4 / 7
(4)
しおりを挟む
もうじきこの世を離れる私の心残りは、教会の今後だったりする。おかげで最近じゃ、夜もおちおち眠れやしない。
「レベッカ、夜更かしは体に毒ですよ」
「帳簿の残高を見ていると、もう心配でならなくて」
「教会のことなら、どうとでもなります。今までだって、どうにかなっていたんですから」
「なってなかったし! 私が来た当初、神父さま、雑草食べて飢えをしのいでいたし!」
「あれは慣れればなかなか乙なものでして」
「慣れるな!」
今は私がここにいることで、実父からお金を引き出している。けれど、私が死ねばそれまでだ。好きなひとには、やっぱり空腹に悩まされずに暮らしてほしい。ひもじいのは辛いもの。
「いざとなったら、これを売ることもできますよ」
きらりと神父さまの胸元で、紅玉が輝いた。身分の証明とかに使うのかな。もしかして、神父さまって結構いい家の出身とか?
「それたぶん、売っちゃダメやつ! はあ……。なんかこう、ぱーっとこの教会の名物になりそうなもの、作れないかな」
「正直、難しいでしょうね」
「生贄として神さまに会った時に、どこか一部でも引っこ抜いて教会に残せたら、高く売れるかも!」
「神をも恐れぬ発言ですね」
やっぱり不敬だったかしら。でも生贄の遺髪じゃご利益なさそうどころか、不吉だしなあ。
「うーん、どうしたら……っていったあ……」
「どうしました?」
「ちょっと指先が割れちゃったみたい。あかぎれかな」
「それはいけませんね」
患部を確かめるためにか、神父さまが近づいてきて慌てる。手が乾燥でボロボロなの、ちょっと恥ずかしいから! 慌てて指先をなめあげる。よし、血が見えなきゃどこかわかんないだろ。
「だ、大丈夫。こんなのたいしたことな……あれ?」
「どうしました?」
「いえ、傷があったように感じたのはどうも錯覚だったみたいで……」
嘘をつくフリが、指先にはささくれさえも見当たらない。確かに血の味がしたのに。
「傷が消えましたか」
「まさか、そんなことあるわけ」
「では、もう一度試してみましょうか。ちょうど良いところに小刀が……」
「ちょっ、やめっ! 痛いのは無理!」
「私の指を切るだけですから、問題ありません」
「もっとダメ! 話す、話すから!」
神父さまによると、日々の生活が、修行及び信心の高さとして神々に認められ、聖女の力に目覚めたらしい。豊胸体操とかしてたのに?
まあそんなこと言われても、予定通り生贄になりますので。
「神父さま、このことはどうぞご内密に!」
「なぜです。中央教会に報告すれば、あなたは聖女として認定されるでしょう。そうすれば、生贄にされることはなくなるはずです」
「いやいや、そういうのは良いんですよ。私は滞りなく、予定通り生贄になりたいんです! 誠心誠意、それだけを願ってます!」
「……傷を口づけで治療するのは、やはり死ぬよりお嫌ですか?」
「え、聖女になったら他人の傷をべろべろ舐めなきゃいけないの?」
「あなたの力の発揮の仕方がその形なら、恐らくは……」
それは普通に嫌だよ。なんかもっと効率的な治療方法はないの。手をかざしてぶわっと治すとかさ。
「確かに戦場での傷を口づけで治すともなれば、精神的負担ははかりしれません。けれど、王族との結婚も夢ではありませんよ」
「王子さまとの結婚とかそういうのは最初から求めてないんで」
聖女の仕事、ナチュラルにグロくない? そこまでして崇められなくていいかな。いや、そういう仕事だからこそ崇められるのか? いろいろ考えていたら、頭が痛くなってきた。
「レベッカ、最近眠れていないんでしょう? 無理をしないでください。怖いと思うことは、当たり前なんです」
「……神父さま」
神父さまに抱きしめられる。甘い香りと温もりに包まれた。心配されていることが心地よくて、ゆっくりとまぶたが重くなる。
神父さま、私はズルいの。こんな風に私のことだけを考えてもらえる瞬間が、本当に幸せだから。
それにあなたのそばにいられないのなら、王子さまの隣だろうが、神さまのお腹の中だろうが、そんなに変わらないじゃない。
だから、予定通り生贄として旅立たせてね。
「レベッカ、夜更かしは体に毒ですよ」
「帳簿の残高を見ていると、もう心配でならなくて」
「教会のことなら、どうとでもなります。今までだって、どうにかなっていたんですから」
「なってなかったし! 私が来た当初、神父さま、雑草食べて飢えをしのいでいたし!」
「あれは慣れればなかなか乙なものでして」
「慣れるな!」
今は私がここにいることで、実父からお金を引き出している。けれど、私が死ねばそれまでだ。好きなひとには、やっぱり空腹に悩まされずに暮らしてほしい。ひもじいのは辛いもの。
「いざとなったら、これを売ることもできますよ」
きらりと神父さまの胸元で、紅玉が輝いた。身分の証明とかに使うのかな。もしかして、神父さまって結構いい家の出身とか?
