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ようやくフェリシアは思い出しました。
どうしてこの土地にやってきたのかを。
どうしてこの屋敷に住んでいたのかを。
どうして記憶を失ってしまったのかを。
フェリシアは、幸せを運ぶ妖精なのです。特別な役割を持つ妖精は、世界中を旅し続けなければなりません。
例えば四季を告げる妖精も、世界を旅します。さもなくば、季節がうまく回らないからです。ひとつの国がずっと常春で、また別の国が常冬では、住んでいるひとは困ってしまいますからね。
他にも雨の妖精や、風の妖精なども、世界を旅します。冷たく乾いた風になったり、暖かく湿った風になったりしながら、彼らは国々を回っているのだとか。
そして幸せを運ぶ妖精のフェリシアは、他の妖精たち以上に、休むことなく世界を回り続けなければいけませんでした。
春の妖精を捕まえようとする輩がいるように、幸せを運ぶフェリシアを手元に置きたがる人間は星の数ほどいるのです。ぼんやりしていると、瓶詰めにされてしまいます。
美しく、珍しい上、世界中に届けるはずの幸せを独り占めできるのですから、悪いことを考えてしまう人間に出会わないように、あるいは出会った人間が悪いことを考えてしまわないようにしなければいけなかったのでした。
けれど、フェリシアは終わりのない旅暮らしに疲れきっていました。四季を告げる妖精たちもしばらくはそれぞれの国を楽しみます。土地の人々に祀られたり、花の妖精などの仲間たちと優雅に過ごすのです。
風の妖精は国々をあっという間に通り過ぎますが、雨の妖精が常に共にいます。雨の妖精は時々雪の妖精と交代しながら、風の妖精の旅に彩りを添えているのです。
それなのに、幸せの妖精であるフェリシアの旅はひとりきり。誰とも話すことはなく、ずっと歩みを進めなければなりません。
すっかり嫌気が差したフェリシアが、ふらふらと迷い込んだ森の小さなおうちで出会ったのが夢の中に出てきた優しい女の子だったのです。
女の子は貧しい村の村長の娘さんで、フェリシアのことを匿ってくれました。フェリシアが女の子と暮らすうちに、村はどんどん豊かになっていったのです。
そのうち女の子は、フェリシアに旅を再開しなくていいのかと尋ねるようになりました。フェリシアもそうすべきであることは理解していましたが、女の子と離れたくなくて、出発を先延ばしにしていました。
その間にいろんなことがありました。
人間はフェリシアが想像していたよりも脆くて儚い生き物でした。簡単に流行病や事故で命を落とします。恐ろしい天災で家や畑が駄目になることもありました。
女の子が悲しむような出来事が起こるたびに、フェリシアは羽を渡しました。そうすれば、幸せの力で女の子が望む未来が訪れるからです。もちろん、それはあまり良くない力の使い方です。幸せの妖精のお仕事として考えるなら、落第点でしょう。それでもフェリシアは良かったのです。女の子が笑顔でいてくれるなら。
けれどいつの間にか、女の子は笑ってくれなくなりました。それどころか、フェリシアを見るたびに悲しそうな顔をするようになりました。
――わたしは、あなたから幸せを奪い取るために友達になったのではないの――
そんなことくらい、フェリシアは知っています。女の子は一度だって、自分からフェリシアに幸せをねだるようなことはなかったのですから。ただ、フェリシアが女の子のためにやってあげたかっただけなのです。
やがて、優しい女の子はフェリシアをおいて、天に召されてしまいました。
――ずっと一緒にいたかったけれど、ごめんなさいね。フェリシア、どうか、自由に生きて。いつかまた必ず会いにくるから――
自由って一体何なのでしょう。大好きな女の子がいなくなった今、再び世界中を旅することがフェリシアにとっての幸せとなるのでしょうか? まだらになった羽を広げて、フェリシアはため息をつきました。
そんなフェリシアの前に現れたのが、今、フェリシアと一緒に住んでいる家族たちでした。彼らに乞われるがまま羽を渡し、願いを叶え続けていたフェリシアは、いつの間にかほぼすべての力を失い、羽がほとんどない醜い小鳥になってしまっていたのでした。
そして自分の心を守るために、記憶を封じ、夢うつつの中を生きるようになっていたのです。
