、もっと根に近い」

ミエルは表情を引き締め、
窓の外を見る。

「湖が近いな」





正午前。

一行は、小高い丘の上で馬を止めた。

眼下に広がるのは――
不気味なほど静かな湖。

水面は黒ずみ、
周囲の木々は枯れ、空気が歪んでいる。

「……これが、瘴気湖」

ルートが低く呟く。

「近づくだけで、嫌な感じがするね」

アルバートは即座に号令を出した。

「ここで小休止。
 これ以上は歩兵で進む」

騎士たちが素早く動き出す中、
はるは、湖から目を離せずにいた。

(……知ってる)

初めて見るはずなのに、
どこか懐かしい。

胸の奥が、じり、と熱を帯びる。

「はる」

アルバートがそばに来て、
低い声で呼びかける。

「無理はするな。
 違和感があったら、すぐ言え」

「……アル」

はるは、迷いながらも口を開いた。

「ここ……
 “見てる”気がする」

その瞬間。

湖の黒ずんだ水面が、
――わずかに、波打った。

風もないのに。

それを見ていた騎士たちが一斉に武器に手をかける。

「……来るぞ」

セナの声が鋭く響く。

瘴気が、濃く、脈動する。

はるの胸の奥で、
黒の力が――静かに、目を覚ました。

それはまだ、発動ではない。
だが確かに、“応答”だった。

アルバートは、即座にはるの前に立つ。

「下がれ」

その背中は、揺るがない。

――実戦を“見るだけ”のはずだった。

だが、世界はもう、
はるを“観測者”のままにしてはくれなかった。

次の瞬間、
湖の中心から――
異形の影が、ゆっくりと姿を現す。







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