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「そんなにわたしと踊りたいのか?」
「ファーストダンスは、アレクって決めてた」
「じゃあ、それが終わったら他の女の子と踊るかい?」
「俺は、アレクとしか踊りたくない」
「馬鹿だなあ。最初からそう言ってくれていたら、ドレスを着てきたのに」
「えええええ? アレク、ドレスを着るの嫌じゃないの?」
「わたしはドレスを着るのが嫌だなんて、一言も言ったことはないよ。ただ似合うし、動きやすいから男装をしているだけで」
「そんな」
「それに、申し込まれてもいないのに、どうしてわたしがドレスを着てここに来ると思ったんだ? ご令嬢がたのダンスの相手がいなくなってしまうじゃないか」
「アレクのドレスを見るために全員招待したのが裏目に出た?」
「裏目どころか、馬鹿の所業だったね」
「ぐぬぬぬぬぬぬ」
アレクが指を鳴らし手を開くと、中から薔薇の花が一輪出てきた。その色は、情熱の赤だ。その花を王太子に差し出しながら、アレクは微笑む。
「それでは、一曲お願いできますか?」
「だーかーらー、そういう格好いい台詞は、俺が言うんだってば」
軽口を叩きながら踊りはじめるふたり。ステップを踏み、くるりくるりと回りながら、王太子が不満げにつぶやいた。
「どうして俺が女パートなんだ?」
「それはわたしの方がリードがうまいのと、まあうっかり癖で」
「うおおおおお、ちっくしょおおおおおお、アレクがイケメンすぎるんだよおおおおお」
「ドレスを贈る贈らないの前に、気持ちを告げないままその他大勢を巻き込む形で、好きなひとのドレス姿を見ようと思う発想がまずせこい」
「せこいだと……」
「せこいという言い方は適切ではないのか。じゃあ、しょぼい」
「どちらもそう変わらん。もうちょっと何か他に言い方ってもんがあるだろう」
やっぱり気持ち悪いからなのか、と苦悩する王太子の言葉に、思わずアレクは小さくふきだした。ずっと胸の中でくすぶっていたもやもやの正体が、わかったような気がする。しばらくこのもやもやに悩まされた身としては、少しばかり意趣返しをしてもいいのではないか。そんなことをアレクは考えてしまった。
「王太子殿下が、『国中の未婚女性を集めて舞踏会を開きたい』などと寝言をおっしゃるものですから。わたし、焼きもちを焼いてしまいましたわ」
服装はいつもの男装のまま。けれど、普段はひとつに結んだ髪を下ろし、小首を傾げて上目遣いで微笑めば、その姿はあっという間に麗しい令嬢へと様変わりする。「せこい」とか「しょぼい」とかそんな言葉の中にあった、ちょっとだけささくれだった気持ちをふんわりと甘い砂糖をまとわせて、膨らませてみた。こんな女の子らしい気持ちが自分の中にもあったのだなと気が付いて、妙に気恥ずかしい。
だが王太子はというと、謝ってくるでもなく、かといって笑い飛ばしてくれるでもなく、真顔で固まったままだった。なんだ、それは。こういうのは、何らかの反応を示してくれないと、ただただ恥ずかしいだけではないか。慌ててアレクは、自ら笑い飛ばすことにする。
「ははは、似合わなかったかな。恥ずかしいことはするものではないな……って、おい!」
しまった、やっぱり今さら王太子の前で女性っぽい仕草などするのではなかった。そう思ったのだが。王太子の顔がみるみる赤くなったかと思うと、目を回して後ろに倒れそうになる。慌ててアレクが支えるが、深窓の姫君のようにきゅうと言って卒倒してしまった。その顔はとめどなくあふれる赤に染まっていて……。
「これは、まさか、毒? おい、誰か!」
慌てるアレクをよそに、周囲の者たちはみな王太子が興奮のあまり鼻血を出してぶっ倒れただけなのだと、正確に認識していたため、その後は粛々と処理されたのだった。
その後王太子はようやく想いを告げたアレクと結婚をするために、鬼のような修行に挑んだあげく、騎士団長を始めとするアレクの一族と決闘の日々を送ることになるのだが、それはまた別の話である。なお歴代の国王がりんごを素手で握りつぶせたかどうかについての記録は、残されていない。
