どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架

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律儀にフラグを回収して帰国する事になりそうです(4)

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 クロイツの呟き通り、あの演奏会が私にとっての波乱の終焉だったらしい。
 以降の帝国遊学は穏やかに、何事も無く……本当に何事も無く終了する事が出来た。
 
 多分、帝国内では決して穏やかとか言えない時間が過ぎていたと思うけどね。
 実際、王宮内もそことなく緊張感に包まれていたし、私達の遊学も当初の予定より短い期間での帰国となったし。
 態々首を突っ込む気はないから予測でしかないけど、皇族の不祥事であり、貴族の根本的な思想の問題にまで発展したであろう今回の一連の事件は帝国貴族達を困惑の中に陥れる事になったはずだ。
 しかも、不可抗力とは言え、他国の人間を巻き込んでしまったというおまけ付である。
 基本的に自国の不祥事を他国に晒したいと考える人間はいない。
 弱点となり今後の外交にも差し障りがでるからだ。
 今頃帝国の外交を担う省はてんやわんやだろう。
 しかも調べないといけない事は膨大にある。
 これを機に過去の事件なども捜査するというのならば、余計にだ。
 表向き優雅に見せようとも内部では白鳥の如く必死に働いているはずだ。
 そんな緊張感が王宮内に漂っていた雰囲気の正体じゃないかと思う。

 実際アーリュルリス様達も時折厳しい顔をしていたし、私達も帝国内をみて見聞を深めるという名目で王宮内から出される事が多かった。
 後者に関しては仕方ないとはいえ私達が王宮内に滞在していがための苦肉の策という奴だろう。
 とは言え、私達に文句は無かったので特に問題に上がる事はなかった。
 見聞を深めるという理由とは言え、帝国内の彼方此方を見て回れたのは決して私達にはマイナスになならないのだから。
 また、口を挟んでしまえば内政干渉に当たると事情もあるにはある。
 殿下達もそれもあり口を噤み、普通に過ごしていたのだろう。
 ヴァイディーウス様なんかは時折「成程。これは我が国に賓客をまねいたときにも応用できそうですね」なんて末恐ろしい事を言ってたりしたけど。
 
 別にこの歳で腹黒に進化なさらなくてもいいんですよ、殿下?
 
 内心でそんな事を突っ込みつつ、ヴァイディーウス様の進化には目を逸らしつつ、私は残りの遊学を平穏に楽しんでいた。

 特に図書室での一時は私にとっては大層有意義な時間だった。
 錬金術に関しては王国の方が発展しているのか、読んだ事のある書物も多かった。
 けど帝国独自の物も存在したし、魔法に関しては見た事の無い書物も多く面白いものが沢山あったのだ。
 勿論他国の人間である私が読める物に限られていたと思うけど、それでも充分楽しむ事が出来たのだからスゴイ事だと思う。
 帝国内を回るのも楽しかった。
 観光気分とまでは言えないが、帝国と王国の違いを沢山見せて頂いた。
 今後私がどういった家に嫁ぎ、その知識を生かす事が出来るかは分からないけど、少なくともこうやって現地で見た経験は無駄にはならないだろう。
 
 こうして私達の遊学という名目の遊学の日々はあっという間に終わりを告げた。
 最後のパーティーはこれぞ帝国と言わんばかりの華やかな宴だった。
 この時には特に貴族令嬢の目は痛くなかったし、最後まで何事も無く楽しむ事が出来た。

 まぁ、途中私の演奏の事を話題に出されて少々焦ったけどねぇ。

 勿論、その場で披露なんて事にならず心から安堵したのは帝国の人達には秘密である。
 ちなみに、パーティーも厳重な警戒の中行われていて、帝国の騒動はまだ終結していない事を示していた。
 けれど、もはや私達には関係の無い話である。
 元々子供でしかない私達が此処まで問題の中心にあった事が間違いなのだ。
 子供は子供らしく、新しい環境を楽しめばよいのだ。
 それが出来なかった過去に内心苦笑しながらも送迎の宴も終わりをつげ、私達は帰国する事となったのである。

