王太子殿下が、「国中の未婚女性を集めて舞踏会を開きたい」などと寝言をおっしゃるものですから。

石河 翠

文字の大きさ
5 / 7

(5)

しおりを挟む
 舞踏会当日。会場には色とりどりのドレスに身を包んだ令嬢たちが溢れていた。

「アレクさま、お待ちしておりましたわ!」

 アレクが登場すると、令嬢たちが一気に色めき立った。あっという間にひとだかりができる。

「アレクさま、私と踊ってくださいますよね?」
「まあ、わたくしが先ですわ」
「いいえ、あたくしと!」

 令嬢たちはにこやかに、けれど肉食獣のようにしなやかな動きで互いをけん制し合っていた。そんな令嬢たちもまた胸元に薔薇の花を飾っている。彼女たちの薔薇の花の色を見て、なるほどとアレクは納得した。庭師の言葉が脳裏によみがえる。確かに、薔薇の花の色に偏りがあっても、問題ないようだ。少々、寂しい気持ちにはなるが。

「わたしは逃げないのだから、喧嘩する必要はないだろう? ちゃんと平等にみんなと踊るから」
「ですが、ファーストダンスはたったひとりだけ!」
「絶対に譲れませんわ!」

 隅っこでぎゅうぎゅうになって眠るハムスターのように、アレクを押しつぶす勢いで詰め寄る令嬢たち。そこへ、王太子がやってきた。むんずとアレクの手をつかみ、輪の外へ引っ張り出してくる。途端に、令嬢たちから王太子へすごいブーイングの嵐が巻き起こった。まったくもって敬われていない王太子である。そのことが不満だったのだろうか。

「おい、アレク。これはどういうことだ!」

 王太子が半泣きでアレクを問い詰めてきた。

「なんだ、その言い草は。舞踏会の準備もし、しっかり本番も参加しているだろう?」
「どうして俺を差し置いて、お前は他の女と踊ろうとしているんだ!」
「ああ、もちろん君が最優先だよ。この舞踏会は君のための舞踏会だからね。けれど残ったご令嬢たちのお相手だって必要だろう?」

 そう言って、困った顔でアレクは令嬢たちを見回す。彼女たちの胸元にはみな純白の薔薇が飾られていた。

「まあ、アレクさま。私たち、王太子殿下と踊るつもりはさらさらありませんわ」
「アレクさまにお会いしたくてわざわざ参加しましたのに」
「そうですわ。アレクさまがいらっしゃらなければ、欠席するつもりでしたわ」
「やれやれ。可愛らしいお嬢さん、そんな我儘を言ってはいけないよ。わたしがいても、いなくても、社交は大事。ひととひととの繋がりこそが国家を繁栄させるのだから」
「きゃああああ、アレクさまああああ」

 納得のいかない顔で、王太子が悶絶する。

「どうして、アレクにダンスの申し込みが殺到するんだ!」
「自業自得だろう。付き添いの男性陣は父親か、それ以上の年齢親族のみと制限した上で、舞踏会の会場への立ち入りを禁じるなんて。別会場での立食パーティーは確かに政治的な意味合いを持つだろうが、ご令嬢たちはどうするんだ。君が相手をしなければ、彼女たちは壁の花になるだけ。せめてもの詫びに、手の空いている者が1曲ずつくらいダンスの相手を務めて当然だろう」

 だから好きな相手がいるのなら、こんな回りくどい手を使わずに、もっと違う方法をとるべきだったのに。その言葉をぐっと呑み込み、アレクはただ淡々と言い含めた。ここで学んでもらわねば、王太子のためにならない。高い勉強代だが、いつか彼のためになるだろう。

 ちなみに今回の舞踏会を行うにあたって、国王陛下からは苦労をかけてすまないと謝られたが、もしかして彼らは王太子が何やらやらかすかもしれないことを事前に予想していたということだろうか。

 ぐぬぬぬぬと歯噛みする王太子を前に、アレクがやれやれと肩をすくめていると……。

「どうして、アレクはドレスじゃないんだあああああ。しかも薔薇の花を挿してないと、アレクの気持ちがわからないじゃないかああああ」

 王太子の絶叫に、しんと辺りが静まり返る。王太子の奇行にはすっかり慣れっこのはずのアレクだったが、今回は開いた口が塞がらなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。