「ファーストダンスは、アレクって決めてた」
「じゃあ、それが終わったら他の女の子と踊るかい?」
「俺は、アレクとしか踊りたくない」
「馬鹿だなあ。最初からそう言ってくれていたら、ドレスを着てきたのに」
「えええええ? アレク、ドレスを着るの嫌じゃないの?」
「わたしはドレスを着るのが嫌だなんて、一言も言ったことはないよ。ただ似合うし、動きやすいから男装をしているだけで」
「そんな」
「それに、申し込まれてもいないのに、どうしてわたしがドレスを着てここに来ると思ったんだ? ご令嬢がたのダンスの相手がいなくなってしまうじゃないか」
「アレクのドレスを見るために全員招待したのが裏目に出た?」
「裏目どころか、馬鹿の所業だったね」
「ぐぬぬぬぬぬぬ」
アレクが指を鳴らし手を開くと、中から薔薇の花が一輪出てきた。その色は、情熱の赤だ。その花を王太子に差し出しながら、アレクは微笑む。
「それでは、一曲お願いできますか?」
「だーかーらー、そういう格好いい台詞は、俺が言うんだってば」
軽口を叩きながら踊りはじめるふたり。ステップを踏み、くるりくるりと回りながら、王太子が不満げにつぶやいた。
「どうして俺が女パートなんだ?」
「それはわたしの方がリードがうまいのと、まあうっかり癖で」
「うおおおおお、ちっくしょおおおおおお、アレクがイケメンすぎるんだよおおおおお」
「ドレスを贈る贈らないの前に、気持ちを告げないままその他大勢を巻き込む形で、好きなひとのドレス姿を見ようと思う発想がまずせこい」
「せこいだと……」
「せこいという言い方は適切ではないのか。じゃあ、しょぼい」
「どちらもそう変わらん。もうちょっと何か他に言い方ってもんがあるだろう」
やっぱり気持ち悪いからなのか、と苦悩する王太子の言葉に、思わずアレクは小さくふきだした。ずっと胸の中でくすぶっていたもやもやの正体が、わかったような気がする。しばらくこのもやもやに悩まされた身としては、少しばかり意趣返しをしてもいいのではないか。そんなことをアレクは考えてしまった。
「王太子殿下が、『国中の未婚女性を集めて舞踏会を開きたい』などと寝言をおっしゃるものですから。わたし、焼きもちを焼いてしまいましたわ」
服装はいつもの男装のまま。けれど、普段はひとつに結んだ髪を下ろし、小首を傾げて上目遣いで微笑めば、その姿はあっという間に麗しい令嬢へと様変わりする。「せこい」とか「しょぼい」とかそんな言葉の中にあった、ちょっとだけささくれだった気持ちをふんわりと甘い砂糖をまとわせて、膨らませてみた。こんな女の子らしい気持ちが自分の中にもあったのだなと気が付いて、妙に気恥ずかしい。
だが王太子はというと、謝ってくるでもなく、かといって笑い飛ばしてくれるでもなく、真顔で固まったままだった。なんだ、それは。こういうのは、何らかの反応を示してくれないと、ただただ恥ずかしいだけではないか。慌ててアレクは、自ら笑い飛ばすことにする。
「ははは、似合わなかったかな。恥ずかしいことはするものではないな……って、おい!」
しまった、やっぱり今さら王太子の前で女性っぽい仕草などするのではなかった。そう思ったのだが。王太子の顔がみるみる赤くなったかと思うと、目を回して後ろに倒れそうになる。慌ててアレクが支えるが、深窓の姫君のようにきゅうと言って卒倒してしまった。その顔はとめどなくあふれる赤に染まっていて……。
「これは、まさか、毒? おい、誰か!」
慌てるアレクをよそに、周囲の者たちはみな王太子が興奮のあまり鼻血を出してぶっ倒れただけなのだと、正確に認識していたため、その後は粛々と処理されたのだった。
その後王太子はようやく想いを告げたアレクと結婚をするために、鬼のような修行に挑んだあげく、騎士団長を始めとするアレクの一族と決闘の日々を送ることになるのだが、それはまた別の話である。なお歴代の国王がりんごを素手で握りつぶせたかどうかについての記録は、残されていない。
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