巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ

文字の大きさ
5 / 9
第一部 王国に召喚された魂約者

5.残念美少女ふたたび!陰キャの安息は長続きしない

しおりを挟む
俺はいま、あてがわれた客室にいた。

分厚いカーテンは重そうなのに光を柔らかく通し、窓辺には透けるようなレースが二重にかかっている。寝台は絹のようにすべすべしたシーツにふかふかの羽毛布団。大理石の床の上には、豪奢な模様が織り込まれた絨毯が一面に敷かれていた。壁にはよくわからないけど高そうな絵画や花瓶が飾られ、空気すら違う気がする。

どう見ても庶民の俺には不釣り合いな、異世界仕様のハイグレードルームだ。ベッドに体を投げ出して「ふぅ~」と一息つきたいのに、逆に落ち着かない。シーツを汚そうものなら「弁償しろ」なんて言われかねない、そんな恐怖感が先に来る。陰キャ特有の被害妄想かもしれないけど。

だって怖いじゃん? ジュースでもこぼしたら「金貨十枚ね!あ、日本円だと100万円だからよろしくね!」って言われるかもしれないじゃん!?
いや、ここの貨幣価値はしらんけどさ……
しかもここ異世界だから、奴隷制度とか普通にありそうだし。「払えないなら働いて返せ」って鎖でつながれる未来が頭をよぎる。

「……まあ、あの王様ならそんなこと言わないだろうけどさ」

ぽつりと呟いた声は誰に届くこともなく、広すぎる部屋に溶けていった。

――あの後、国王から話を聞いたクラスメイトたちの反応は、実に様々だった。

まず赤城。さっきまで「誘拐だ!」と怒鳴り散らしていたのに、何かを思いついたのか口元をニヤリと歪めた。

「……向こうより好き勝手できそうだよな」

なんて呟きが聞こえた俺はゾッとした。完全に悪役フラグじゃねーか。漫画なら背景にドクロとか黒いオーラが出てるやつだ。けどその後は何かを考え込むように黙り込み、別人みたいに静かになった。……うん、赤城は赤城で勝手に生き残りそうだな。ラスボスの隣に立ってても違和感ない。

次に天条院。彼は目を閉じ、片手を口元にあてながら、まるで哲学者みたいに難しい顔をしていた。光の加減で横顔がやたらと絵になるのが腹立つ。やっぱりこういう時でも動じないのは、陽キャの王子様ポジションはが板についてるからか?
絶対に異世界チートもらって「救世の勇者」とか呼ばれるタイプだ。なんだかんだで男子グループは大丈夫そうに思えた。

問題なのは女子グループだよな。この先どうするか考える余裕なんてないだろう。

一番ショックを受けていたのは柊だった。

「会いたいよ……お父さん……お母さん……美鈴……」

そう言って泣き崩れる姿は、さすがに胸にくる。普段しっかり者で真面目な彼女が、子供みたいに嗚咽するのは見ていられなかった。羽里はそんな柊を必死に慰めていた。驚いたのは、羽里の目からは涙がこぼれていなかったことだ。

≪……きっと、柊が泣いてるから泣けなかったんだろうな≫

強がりなのか、責任感なのか。ともあれ彼女は冷静さを保っていた。柊に寄り添いながら、背中をさすって「大丈夫だよ」と何度も繰り返すその姿は、いつもの明るさとはまた違う強さを感じさせた。

国王は俺たちに気を遣ってくれたのか、「気持ちを整理する時間も必要だろう。今日はゆっくり休むとよい。」と告げて、その場は解散になった。

勇者召喚というからには、もっと切羽詰まった状況を想像していたけど、意外と余裕があるらしい。正直ありがたい。俺も心の整理が追いついていないし。

……というか。俺だってやり残したことが山ほどある。

特にゲーム。
小遣いをかき集め、深夜に公式ショップでポチった新作RPG。発売日まで毎日PVを見ては「神ゲー確定!」とわくわくしてたのに、まだチュートリアルも終わってない。
それに、課金しまくって育て上げたソシャゲの推しキャラたち。限定衣装を手に入れるためにお年玉をすべて突っ込み、天井までガチャ回したってのにさ。

あれらが全部、水の泡になったと思うと……。

≪くっそ! 思い出したら絶望してきたぞ……≫

布団に頭を突っ込み、バタバタと手足を動かして悶える俺。陰キャの絶望は、こうして地味に爆発する。誰にも見られてないのが救いだ。

ふと――家族の顔が脳裏をよぎった。

「父さん……母さん……じいちゃん。元気にしてるかなぁ」

だけど同時に思い出す。この世界に来た時点で、俺は向こうの人たちの記憶から消えている。誰も俺のことを思い出さない。存在の痕跡は、きれいさっぱり消えているのだ。

「……はぁ」

ため息が漏れる。しんみりするなってことは分かってるけど、心は勝手に沈んでいく。

「どうするかなぁ、これから……」

天井を見上げながらつぶやく。

「異世界だから魔法とかスキルがあるだろしなぁ。そっちに熱中すれば、余計なことを考えずに済むかもな」

俺がそんなことを言った直後だった。

――外がやけに騒がしい。

「皇女様! こ、困ります!!」
「お願い! とっても大切な話があるの!!」
「いえ、そんなことを言われましても!」
「大丈夫! 国王様からちゃんと許可取るから!」
「許可を取られていないのですか!? って、あ! 皇女様!!」

……あれ? この声、聞き覚えがある。

俺はがばっと起き上がる。
「今度はなんだよ……」と呟いた瞬間――。

――ドンッ!

