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婚約披露はとても盛大だった。
2組が一緒に執り行うのだ、当然だろう。
ミラーと婚約者のアルシュは腕を組み満面の笑顔で招待客に話しかけていた。
もう1組の主役である筈のハンズは、作り笑いを必死に浮かべながら自分の腕に絡むグルンナを、どうにか振りほどこうと無駄な努力をしているのがよくわかった。
ふと、リーヤを見つけたハンズは石のように固まり凝視した。
(バカな男ね)
ふんわりと微笑み、そうして、隣に立つ恋人により近づいた。
「リーヤ、待ってくれ!」
この祝福の中、グルンナの腕を思いっきり払いハンズは血相を変えてリーヤに近づいてきた。
愚かな行動だ。
(今更何も変わらないわ)
「婚約、おめでとう」
荒く息をしながら血走った瞳を向けてくる、元婚約者は私の一言に、無様な雰囲気を醸し出していた。
どれだけ素敵な衣装を身につけ、どれだけ容貌を整えても、人の感情がそれを一瞬にして瓦解する。
悲しみと怒りと、悔しさと、諦めと、そして、無駄なく足掻き。人間の醜い姿の全てがそこにあった。
「君もグルだったんだろ!?」
「グル、とは酷い言い草ね。それに、ここで話す内容かしら?今日はあなたの婚約披露なのよ。それに」
そこで言葉を切ると、リーヤはハンズに満面の微笑み向けた。
「愛し合っている、と囁いたのでしょう?だからこそ、私は婚約解消をしたのよ。それに、いつ、あなたがミラーと付き合っている、となったのかしら?」
言い終わると、ハンズは真っ青な顔になりふらふらとグルンナの元へと戻って行った。
グルンナの勝ち誇った笑みでハンズを迎え、リーヤには感謝の会釈を見せた。
(お幸せに。運命の相手なのでしょう?)
くすくすと、リーヤは楽しそうに笑一気にワイングラスを飲みほした。
「機嫌がいいね」
「当たり前でしょ?気分がとてもいいわ。だって、2組の恋路を助けてあげたのだもの」
「僕達も入れたら3組、だろ?」
「そうね」
リーヤとハンズが婚約して直ぐに、友人がグルンナの存在を教えてくれた。ハンズはグルンナと3年も前から男女の関係を持っていたのだ。
人の噂までのぼるという事は表だった行動をしているからこそだろう。
確かにリーヤは恋人という存在はいなかったし、特に誰と婚約しても問題ない、と思っていた。
それは、伯爵令嬢として産まれた自分の地位と、家を、重んじた考えだった。
本当なら、慕っていた男性がいた。
だが、相手は子爵の為、あまりにお互い身分が違い諦めていた。
ところが、ハンズの相手は男爵令嬢で、3年も付き合っている。
正直聞いた時は動揺したが、それでも、本当に愛しているのなら、愛人としておけばいい、も密かに思いあえて黙認していた。
それなのに、婚約してひと月経った頃、ミラーから手紙がやってきた。
友人であるグルンナの恋人が、私に求婚してきた。助けて欲しい、と。
愕然とした次の瞬間、怒りに腹が立った。
ミラーが男爵でありながらも、求婚したと言うことは、グルンナは、遊びだったのだ。
そうして、この計画を3人で考えだ。
ハンズはミラーのグルンナが友人だと知らなかった。
そうして、ミラーの恋人が、グルンナの兄だ、とも知らなかった。
いや、そんなものだろう。家同士の付き合いならともかく、個人の付き合いならどこまで探れる?
ましてや、
恋仲は秘密で、
と言われれば、あえて探るのは難しいだろう。
ハンズとミラーの仲を、一切黙秘する事を約束したのだから、後は簡単だ。
ハンズとグルンナの既成事実を発覚させればいい。
寝室で幾度も、愛している、と囁いてくれた、
そう泣きじゃくったグルンナ。
同じように、立場が違うと諦めていたのに、友人に愛を告げたハンズを見て、どれだけ辛かっただろう。
でも今はとても嬉しそうに微笑み参加者に向けている。
だが、ハンズの愚行のお陰で自分は幸せになれた。マルグルの事を家族に話すと思いのほかすんなりと許してくれた。
(どちらが幸せなのかしら?)