 帰国の日、私はアーリュルリス様と手紙でやり取りする事を約束した。
 何時まで続くかは分からないが『同類』であるし『後輩』と何となく重なった女の子からのお願いに私が断れなかったのだ。
 国をまたぐという事で検閲も入るだろうし、大した事は書けない。
 それでも細い繋がりが続くなら、それもまた成り行きという奴だろう。
 ある意味諦めたとも言える。
 私はアーリュルリス様との今後の関係を運命に委ねる事にしたのだ。――半分くらい投げやりだったのは否定しないが、まぁ何とかなるだろう。
 第四皇子からはクロイツ諸共帰国する事を大変嘆いていたが、お兄様と何やらお話していたので、もしかしたらお兄様と文通でもなさるのかもしれない。
 クロイツなんかはようやく逃げられる事に安堵していた。――実は私もそうなんだけどね。
 皇帝からは私的の場だからと最後に頭を下げられてしまった。
 流石に皇帝に頭を下げられるのは想定外である。
 何とか返答したけど、私が貴族令嬢の猫を被れてたのかは謎である。
 「また我が国にいらしてください。今度は何事も無く楽しんで頂きたいので」と言われたが、まぁこればかりは巡り合わせ次第という奴だろう。
 いや私達が【愛し子】である以上、穏やかな帝国訪問が実現するのは厳しい気がしないでもないが、それは考えてないおこう。
 
 ううん! 此処で弱気になっちゃダメだよね。
 目指せ平穏!
   
 と、云う私の希望は兎も角、かなり豪華な面子にお見送りされ、私達は帝国を後にした。
 帝都を出ると何時、やり取りをしていたのかタンネルブルクさんとビルーケリッシュさんとも合流し、帰国する事に。
 帰りの道中の何もない事。
 これが普通だと頭では分かっていても、実は何やらあるんじゃないかと最後まで内心ではビクビクしてました。
 結局、何事も無く王国についた時には妙に気疲れする羽目に。
 タンネルブルクさんには遠慮なく笑われたけど、仕方ないと思う。
 行きの道中を含めて、それくらい濃い時間だったんです。
 ちなみにビルーケリッシュさんに関してだけど、改めて見てみると例の騎士サマと本当に姿形だけは似ていた。
 けど雰囲気が全く違うし、ビルーケリッシュさんはあんな風に人格が破綻していない。
 並んで立ったとしても見間違える事はないだろう。
 
 血の繋がりは疑わるを得ないけど、それも今更だ。

 ビルーケリッシュさんはタンネルブルクさんの相棒で高位の冒険者。
 それで良い。
 他でもない本人がそれで納得しているのだから、他人が口出す事ではないだろう。
 それ以上の領域に土足で入る事を許されるのは相棒のタンネルブルクさんぐらいだ。
 だから私とクロイツは結局、あの最悪の騎士の事を一切話さなかった。
 その事に後悔は無い。
 今後その事で他者に責められようとも、私は胸を張って言い切る事が出来る。――まぁいう人なんていないだろうけど。

 そんなこんなで私達の異常に濃い帝国遊学は一応無事終えたのである。
 殿下達と別れ、タンネルブルクさん達とも別れ、私達は今、我が家の前に居る。
 屋敷内に居る人総出の出迎えですか? と言いたくなるような人数が玄関に集まっている事に嬉しいやら恥ずかしいやら。
 隣でお兄様も苦笑しているし、クロイツなんて中々形容しがたい顔をしていた。
 それでもこれも私達が愛されている証だと思えば私としては嬉しさの方が勝る。
 私は肩からクロイツが降りたのを合図に駆け出すとリアに胸に飛び込む。

「ご無事にお戻り下さり本当に良かった。――お嬢様。お帰りをお待ちしておりました」

 リアの笑顔に私も自然と笑顔になる。
 ああ、帰って来たんだなぁと思った。
 帝国での日々は色々ひっくるめて経験になったと思う。
 色々あったけど帝国だって決して悪い国じゃないのも、もう分かっている。
 それに私は王国に対してそこまで愛国心がある訳じゃない。
 それでもこうしてリア達が笑顔で出迎えてくれると思うのだ。――私の居場所は此処なのだと。
 それが一方通行でない事がとても嬉しい。 
 
「リア! 皆! ただいま!」

 私は大好きな皆へと喜びと嬉しさを伝えるため満面の笑みを浮かべると「ただいま」と言うのだった。

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