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生贄になる日は、いつもと同じようにやってきた。違うのは、今日はまるで花嫁のような真っ白なドレスを身につけているということ。自画自賛ながら、似合うじゃないの。
「レベッカ、逃げるなら最後のチャンスですよ」
「なんで神父さまがそういうこと言うの」
「レベッカには、人間らしく自由に生きてほしいからですよ」
「神父さまのバカ」
僕と一緒に逃げてくださいって言われたら、喜んでついていっただろうけど。そうじゃないなら、お断りだよ!
神父さまの頬に自分の頬をくっつけてみる。冥土の土産に、これくらい許されるよね。驚いたような神父さまの顔がかわいくて、笑顔でさようならを伝える。
窓の外にはまあるく輝く金色の月。その月がゆっくりと陰っていく。
完全に月が消えるとともに目の前に現れたのは、白銀の竜だった。魔力の源なのか、輝く紅玉がまぶしい。
「レベッカ、我は汝とともに生きることを望む。番としてともに生きよ」
おっと、そう来ましたか。食われるよりましなのか。食われるよりも苦しいことが待っているのか。
「その身を捧げる代わりに、ひとつ願いを叶えてやろう」
「はいっ、番になります!」
現金と言うなかれ。神さまに願いを叶えてもらう機会なんて、これを逃せば二度とない。
「それでは、実父以外のすべてのひとから私の記憶を消してください」
「なにゆえに」
「誰もがもっと幸せになれるはずだったのに、私がそれを奪いました。父は自業自得ですが」
この地を治める領主には、認知していない庶子がいる。さらに、妾として召し上げられた女性の元婚約者に預けられたというのは、地元では有名な話だった。
いやまじでドン引きだよね。よりにもよって、そこに預ける?
元婚約者――養父――はそんな私を慈しみ、育ててくれた。養母もまた、実子と分け隔てなく育ててくれたと思う。
けれど、世の中にはお節介な人間というものがいるもので。
『あんたは、お父さんとお母さんの本当の子どもじゃないんだ。迷惑にならないように、わがままを言わずに過ごしなさい。あんたたちのせいで、お父さんがどれだけ苦労したことか』
そんなこと、他人に言われなくっても私がよくわかっている。だから、生贄になることは渡りに船だったのだ。
腹違いの姉妹――領主の娘たち――も被害者なのだと思う。彼らの性格の悪さは、節操なしの父親の影響が大きいんじゃないかな。単純に、生まれつきの根性悪だったらごめん。
「この教会の神父の記憶からも消えるが、構わないのか?」
「か、構いません」
ひえっ、神父さまへの気持ちが神さまにバレバレとかどういうことなの。
「そりゃあ、覚えていてほしいですけれど……。ゆっくりと忘れられたり、良い思い出として語られるくらいなら、いっそ最初から消えてしまいたいんです」
ずっとずっと私のことを覚えていてほしいけれど、それを望んではいけないから。
私の答えに、神さまは面白そうに目を細めた。
「ならば、誓いの口づけを」
竜が近づいてくる。
えーと、これって口に直接でいいってこと? それともちょこっと浮いている前足にしたほうがいいのかな。
どきどきしながら、竜の口もとにくちづけた。丸呑みされなくて、よかった。
「契約は成立だ」
紅玉から光があふれ出し、教会に満ちてゆく。その光の強さに、私は思わず目をつぶった。
光がおさまった後に見えたもの。それは白銀の竜ではなく、すらりと背の高い見惚れるような美丈夫だった。
「レベッカ、逃げるなら最後のチャンスですよ」
「なんで神父さまがそういうこと言うの」
「レベッカには、人間らしく自由に生きてほしいからですよ」
「神父さまのバカ」
僕と一緒に逃げてくださいって言われたら、喜んでついていっただろうけど。そうじゃないなら、お断りだよ!
神父さまの頬に自分の頬をくっつけてみる。冥土の土産に、これくらい許されるよね。驚いたような神父さまの顔がかわいくて、笑顔でさようならを伝える。
窓の外にはまあるく輝く金色の月。その月がゆっくりと陰っていく。
完全に月が消えるとともに目の前に現れたのは、白銀の竜だった。魔力の源なのか、輝く紅玉がまぶしい。
「レベッカ、我は汝とともに生きることを望む。番としてともに生きよ」
おっと、そう来ましたか。食われるよりましなのか。食われるよりも苦しいことが待っているのか。
「その身を捧げる代わりに、ひとつ願いを叶えてやろう」
「はいっ、番になります!」
現金と言うなかれ。神さまに願いを叶えてもらう機会なんて、これを逃せば二度とない。
「それでは、実父以外のすべてのひとから私の記憶を消してください」
「なにゆえに」
「誰もがもっと幸せになれるはずだったのに、私がそれを奪いました。父は自業自得ですが」
この地を治める領主には、認知していない庶子がいる。さらに、妾として召し上げられた女性の元婚約者に預けられたというのは、地元では有名な話だった。
いやまじでドン引きだよね。よりにもよって、そこに預ける?
元婚約者――養父――はそんな私を慈しみ、育ててくれた。養母もまた、実子と分け隔てなく育ててくれたと思う。
けれど、世の中にはお節介な人間というものがいるもので。
『あんたは、お父さんとお母さんの本当の子どもじゃないんだ。迷惑にならないように、わがままを言わずに過ごしなさい。あんたたちのせいで、お父さんがどれだけ苦労したことか』
そんなこと、他人に言われなくっても私がよくわかっている。だから、生贄になることは渡りに船だったのだ。
腹違いの姉妹――領主の娘たち――も被害者なのだと思う。彼らの性格の悪さは、節操なしの父親の影響が大きいんじゃないかな。単純に、生まれつきの根性悪だったらごめん。
「この教会の神父の記憶からも消えるが、構わないのか?」
「か、構いません」
ひえっ、神父さまへの気持ちが神さまにバレバレとかどういうことなの。
「そりゃあ、覚えていてほしいですけれど……。ゆっくりと忘れられたり、良い思い出として語られるくらいなら、いっそ最初から消えてしまいたいんです」
ずっとずっと私のことを覚えていてほしいけれど、それを望んではいけないから。
私の答えに、神さまは面白そうに目を細めた。
「ならば、誓いの口づけを」
竜が近づいてくる。
えーと、これって口に直接でいいってこと? それともちょこっと浮いている前足にしたほうがいいのかな。
どきどきしながら、竜の口もとにくちづけた。丸呑みされなくて、よかった。
「契約は成立だ」
紅玉から光があふれ出し、教会に満ちてゆく。その光の強さに、私は思わず目をつぶった。
光がおさまった後に見えたもの。それは白銀の竜ではなく、すらりと背の高い見惚れるような美丈夫だった。
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