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体力測定 朝陽
しおりを挟む体育館に入った瞬間、小鳥遊朝陽は小さく息を吸った。
広い空間。反響する声。床の冷たさ。
それだけで、少し緊張してしまう。
(だ、大丈夫……体力測定だけだし……)
そう自分に言い聞かせながら、列の最後尾に並ぶ。
前の方では、湊翔がすでに測定を終え、あちこちで小さなどよめきが起きていた。
「湊翔様は手を抜かれても…流石です…!!!」
そんな声が耳に入るたび、朝陽は無意識に肩をすくめる。
(ぼ、僕は……普通でいいから……)
最初は反復横跳び。
指定された位置に立ち、白線を見つめる。
足元を確認して、深呼吸。
「よーい、始め!」
笛が鳴った瞬間、朝陽は必死に左右へ跳ぶ。
——右、左、右、左。
(……?)
数秒経ったあたりで、頭と足がずれ始めた。
(右……? 左……?)
線は踏んでいる。
でも、自分がどちらへ跳んでいるのか、一瞬分からなくなる。
「朝陽様、今の逆じゃ……」
「頑張れー」
???となりながらも、朝陽は止まらない。
必死に線だけを見て、身体を動かし続ける。
終了の合図。
「はぁ……はぁ……」
息を切らしながら立ち上がる朝陽を見て、周囲から小さな笑い声と見守るような視線。
「迷子になってましたよね?」
「かわい……」
記録は、ちょうど生徒の平均くらい。
(よ、よかった……)
次は握力測定。
機械を渡され、両手でぎゅっと握る。
目も一緒に瞑ってる事に気づいてないようだ。
指先に力を込めるが、数字は思ったほど伸びない。
「……平均より、少し下かな」
教員の言葉に、朝陽はしゅんとする。
(やっぱり……)
だが、周囲の反応は違った。
「細いのに頑張ってる」
「守りたい……」
聞こえてしまい、朝陽は恥ずかしさとほんの少し悔しい気持ちで耳まで赤くなる。
上体起こし、長座体前屈も、無理のない範囲で受けていく。
どれも飛び抜けてはいないが、手を抜くこともない。
そして、最後のシャトルラン。
朝陽はラインに立ち、胸に手を当てる。
(ここ……きついやつ……)
電子音が鳴り、走り出す。
最初は順調だった。
だが、回数が増えるにつれ、呼吸が早くなる。
「はっ……はっ……」
胸が苦しい。
足も重い。
それでも、線だけは踏み続ける。
(もう少し……もう一回……)
周囲から、声が飛ぶ。
「無理しなくていいよー!」
「朝陽様、頑張って……!」
「朝陽様ぁ倒れてしまうのでは…!」
その声に背中を押されるように、朝陽は限界まで走った。
——ピッ。
最後の音に間に合わず、朝陽はその場に膝をつく。
「……ここまででいい」
点数は8。
最高ではない。
でも、朝陽は小さく笑った。
(……頑張った)
息を整えながら立ち上がると、あちこちから囁き声が聞こえる。
「かわいい……」
「一生懸命すぎて、守りたい……です」
「生徒会の癒し枠だよね……」
朝陽はますます小さくなりながら、タオルで顔を拭いた。
少し離れた場所で、蓮がその様子を見ていた。
(……無理しすぎ)
だが、同時に思う。
(それでも、最後まで走るところが……)
朝陽は気づかない。
自分が結果以上に、周囲の心を掴んでしまっていることに。
平均で、必死で、少し不器用。
それでも全力で向き合う。
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