長岡更紗
恋愛
侯爵令嬢だったユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。 仲睦まじく過ごしていたある日、父親の死をきっかけにどん底まで落ちたユリアーナは婚約破棄されてしまう。 愛し合う二人は、離れ離れとなってしまったのだった。 ディートフリートを待ち続けるユリアーナ。 ユリアーナを迎えに行こうと奮闘するディートフリート。 二人に巻き込まれてしまった、男装の王弟。 時に笑い、時に泣き、諦めそうになり、奮闘し…… 全ては、愛する人と幸せになるために。 他サイトと重複投稿しています。 全面改稿して投稿中です。

あなたが残した世界で

天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。 八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。

嘘つくつもりはなかったんです!お願いだから忘れて欲しいのにもう遅い。王子様は異世界転生娘を溺愛しているみたいだけどちょっと勘弁して欲しい。

季邑 えり
恋愛
異世界転生した記憶をもつリアリム伯爵令嬢は、自他ともに認めるイザベラ公爵令嬢の腰ぎんちゃく。  今日もイザベラ嬢をよいしょするつもりが、うっかりして「王子様は理想的な結婚相手だ」と言ってしまった。それを偶然に聞いた王子は、早速リアリムを婚約者候補に入れてしまう。  王子様狙いのイザベラ嬢に睨まれたらたまらない。何とかして婚約者になることから逃れたいリアリムと、そんなリアリムにロックオンして何とかして婚約者にしたい王子。  婚約者候補から逃れるために、偽りの恋人役を知り合いの騎士にお願いすることにしたのだけど…なんとこの騎士も一筋縄ではいかなかった!  おとぼけ転生娘と、麗しい王子様の恋愛ラブコメディー…のはず。  イラストはベアしゅう様に描いていただきました。

夫に家を追い出された女騎士は、全てを返してもらうために動き出す。

ゆずこしょう
恋愛
女騎士として働いてきて、やっと幼馴染で許嫁のアドルフと結婚する事ができたエルヴィール(18) しかし半年後。魔物が大量発生し、今度はアドルフに徴集命令が下った。 「俺は魔物討伐なんか行けない…お前の方が昔から強いじゃないか。か、かわりにお前が行ってきてくれ!」 頑張って伸ばした髪を短く切られ、荷物を持たされるとそのまま有無を言わさず家から追い出された。 そして…5年の任期を終えて帰ってきたエルヴィールは…。

ハイパー王太子殿下の隣はツライよ! ~突然の婚約解消~

緑谷めい
恋愛
 私は公爵令嬢ナタリー・ランシス。17歳。  4歳年上の婚約者アルベルト王太子殿下は、超優秀で超絶イケメン!  一応美人の私だけれど、ハイパー王太子殿下の隣はツライものがある。  あれれ、おかしいぞ? ついに自分がゴミに思えてきましたわ!?  王太子殿下の弟、第2王子のロベルト殿下と私は、仲の良い幼馴染。  そのロベルト様の婚約者である隣国のエリーゼ王女と、私の婚約者のアルベルト王太子殿下が、結婚することになった!? よって、私と王太子殿下は、婚約解消してお別れ!? えっ!? 決定ですか? はっ? 一体どういうこと!?  * ハッピーエンドです。

冷たかった夫が別人のように豹変した

京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。 ざまぁ。ゆるゆる設定

もてあそんでくれたお礼に、貴方に最高の餞別を。婚約者さまと、どうかお幸せに。まぁ、幸せになれるものなら......ね?

当麻月菜
恋愛
次期当主になるべく、領地にて父親から仕事を学んでいた伯爵令息フレデリックは、ちょっとした出来心で領民の娘イルアに手を出した。 ただそれは、結婚するまでの繋ぎという、身体目的の軽い気持ちで。 対して領民の娘イルアは、本気だった。 もちろんイルアは、フレデリックとの間に身分差という越えられない壁があるのはわかっていた。そして、その時が来たら綺麗に幕を下ろそうと決めていた。 けれど、二人の関係の幕引きはあまりに酷いものだった。 誠意の欠片もないフレデリックの態度に、立ち直れないほど心に傷を受けたイルアは、彼に復讐することを誓った。 弄ばれた女が、捨てた男にとって最後で最高の女性でいられるための、本気の復讐劇。

処理中です...