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舞踏会当日。会場には色とりどりのドレスに身を包んだ令嬢たちが溢れていた。
「アレクさま、お待ちしておりましたわ!」
アレクが登場すると、令嬢たちが一気に色めき立った。あっという間にひとだかりができる。
「アレクさま、私と踊ってくださいますよね?」
「まあ、わたくしが先ですわ」
「いいえ、あたくしと!」
令嬢たちはにこやかに、けれど肉食獣のようにしなやかな動きで互いをけん制し合っていた。そんな令嬢たちもまた胸元に薔薇の花を飾っている。彼女たちの薔薇の花の色を見て、なるほどとアレクは納得した。庭師の言葉が脳裏によみがえる。確かに、薔薇の花の色に偏りがあっても、問題ないようだ。少々、寂しい気持ちにはなるが。
「わたしは逃げないのだから、喧嘩する必要はないだろう? ちゃんと平等にみんなと踊るから」
「ですが、ファーストダンスはたったひとりだけ!」
「絶対に譲れませんわ!」
隅っこでぎゅうぎゅうになって眠るハムスターのように、アレクを押しつぶす勢いで詰め寄る令嬢たち。そこへ、王太子がやってきた。むんずとアレクの手をつかみ、輪の外へ引っ張り出してくる。途端に、令嬢たちから王太子へすごいブーイングの嵐が巻き起こった。まったくもって敬われていない王太子である。そのことが不満だったのだろうか。
「おい、アレク。これはどういうことだ!」
王太子が半泣きでアレクを問い詰めてきた。
「なんだ、その言い草は。舞踏会の準備もし、しっかり本番も参加しているだろう?」
「どうして俺を差し置いて、お前は他の女と踊ろうとしているんだ!」
「ああ、もちろん君が最優先だよ。この舞踏会は君のための舞踏会だからね。けれど残ったご令嬢たちのお相手だって必要だろう?」
そう言って、困った顔でアレクは令嬢たちを見回す。彼女たちの胸元にはみな純白の薔薇が飾られていた。
「まあ、アレクさま。私たち、王太子殿下と踊るつもりはさらさらありませんわ」
「アレクさまにお会いしたくてわざわざ参加しましたのに」
「そうですわ。アレクさまがいらっしゃらなければ、欠席するつもりでしたわ」
「やれやれ。可愛らしいお嬢さん、そんな我儘を言ってはいけないよ。わたしがいても、いなくても、社交は大事。ひととひととの繋がりこそが国家を繁栄させるのだから」
「きゃああああ、アレクさまああああ」
納得のいかない顔で、王太子が悶絶する。
「どうして、アレクにダンスの申し込みが殺到するんだ!」
「自業自得だろう。付き添いの男性陣は父親か、それ以上の年齢親族のみと制限した上で、舞踏会の会場への立ち入りを禁じるなんて。別会場での立食パーティーは確かに政治的な意味合いを持つだろうが、ご令嬢たちはどうするんだ。君が相手をしなければ、彼女たちは壁の花になるだけ。せめてもの詫びに、手の空いている者が1曲ずつくらいダンスの相手を務めて当然だろう」
だから好きな相手がいるのなら、こんな回りくどい手を使わずに、もっと違う方法をとるべきだったのに。その言葉をぐっと呑み込み、アレクはただ淡々と言い含めた。ここで学んでもらわねば、王太子のためにならない。高い勉強代だが、いつか彼のためになるだろう。
ちなみに今回の舞踏会を行うにあたって、国王陛下からは苦労をかけてすまないと謝られたが、もしかして彼らは王太子が何やらやらかすかもしれないことを事前に予想していたということだろうか。
ぐぬぬぬぬと歯噛みする王太子を前に、アレクがやれやれと肩をすくめていると……。
「どうして、アレクはドレスじゃないんだあああああ。しかも薔薇の花を挿してないと、アレクの気持ちがわからないじゃないかああああ」
王太子の絶叫に、しんと辺りが静まり返る。王太子の奇行にはすっかり慣れっこのはずのアレクだったが、今回は開いた口が塞がらなかった。