どうしてこの土地にやってきたのかを。
どうしてこの屋敷に住んでいたのかを。
どうして記憶を失ってしまったのかを。
フェリシアは、幸せを運ぶ妖精なのです。特別な役割を持つ妖精は、世界中を旅し続けなければなりません。
例えば四季を告げる妖精も、世界を旅します。さもなくば、季節がうまく回らないからです。ひとつの国がずっと常春で、また別の国が常冬では、住んでいるひとは困ってしまいますからね。
他にも雨の妖精や、風の妖精なども、世界を旅します。冷たく乾いた風になったり、暖かく湿った風になったりしながら、彼らは国々を回っているのだとか。
そして幸せを運ぶ妖精のフェリシアは、他の妖精たち以上に、休むことなく世界を回り続けなければいけませんでした。
春の妖精を捕まえようとする輩がいるように、幸せを運ぶフェリシアを手元に置きたがる人間は星の数ほどいるのです。ぼんやりしていると、瓶詰めにされてしまいます。
美しく、珍しい上、世界中に届けるはずの幸せを独り占めできるのですから、悪いことを考えてしまう人間に出会わないように、あるいは出会った人間が悪いことを考えてしまわないようにしなければいけなかったのでした。
けれど、フェリシアは終わりのない旅暮らしに疲れきっていました。四季を告げる妖精たちもしばらくはそれぞれの国を楽しみます。土地の人々に祀られたり、花の妖精などの仲間たちと優雅に過ごすのです。
風の妖精は国々をあっという間に通り過ぎますが、雨の妖精が常に共にいます。雨の妖精は時々雪の妖精と交代しながら、風の妖精の旅に彩りを添えているのです。
それなのに、幸せの妖精であるフェリシアの旅はひとりきり。誰とも話すことはなく、ずっと歩みを進めなければなりません。
すっかり嫌気が差したフェリシアが、ふらふらと迷い込んだ森の小さなおうちで出会ったのが夢の中に出てきた優しい女の子だったのです。
女の子は貧しい村の村長の娘さんで、フェリシアのことを匿ってくれました。フェリシアが女の子と暮らすうちに、村はどんどん豊かになっていったのです。
そのうち女の子は、フェリシアに旅を再開しなくていいのかと尋ねるようになりました。フェリシアもそうすべきであることは理解していましたが、女の子と離れたくなくて、出発を先延ばしにしていました。
その間にいろんなことがありました。
人間はフェリシアが想像していたよりも脆くて儚い生き物でした。簡単に流行病や事故で命を落とします。恐ろしい天災で家や畑が駄目になることもありました。
女の子が悲しむような出来事が起こるたびに、フェリシアは羽を渡しました。そうすれば、幸せの力で女の子が望む未来が訪れるからです。もちろん、それはあまり良くない力の使い方です。幸せの妖精のお仕事として考えるなら、落第点でしょう。それでもフェリシアは良かったのです。女の子が笑顔でいてくれるなら。
けれどいつの間にか、女の子は笑ってくれなくなりました。それどころか、フェリシアを見るたびに悲しそうな顔をするようになりました。
――わたしは、あなたから幸せを奪い取るために友達になったのではないの――
そんなことくらい、フェリシアは知っています。女の子は一度だって、自分からフェリシアに幸せをねだるようなことはなかったのですから。ただ、フェリシアが女の子のためにやってあげたかっただけなのです。
やがて、優しい女の子はフェリシアをおいて、天に召されてしまいました。
――ずっと一緒にいたかったけれど、ごめんなさいね。フェリシア、どうか、自由に生きて。いつかまた必ず会いにくるから――
自由って一体何なのでしょう。大好きな女の子がいなくなった今、再び世界中を旅することがフェリシアにとっての幸せとなるのでしょうか? まだらになった羽を広げて、フェリシアはため息をつきました。
そんなフェリシアの前に現れたのが、今、フェリシアと一緒に住んでいる家族たちでした。彼らに乞われるがまま羽を渡し、願いを叶え続けていたフェリシアは、いつの間にかほぼすべての力を失い、羽がほとんどない醜い小鳥になってしまっていたのでした。
そして自分の心を守るために、記憶を封じ、夢うつつの中を生きるようになっていたのです。
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