「それたぶん、売っちゃダメやつ! はあ……。なんかこう、ぱーっとこの教会の名物になりそうなもの、作れないかな」
「正直、難しいでしょうね」
「生贄として神さまに会った時に、どこか一部でも引っこ抜いて教会に残せたら、高く売れるかも!」
「神をも恐れぬ発言ですね」
やっぱり不敬だったかしら。でも生贄の遺髪じゃご利益なさそうどころか、不吉だしなあ。
「うーん、どうしたら……っていったあ……」
「どうしました?」
「ちょっと指先が割れちゃったみたい。あかぎれかな」
「それはいけませんね」
患部を確かめるためにか、神父さまが近づいてきて慌てる。手が乾燥でボロボロなの、ちょっと恥ずかしいから! 慌てて指先をなめあげる。よし、血が見えなきゃどこかわかんないだろ。
「だ、大丈夫。こんなのたいしたことな……あれ?」
「どうしました?」
「いえ、傷があったように感じたのはどうも錯覚だったみたいで……」
嘘をつくフリが、指先にはささくれさえも見当たらない。確かに血の味がしたのに。
「傷が消えましたか」
「まさか、そんなことあるわけ」
「では、もう一度試してみましょうか。ちょうど良いところに小刀が……」
「ちょっ、やめっ! 痛いのは無理!」
「私の指を切るだけですから、問題ありません」
「もっとダメ! 話す、話すから!」
神父さまによると、日々の生活が、修行及び信心の高さとして神々に認められ、聖女の力に目覚めたらしい。豊胸体操とかしてたのに?
まあそんなこと言われても、予定通り生贄になりますので。
「神父さま、このことはどうぞご内密に!」
「なぜです。中央教会に報告すれば、あなたは聖女として認定されるでしょう。そうすれば、生贄にされることはなくなるはずです」
「いやいや、そういうのは良いんですよ。私は滞りなく、予定通り生贄になりたいんです! 誠心誠意、それだけを願ってます!」
「……傷を口づけで治療するのは、やはり死ぬよりお嫌ですか?」
「え、聖女になったら他人の傷をべろべろ舐めなきゃいけないの?」
「あなたの力の発揮の仕方がその形なら、恐らくは……」
それは普通に嫌だよ。なんかもっと効率的な治療方法はないの。手をかざしてぶわっと治すとかさ。
「確かに戦場での傷を口づけで治すともなれば、精神的負担ははかりしれません。けれど、王族との結婚も夢ではありませんよ」
「王子さまとの結婚とかそういうのは最初から求めてないんで」
聖女の仕事、ナチュラルにグロくない? そこまでして崇められなくていいかな。いや、そういう仕事だからこそ崇められるのか? いろいろ考えていたら、頭が痛くなってきた。
「レベッカ、最近眠れていないんでしょう? 無理をしないでください。怖いと思うことは、当たり前なんです」
「……神父さま」
神父さまに抱きしめられる。甘い香りと温もりに包まれた。心配されていることが心地よくて、ゆっくりとまぶたが重くなる。
神父さま、私はズルいの。こんな風に私のことだけを考えてもらえる瞬間が、本当に幸せだから。
それにあなたのそばにいられないのなら、王子さまの隣だろうが、神さまのお腹の中だろうが、そんなに変わらないじゃない。
だから、予定通り生贄として旅立たせてね。
52
あなたにおすすめの小説
氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました
まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」
あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。
ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。
それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。
するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。
好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。
二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました
鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。
素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。
とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。
「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」
婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。
黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。
その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。
王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。
だから、泣かない。縋らない。
私は自分から婚約破棄を願い出る。
選ばれなかった人生を終わらせるために。
そして、私自身の人生を始めるために。
短いお話です。
※第19回恋愛小説大賞にエントリーしております。
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
男爵令嬢なのにくじ引きで王子のいる生徒会の役員になりました!
らな
恋愛
男爵令嬢のリアはアルノー王国の貴族の子女が通う王立学院の1年生だ。
高位貴族しか入れない生徒会に、なぜかくじ引きで役員になることになってしまい、慌てふためいた。今年の生徒会にはアルノーの第2王子クリスだけではなく、大国リンドブルムの第2王子ジークフェルドまで在籍しているのだ。
冷徹な公爵令息のルーファスと、リアと同じくくじ引きで選ばれた優しい子爵令息のヘンドリックの5人の生徒会メンバーで繰り広げる学園ラブコメ開演!
リアには本人の知らない大きな秘密があります。
リアを取り巻く男性陣のやり取りや友情も楽しんでいただけたら嬉しいです。
ひみつの姫君からタイトルを変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる