光と瘴気の境界で

天気

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王都

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丘での三日目の夜は、前夜よりも静かだった。
空には雲一つなく、星々が澄んだ光を放っている。

はるは焚き火のそばに敷かれた毛布の上で、膝を抱えて座っていた。
身体は回復しているはずなのに、胸の奥に残る小さな棘のような感覚が、どうしても消えない。

――役に立ちたい。
――でも、力を使えば、また誰かを心配させる。

相反する思いが、静かに揺れていて
どうしたら使える様になるのか、答えの出ない問答を1人繰り返していた。

「……眠れないか」

気づけば、隣にアルバートが立っていた。
夜の闇の中でも、その存在感ははっきりとわかる。

「……うん。少しだけ」

アルバートは無言で腰を下ろし、焚き火を見つめる。
炎の赤が、冷たい横顔をわずかに照らした。

「……昨日のことか」

「…うん……」

短いやり取り。それだけで、気持ちは伝わっていた。

アルバートは、しばらく黙っていたが、やがてぽつりと言った。

「…俺も昔、同じことを考えた」

はるが、驚いて顔を上げる。

「強くなれば、全部守れると思っていた。
 速く動ければ、誰も傷つかないと」

焚き火が、小さくはぜた。

「だが……現実は違った」

アルバートは自分の掌を見つめる。

「強さには、必ず“代償”が伴う。
 守れた命より、守れなかった命の方が、長く残る」

その言葉には、重みがあった。

「はる」
彼はゆっくりとこちらを見る。
「お前の力は……まだ“刃”に近い」

「刃……?」

「使えば、必ず何かを切る。
 敵だけじゃない。自分も、周囲もだ」

はるは、あの時の光を思い出した。
眩しすぎて、怖くて、意識を失ったあの瞬間。

「だから今は」
アルバートは静かに続ける。
「振るわなくていい。
 握り方を、覚える時だ」

「……握り方……」

「離さないこと。
 暴れさせないこと。
 そして――独りで抱え込まないこと」

その最後の言葉に、はるの胸が、きゅっと締まった。

「……アルは……」

言葉を探しながら、はるは尋ねる。

「僕が……怖くないですか……?」

一瞬の沈黙。

だが、アルバートは迷わなかった。

「怖い」

はるの心臓が跳ねる。

「だが」
アルバートは、はるの頭にそっと手を置いた。
大きく、冷たい手のひら。けれど、触れ方は驚くほど優しい。

「恐れるべきは、力じゃない。
 それを、独りで背負わせることだ」

その手があるだけで、胸のざわつきが、すっと静まっていく。

(……また……)

(アルバートのそばだと……)



翌朝。

セナが記録板を確認し、眉をひそめる。

「……やっぱりな」

「どうした?」
ルートが覗き込む。

「はるの魔力波形、夜間は少し乱れたが……
 アルバートが近くにいた時間帯だけ、完全に安定してる」

いつの間にか、ずっとみていなくても自動で魔力波形を記録できる様に改造された魔力波形を見る機械の記録板を
ミエルも覗き込み、眼鏡の奥で目を細める。

「やはり、これはもう偶然ではありませんね。
 同調……いや、“錨”だと言って良いでしょう。」

「錨?」
ルートが首を傾げる。

「暴走しやすい力を、現実に繋ぎ止める存在のことだ。」

ミエルは静かに言った。

「黒の力が深層魔力なら、なおさらだ」

セナは腕を組み、アルバートを見る。

「……自覚はやっぱりないのか?」

「ない」

即答だった。

「だが……近くにいると今の波形が下降しているのか上昇しているのかは分かる。
そこに俺の魔力を展開すると、はるが落ち着くのは、確かだ」


はるはその会話を、少し離れたところで聞いていた。

自分の力が危険であること。
それを“一緒に抱える”人がいること。

(……独りじゃ、ない……)

胸の奥に、静かな決意が芽生える。

――今はまだ、できないことの方が多い。
――でも、逃げない。

アルバートの背中を見つめながら、はるは小さく拳を握った。

(いつか……)
(ちゃんと……守れるように……)








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