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4.縁切り済みの元婚約者から届いた復縁要請の手紙なんて、どんな扱いをされても文句は言えませんわよ?
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「あ、あ、あ、一体どうしてこんなことに?」
ラルフの手元にある本には、手紙の書き方らしく、便箋の使い方やら封筒の使い方と言った基本的な事柄から、時候の挨拶、手紙を締めくくる結びの挨拶、そして良い例と悪い例のラブレターの書き方が掲載されていた。
良い例の方は、知らない。何やらよくわからない、きらきらしい言葉が書き連ねてある。もしかしたら、ジェニファーなら知っているのかもしれないが、神話などにまったくの興味がないラルフには理解することさえできなかった。問題は、悪い例の方である。そこには、つい先日、ラルフがジェニファーに向かって出した手紙がまるっとそのまま掲載されていた。
魔導具を使ったのだろう、ラルフの癖字もつづりの間違いも完全にそのままである。なぜ手紙というのは、後から読み直すとおかしな部分に気が付くのか。頭を抱えたまま通りでもがきたくなるのを必死にこらえながら、悪い例につけられている講評を読んでみた。
――読んでいるのも恥ずかしくなるくらい、ひとりよがりな文章。まずは相手と自分の関係性から確認し、現状を把握することから務めるべき。そもそも何年も前に別れた相手が、いつまでも自分を待っているだなんて、都合の良い妄想も甚だしい。結論。真夜中にラブレターを書くことは止めましょう――
「う、訴えてやる。こんなのは、名誉棄損だ。個人的な手紙のやり取りを使って金儲けをするなんて何を考えているんだ!」
『縁切り済みの元婚約者から届いた復縁要請の手紙なんて、どんな扱いをされても文句は言えませんわよ?』
「へ?」
ラルフの独り言に反応したかのように、ページに文字が浮かび上がってきた。最初の一行は柔らかな女性らしい文字。次に現れたのは美しいけれど、自らの罪を突きつけてくるような厳しい文字だ。
『婚約破棄時の同意書に、今後一切の接触を禁ずる旨の記載あり。約束を破った際には、婚約破棄に至る詳細な内容、また禁じられていたにも関わらず行われた接触についてのすべての証拠資料を公にすることを認めるものとする。以上の点で、三者が合意している。よって、今回の手紙が教科書資料として使用された点は問題ないと認識する』
「でも、あんまりだ。俺に生き恥をかけっていうのか!」
『貴殿がその手紙が自分が書いたものであることを口外しない限りは、生き恥をさらすことにはなるまい。名前をイニシャルで書き記すにとどめておいて命拾いしたな』
「どうしてこんな目に遭わなくちゃならないんだ……。酷いよ、ジェニファー」
ぼろぼろと泣き出したラルフだが、ページに浮かび上がる文字はさらに大きく太く圧を増している。
『自業自得、自分の胸に手を当てて考えてみるがいい。それから貴殿は知らないようだから、忠告しておく。ジェニファーを名前で呼ぶのは慎みたまえ。貴殿には、ハワード夫人と呼ばれるのさえ口惜しい』
「ハワード、夫人? それは? まるで結婚しているみたいな」
『そうだ。彼女は既に結婚している。そこに何の不思議がある』
「だって彼女は、いまだに王宮で働いていて……」
『未婚の令嬢ばかりが、王宮で働いているわけではないことを知らんのか? 女性の社会進出は、今に始まった話ではないはずだが』
「……だって、彼女は僕のことをずっと大切に想ってくれていたはずで……」
けれどそれっきり、本が文字を浮かび上がらせることはなくなった。それどころかラルフの抱えていた本はすべてが白紙のページになってしまい、中古の本としても売る価値がなくなってしまったのである。そこいらの露天商が売っている本に、こんな大層な仕掛けが施されていること自体がおかしい。ジェニファーか、彼女の家族がここにいるということなのか。辺りを必死で探ってみたが、それらしい人影はどこにも見えなかった。
ラルフの手元にある本には、手紙の書き方らしく、便箋の使い方やら封筒の使い方と言った基本的な事柄から、時候の挨拶、手紙を締めくくる結びの挨拶、そして良い例と悪い例のラブレターの書き方が掲載されていた。
良い例の方は、知らない。何やらよくわからない、きらきらしい言葉が書き連ねてある。もしかしたら、ジェニファーなら知っているのかもしれないが、神話などにまったくの興味がないラルフには理解することさえできなかった。問題は、悪い例の方である。そこには、つい先日、ラルフがジェニファーに向かって出した手紙がまるっとそのまま掲載されていた。
魔導具を使ったのだろう、ラルフの癖字もつづりの間違いも完全にそのままである。なぜ手紙というのは、後から読み直すとおかしな部分に気が付くのか。頭を抱えたまま通りでもがきたくなるのを必死にこらえながら、悪い例につけられている講評を読んでみた。
――読んでいるのも恥ずかしくなるくらい、ひとりよがりな文章。まずは相手と自分の関係性から確認し、現状を把握することから務めるべき。そもそも何年も前に別れた相手が、いつまでも自分を待っているだなんて、都合の良い妄想も甚だしい。結論。真夜中にラブレターを書くことは止めましょう――
「う、訴えてやる。こんなのは、名誉棄損だ。個人的な手紙のやり取りを使って金儲けをするなんて何を考えているんだ!」
『縁切り済みの元婚約者から届いた復縁要請の手紙なんて、どんな扱いをされても文句は言えませんわよ?』
「へ?」
ラルフの独り言に反応したかのように、ページに文字が浮かび上がってきた。最初の一行は柔らかな女性らしい文字。次に現れたのは美しいけれど、自らの罪を突きつけてくるような厳しい文字だ。
『婚約破棄時の同意書に、今後一切の接触を禁ずる旨の記載あり。約束を破った際には、婚約破棄に至る詳細な内容、また禁じられていたにも関わらず行われた接触についてのすべての証拠資料を公にすることを認めるものとする。以上の点で、三者が合意している。よって、今回の手紙が教科書資料として使用された点は問題ないと認識する』
「でも、あんまりだ。俺に生き恥をかけっていうのか!」
『貴殿がその手紙が自分が書いたものであることを口外しない限りは、生き恥をさらすことにはなるまい。名前をイニシャルで書き記すにとどめておいて命拾いしたな』
「どうしてこんな目に遭わなくちゃならないんだ……。酷いよ、ジェニファー」
ぼろぼろと泣き出したラルフだが、ページに浮かび上がる文字はさらに大きく太く圧を増している。
『自業自得、自分の胸に手を当てて考えてみるがいい。それから貴殿は知らないようだから、忠告しておく。ジェニファーを名前で呼ぶのは慎みたまえ。貴殿には、ハワード夫人と呼ばれるのさえ口惜しい』
「ハワード、夫人? それは? まるで結婚しているみたいな」
『そうだ。彼女は既に結婚している。そこに何の不思議がある』
「だって彼女は、いまだに王宮で働いていて……」
『未婚の令嬢ばかりが、王宮で働いているわけではないことを知らんのか? 女性の社会進出は、今に始まった話ではないはずだが』
「……だって、彼女は僕のことをずっと大切に想ってくれていたはずで……」
けれどそれっきり、本が文字を浮かび上がらせることはなくなった。それどころかラルフの抱えていた本はすべてが白紙のページになってしまい、中古の本としても売る価値がなくなってしまったのである。そこいらの露天商が売っている本に、こんな大層な仕掛けが施されていること自体がおかしい。ジェニファーか、彼女の家族がここにいるということなのか。辺りを必死で探ってみたが、それらしい人影はどこにも見えなかった。
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