憎しみの瞳でグルンナを睨みつける、ハンズ。
無理やり足枷をつけ、押さえつけたグルンナ。
2人を見ながら、ふふ、とまた笑いがもれる。
「帰ろうか」
「そうね」
そういうと2人はホールを出た。
2組が一緒に執り行うのだ、当然だろう。
ミラーと婚約者のアルシュは腕を組み満面の笑顔で招待客に話しかけていた。
もう1組の主役である筈のハンズは、作り笑いを必死に浮かべながら自分の腕に絡むグルンナを、どうにか振りほどこうと無駄な努力をしているのがよくわかった。
ふと、リーヤを見つけたハンズは石のように固まり凝視した。
(バカな男ね)
ふんわりと微笑み、そうして、隣に立つ恋人により近づいた。
「リーヤ、待ってくれ!」
この祝福の中、グルンナの腕を思いっきり払いハンズは血相を変えてリーヤに近づいてきた。
愚かな行動だ。
(今更何も変わらないわ)
「婚約、おめでとう」
荒く息をしながら血走った瞳を向けてくる、元婚約者は私の一言に、無様な雰囲気を醸し出していた。
どれだけ素敵な衣装を身につけ、どれだけ容貌を整えても、人の感情がそれを一瞬にして瓦解する。
悲しみと怒りと、悔しさと、諦めと、そして、無駄なく足掻き。人間の醜い姿の全てがそこにあった。
「君もグルだったんだろ!?」
「グル、とは酷い言い草ね。それに、ここで話す内容かしら?今日はあなたの婚約披露なのよ。それに」
そこで言葉を切ると、リーヤはハンズに満面の微笑み向けた。
「愛し合っている、と囁いたのでしょう?だからこそ、私は婚約解消をしたのよ。それに、いつ、あなたがミラーと付き合っている、となったのかしら?」
言い終わると、ハンズは真っ青な顔になりふらふらとグルンナの元へと戻って行った。
グルンナの勝ち誇った笑みでハンズを迎え、リーヤには感謝の会釈を見せた。
(お幸せに。運命の相手なのでしょう?)
くすくすと、リーヤは楽しそうに笑一気にワイングラスを飲みほした。
「機嫌がいいね」
「当たり前でしょ?気分がとてもいいわ。だって、2組の恋路を助けてあげたのだもの」
「僕達も入れたら3組、だろ?」
「そうね」
リーヤとハンズが婚約して直ぐに、友人がグルンナの存在を教えてくれた。ハンズはグルンナと3年も前から男女の関係を持っていたのだ。
人の噂までのぼるという事は表だった行動をしているからこそだろう。
確かにリーヤは恋人という存在はいなかったし、特に誰と婚約しても問題ない、と思っていた。
それは、伯爵令嬢として産まれた自分の地位と、家を、重んじた考えだった。
本当なら、慕っていた男性がいた。
だが、相手は子爵の為、あまりにお互い身分が違い諦めていた。
ところが、ハンズの相手は男爵令嬢で、3年も付き合っている。
正直聞いた時は動揺したが、それでも、本当に愛しているのなら、愛人としておけばいい、も密かに思いあえて黙認していた。
それなのに、婚約してひと月経った頃、ミラーから手紙がやってきた。
友人であるグルンナの恋人が、私に求婚してきた。助けて欲しい、と。
愕然とした次の瞬間、怒りに腹が立った。
ミラーが男爵でありながらも、求婚したと言うことは、グルンナは、遊びだったのだ。
そうして、この計画を3人で考えだ。
ハンズはミラーのグルンナが友人だと知らなかった。
そうして、ミラーの恋人が、グルンナの兄だ、とも知らなかった。
いや、そんなものだろう。家同士の付き合いならともかく、個人の付き合いならどこまで探れる?
ましてや、
恋仲は秘密で、
と言われれば、あえて探るのは難しいだろう。
ハンズとミラーの仲を、一切黙秘する事を約束したのだから、後は簡単だ。
ハンズとグルンナの既成事実を発覚させればいい。
寝室で幾度も、愛している、と囁いてくれた、
そう泣きじゃくったグルンナ。
同じように、立場が違うと諦めていたのに、友人に愛を告げたハンズを見て、どれだけ辛かっただろう。
でも今はとても嬉しそうに微笑み参加者に向けている。
だが、ハンズの愚行のお陰で自分は幸せになれた。マルグルの事を家族に話すと思いのほかすんなりと許してくれた。
(どちらが幸せなのかしら?)
憎しみの瞳でグルンナを睨みつける、ハンズ。
無理やり足枷をつけ、押さえつけたグルンナ。
2人を見ながら、ふふ、とまた笑いがもれる。
「帰ろうか」
「そうね」
そういうと2人はホールを出た。
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