木製の扉が勢いよく開かれた。俺の目の前に飛び込んできたのは、桃色がかった銀髪をなびかせる“残念美少女”。

「会いたかったよぉ~~~!!!」

両手を広げ、全力疾走で突撃してくるその姿に、俺は反射的に叫んだ。

「うわっ、またこの展開かぁぁぁ!!!」

◆シンシアの視点◆

あぁ~、なんでかな! なんでかな!?
胸の奥から湧き上がるこの気持ちが、ぜんぜん収まらない。心臓が暴れて、息が苦しいのに、全然嫌じゃない。むしろ幸せで怖いくらい……。

「はぁ~……いい加減落ち着かんか、シアよ」
お姉さまが呆れたようにため息をつく。けれど私はそれどころじゃない。

「落ち着いてなんて居られないよお姉さま! 胸がいっぱいで、息苦しいのに……でも苦しくない。不思議で幸せで、でもあの人がいないのが不安で居ても立ってもいられないの……!」

あの時の抱きしめた感覚が、まだ全身に残っている――。

「……あ、でも。なんか下半身に硬いものが当たってた気がし……。」

だけど私の言葉は突然の衝撃に最後まで言えなかった。

ドゴンッ!

「それは即刻忘れよ!」

お姉さまの鉄拳が降り、私の顔はテーブルにめり込んだ。

「姉さん、流石に備品を壊すのはよくないよ」
お兄様が苦笑混じりに言うと、お姉さまも当然のようにうなずいて、召喚の魔で床を修復したアイテムをさらりと取り出す。

「うむ、確かに借りている客室を壊すのは良くないな」

……ちょっと待って!? 私の心配より調度品!? 顔面から突っ込んだんだよ!? 妹にすることかなこれ!?

そう抗議しようと思ったんだけど、今度はお兄様がぞくりとするような笑みを私に向けてきた。

「――そしてシア?」
「は、はいっ!」

私は反射的に姿勢を正す。ひぃ……な、なんで? お姉さまもお兄さまも、あの人に会ってからちょっと怖くなってない?

「さっき言ってた“黒髪の彼が触れていた部分”は、決して誰にも言ってはいけないし、忘れなさい。いいね?」

あわわ……コクコク、と首を縦に振ることしかできなかった。

≪……でも、仲良くなった時にあの人本人に聞いてみれば……≫

「仮に仲良くなってもダメだよ?」
「え? なんで??」

私は小首をかしげる。するとお姉さまもお兄さまも顔を赤くしてそっぽを向いた。いつもこういうことすると、なぜか視線を逸らされるんだよね。家庭教師の先生に相談したら「時と場所を考えれば問題ないので、そのままで!」って返されたし……。

「それは彼の尊厳を守るために必要なことだからかな」
呆れたようにお兄様が言った。

「そ、それなら忘れる! あの人を傷つけたくないもん!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

謎の最強師匠に弟子入りしたけれど、本当にこの師匠は何者なのだろう~最強を目指す少年が、謎の強すぎる師匠に弟子入りする話~

星上みかん(嬉野K)
ファンタジー
この作品は、 【カクヨム(完結済み)】 【ノベルアップ+】 【アルファポリス】 に投稿しております。 最強を目指す少年エトワールが町に行き着くと、メル・キュールという女性と出会う。 メルが道場主らしいという情報を仕入れたエトワールは、弟子入りを決意する。 それにしても、この師匠強すぎない? タフなことだけが取り柄の少年が最強を目指すお話。

魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~

仙道
ファンタジー
現代日本で天才研究者だった相模登(さがみ のぼる)は、ある日突然、異世界へ転移した。  そこは『スキル』と『魔力』が全てを決める世界。   しかし登には、ステータス画面もなければ、魔力も、スキルも一切存在しなかった。   ただの一般人として迷宮に放り出された彼は、瀕死の女騎士と出会う。彼女の前には、使う者の命を瞬時に吸い尽くす『呪いの魔剣』が落ちていた。   武器はそれしかない。女騎士は絶望していたが、登は平然と魔剣を握りしめる。 「なぜ……生きていられるの?」  登には、剣が対価として要求する魔力は存在しない。故に、魔剣はデメリットなしの『ただのよく切れる剣』として機能した。   これは、世界で唯一「対価」を支払う必要がない登が、呪われた武具を次々と使いこなし、その副作用に苦しむ女騎士やエルフ、聖女を救い出し、無自覚に溺愛されていく物語。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

「魔物の討伐で拾われた少年――アイト・グレイモント」

(イェイソン・マヌエル・ジーン)
ファンタジー
魔物の討伐中に見つかった黄金の瞳の少年、アイト・グレイモント。 王宮で育てられながらも、本当の冒険を求める彼は7歳で旅に出る。 風の魔法を操り、師匠と幼なじみの少女リリアと共に世界を巡る中、古代の遺跡で隠された力に触れ——。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

処理中です...