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王都
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しおりを挟む夜の冷気が、焚き火の熱と混じり合いながら野営地を包んでいた。
渓谷の方角から漂っていた瘴気は、セナの結界によって完全に遮断されている。
アルバートは、はるを腕に抱いたまま、自分のテントへと戻った。
抱き上げた身体は軽く、微かに震えている。
「……アル………?」
半分眠ったままの、掠れた声。
「起こしたな」
短く答え、そっと地面に膝をつき、毛布の上へはるを寝かせる。
ミエルがすぐ横に座り、魔力水晶を取り出した。
「……アルバート団長が触れてから、波形が整い始めていますね。」
淡く揺れる光の線が、安定したリズムを刻む。
「さっきまでの乱れが嘘のようだ……」
セナが低く唸る。
「“呼ばれてる”って言ってたな」
「ああ」
アルバートは、はるの手を離さなかった。
「瘴気に近づくほど、黒の力が反応する。俺たちよりも瘴気の影響は大きい。
だが――俺に触れている間だけ、沈静化する」
沈黙が落ちる。
風が、テントの外を静かに通り過ぎた。
「……相性、いや……」
ミエルが言葉を探すように眉を寄せる。
「共鳴、でしょうか。
黒の力が、アルバート団長の魔力――あるいは“存在”そのものに、反応している」
「俺は魔法使いじゃない」
「それでもです。
あなたの魔力は、極めて安定している。
揺らぎがほとんどない……まるで“錨”のようだ」
その言葉に、セナが目を細めた。
「錨……か。
確かに、黒の力は深層魔力だ。
不安定なままでは、どこへでも引きずり込まれる」
アルバートは、はるの額に触れる。
少し冷たい指先に、はるが安心したように息を整える。
「……俺がそばにいる限り、呼ばれないということか」
「完全ではないでしょう」
ミエルは正直に答えた。
「ですが、少なくとも“暴走”や“引き寄せ”は抑えられます」
セナが静かに息を吐いた。
「……王の言う“見て学ぶ”どころじゃないな。
黒の力は、世界そのものに繋がっている」
「…渓谷に、何かがいる」
アルバートの声は低く、確信に満ちていた。
「黒の君――
あれは、はるを“器”として呼んでいる」
その言葉に、誰も否定しなかった。
はるが、微かに身じろぎする。
「……いかない……?」
「行かせない」
即答だった。
「約束する」
その言葉に応えるように、
はるの呼吸は完全に整い、深い眠りへと落ちていく。
⸻
夜明け前。
見張り台の向こう、渓谷の瘴気が、ほんの一瞬だけ――
脈打つように揺れた。
まるで、次の機会を待つかのように。
アルバートはその気配を、微かに感じ取っていた。
はるの手を握りながら、
アルバートは、決意を新たにする。
この少年を――はるを、
世界の都合で、失いたくない。
たとえ、相手が“世界の深層”そのものであっても。
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