「アレクさま、お待ちしておりましたわ!」
アレクが登場すると、令嬢たちが一気に色めき立った。あっという間にひとだかりができる。
「アレクさま、私と踊ってくださいますよね?」
「まあ、わたくしが先ですわ」
「いいえ、あたくしと!」
令嬢たちはにこやかに、けれど肉食獣のようにしなやかな動きで互いをけん制し合っていた。そんな令嬢たちもまた胸元に薔薇の花を飾っている。彼女たちの薔薇の花の色を見て、なるほどとアレクは納得した。庭師の言葉が脳裏によみがえる。確かに、薔薇の花の色に偏りがあっても、問題ないようだ。少々、寂しい気持ちにはなるが。
「わたしは逃げないのだから、喧嘩する必要はないだろう? ちゃんと平等にみんなと踊るから」
「ですが、ファーストダンスはたったひとりだけ!」
「絶対に譲れませんわ!」
隅っこでぎゅうぎゅうになって眠るハムスターのように、アレクを押しつぶす勢いで詰め寄る令嬢たち。そこへ、王太子がやってきた。むんずとアレクの手をつかみ、輪の外へ引っ張り出してくる。途端に、令嬢たちから王太子へすごいブーイングの嵐が巻き起こった。まったくもって敬われていない王太子である。そのことが不満だったのだろうか。
「おい、アレク。これはどういうことだ!」
王太子が半泣きでアレクを問い詰めてきた。
「なんだ、その言い草は。舞踏会の準備もし、しっかり本番も参加しているだろう?」
「どうして俺を差し置いて、お前は他の女と踊ろうとしているんだ!」
「ああ、もちろん君が最優先だよ。この舞踏会は君のための舞踏会だからね。けれど残ったご令嬢たちのお相手だって必要だろう?」
そう言って、困った顔でアレクは令嬢たちを見回す。彼女たちの胸元にはみな純白の薔薇が飾られていた。
「まあ、アレクさま。私たち、王太子殿下と踊るつもりはさらさらありませんわ」
「アレクさまにお会いしたくてわざわざ参加しましたのに」
「そうですわ。アレクさまがいらっしゃらなければ、欠席するつもりでしたわ」
「やれやれ。可愛らしいお嬢さん、そんな我儘を言ってはいけないよ。わたしがいても、いなくても、社交は大事。ひととひととの繋がりこそが国家を繁栄させるのだから」
「きゃああああ、アレクさまああああ」
納得のいかない顔で、王太子が悶絶する。
「どうして、アレクにダンスの申し込みが殺到するんだ!」
「自業自得だろう。付き添いの男性陣は父親か、それ以上の年齢親族のみと制限した上で、舞踏会の会場への立ち入りを禁じるなんて。別会場での立食パーティーは確かに政治的な意味合いを持つだろうが、ご令嬢たちはどうするんだ。君が相手をしなければ、彼女たちは壁の花になるだけ。せめてもの詫びに、手の空いている者が1曲ずつくらいダンスの相手を務めて当然だろう」
だから好きな相手がいるのなら、こんな回りくどい手を使わずに、もっと違う方法をとるべきだったのに。その言葉をぐっと呑み込み、アレクはただ淡々と言い含めた。ここで学んでもらわねば、王太子のためにならない。高い勉強代だが、いつか彼のためになるだろう。
ちなみに今回の舞踏会を行うにあたって、国王陛下からは苦労をかけてすまないと謝られたが、もしかして彼らは王太子が何やらやらかすかもしれないことを事前に予想していたということだろうか。
ぐぬぬぬぬと歯噛みする王太子を前に、アレクがやれやれと肩をすくめていると……。
「どうして、アレクはドレスじゃないんだあああああ。しかも薔薇の花を挿してないと、アレクの気持ちがわからないじゃないかああああ」
王太子の絶叫に、しんと辺りが静まり返る。王太子の奇行にはすっかり慣れっこのはずのアレクだったが、今回は開いた口が塞がらなかった。
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