光と瘴気の境界で

天気

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王都

23




 


 夜明けとともに、野営地は静かに目を覚ました。
 空は薄く白み、渓谷の向こうにはまだ重たい瘴気が溜まっているのが見える。

 アルバートは、一晩ほとんど眠らずにいた。
 はるは彼の外套を半分借りるようにして眠っている。小さな体が、規則正しい呼吸を刻んでいた。

「……熱は下がってるな」

 セナが低く告げる。

 ミエルも頷いた。

「魔力波形も安定しています。昨夜、渓谷の方向へ引き寄せられていた反応は、今はほとんどありません」

「アルバートが触れている間だけ、な」

 ルートが腕を組み、朝靄の向こうを見つめる。

「……離した瞬間、また呼ばれる可能性は?」

「否定はできない」

 セナは正直だった。

「特に、この先。
 湖に近づけば、黒の力はより強く反応する」

 アルバートは、はるの髪にそっと触れる。
 黒髪は、朝の光を吸い込むように静かだった。

「予定を変える」

 短く、だが揺るぎない声。

「湖の縁までは行かない。
 瘴気の濃度を測り、状況確認だけで引き返す」

 カエルスが不満気に片眉を上げる。

「団長。黒の力は、制御以前の段階です。
 今は“呼応”の法則を解くのが先決でしょう」

「呼応だと?」

「はい。」

 ミエルは魔力水晶を指で弾いた。

「瘴気、黒の力、そして――
 アルバート団長」

 全員の視線が集まる。

「三者の関係が、どうにも歪です。
 瘴気は黒の力を呼び、
 黒の力ははるを通して動こうとする」

「だが、アルバートがいると止まる」

 セナが続ける。

「まるで、遮断する存在がいるみたいだ」

 カエルスは腕を組みながら静かに聞いた。

 アルバートがはるの手を握り直すと
 はるが小さく目を覚ました。

「……ア、ル……?」

 まだ寝惚けた声。

「起きなくていい」

「……いま……ここ……?」

「そうだ。まだ森の中だ」

 はるはゆっくり瞬きをし、周囲を見回す。

「……夢、みた……」

 アルバートの指に、微かに力が込められる。

「怖かったか?」

 はるは、少しだけ考えてから、首を横に振った。

「……こわく、なかった……
 でも……行こうって……言われた……」

「誰に」

「……わからない…でも、声が聞こえた……」

 セナとミエルが顔を見合わせる。

「……昨日より、落ち着いている」

「……?」

 はるが不安そうにアルバートを見る。

 アルバートは、はるの額に自分の額を軽く当てた。

「俺はここにいる」

 その言葉に、はるの肩から力が抜けた。

「……なら……だいじょうぶ……」

 再び、はるは目を閉じる。


 ⸻

 出発の準備が整い、一行は静かに歩き出した。

 渓谷へ続く道の先――
 瘴気が、朝の光の中で不気味に揺れている。

 誰も口には出さなかったが、
 全員が感じていた。

 この“黒の力”は、
 瘴気を祓うために生まれたものではない。

 もっと古く、
 もっと深く――

 世界が、壊れるのを止めるための力だ。

 そして、
 それを“目覚めさせてはならない理由”が、
 必ず存在する。

 









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