[異世界恋愛短編集]私のせいではありません。諦めて、本音トークごと私を受け入れてください

石河 翠

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3.縁切り済みの元婚約者から届いた復縁要請の手紙なんて、どんな扱いをされても文句は言えませんわよ?

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「ようやく、見つけたわ!」

 女の金切り声に、ラルフは肩を跳ねあがらせた。聞き覚えのあり過ぎる声に慌てて逃げ出そうとしたが、ラルフがその場を立ち去るよりも早く、小太りの女が彼に体当たりしてきた。その拍子に抱えていた本がラルフの足に落ちる。そこまで大きくも重たくもない本なのに、その角がラルフの足に当たった瞬間、不思議なほどの重量がかかり、ラルフは悲鳴を上げた。今、小指が折れた。不思議だが、なぜか絶対の確信がある。罰が当たったのだとちらりと脳裏をよぎったが、ラルフはそれを見なかったことにした。

「書き置きひとつ残さずにとんずらだなんて、いい度胸じゃないの!」
「うわああん、こんなの詐欺だ。結婚する前は、可愛くてお茶目な女の子だったのに、今じゃそこいらによくいる肝っ玉母さんになっちゃって」
「はあ、馬鹿言ってんじゃないわよ。小さい子をふたりも抱えて、働かずにすぐにツケばっかりこさえてくる無能な亭主を抱えていたら、腕も足も太くなるに決まっているじゃないのよ。身体を売らずにお金を稼ぐのはね、簡単なことじゃないのよ。文句があるなら、あんたが一家の大黒柱をやりなさいよ!」

 ふんすふんすと鼻息荒くラルフを責め立てているのは、かつて彼が運命の恋だと認識していた儚げで可憐なご令嬢――現在は怒れる鬼嫁――だった。なんだなんだと周囲の人間がふたりを見ていたが、鬼嫁の文句を聞くと致し方なしとして苦笑するばかりだ。それどころか、もっと言ってやれと鼓舞する女性陣だって出てくる有様だ。

「どうして、ここに?」
「ハワード夫人に連絡をいただいたのよ。今回は、接触禁止令を破ったけれど、あんたの手紙を教材として販売するから、その利益を慰謝料代わりとしてくださるそうよ。心の広いお方で本当に助かったわ」
「心が広いもんか! あんな辱めを受けて、僕もう死んじゃいたい。あ、著作権ってないのかな? 僕に何割入るか聞いた?」
「はあ、馬鹿も休み休み言いなさいよ。そんな要求をしたら、今度こそあんた死ぬわよ。あたし、子どもたちの父親が犯罪者なんてまっぴらごめんだから」

 ぎりぎりと襟首をつかみながら、それでも殴りかかることだけはしない。彼女とてわかっているのだ。彼の唯一の取り柄が、そのお美しい面だけであるということに。

「ううううう、僕にも優しくしてよおおお」
「産んだ覚えのない長男を甘やかすほど暇じゃないんだってばよ。そもそもあんたが養育費をきっちりと払ってくれるなら、離婚してやるって言ってるじゃない。現状、あんたでもいないよりはいた方がマシだから結婚してるんだって。わかったなら、さっさと歩く。あんたが逃げ出している間の内職が溜まってるのよ」
「うわあああああん」

 ちなみにラルフが覚えているかどうかはわからないが、星祭りで一年に一度の逢瀬を許されることになっている女神と男神は、もともと自分たちの職務を放棄してらぶらぶイチャイチャした結果、罰として離れ離れになったという伝説を持っている。日頃から真面目に機織りと牛飼いをしていればそろそろ天の神さまの怒りも解けているのではないかと思うのだが。あるいは案外別居婚を満喫しているのかもしれない。

 いずれにせよ、職務をまっとうしない者に対してはあたりが厳しい。それが星祭りのひとつの側面であることに、ラルフが気づくことはもうしばらくない。
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