どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架

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教会にて秘密?のお話を(2)

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 光闇教の教皇は御名をエファンリーゲウム猊下という。
 一応神官になった時家名を捨て、俗世と隔絶するので、名前だけである。
 そんな猊下だが、元の家名はディルアマートと言う。
 そう、猊下は現陛下の弟にあたる立派な王族なのである。
 ちなみに、光闇教に限らず、この世界では別に王族や皇族だから教皇になれる訳ではない。
 むしろ宗教と政治は完全に分離している。
 教会が国に対して影響力がない様に、国も教会に対して影響が無いのである。
 と、いう訳で、エファンリーゲウム猊下はその地位に実力でおなりあそばれたという事である。
 当時の継承権第二位がまさかの教皇。
 調べた時は、本を二度見しました。
 現国王陛下には、もう一人王女が居たらしいけど、崩御なされている。
 亡くなった理由なんかは載っていなかった。
 
 とは言え、子供三人。しかも一人は女の子って、王家としては少なくないのかね?

 公爵家なのに男子がお兄様一人のうちが言っていい事じゃないかもしれないけど。
 ともかく、今回同席する教会関係者は猊下である。
 ので、目の前には猊下がいらっしゃたりする。
 人の踏み入れない光差す雪原のような白銀の御髪に命が眠りについた凍れる湖のような蒼銀の双眸。
 まるで冬を体現したような容貌は黙っていると周囲を圧倒し、凍えさせそうな威圧感を放つのではないだろうか?
 そんな冷たいと言ってしまえる容貌だけど、穏やかに微笑んでいるためか、そこまで威圧感は感じない。
 なにより、これまた、かなりの美形である。
 『ゲーム』に続編なり、隠しキャラなりが存在していたとしたら陛下や猊下は、そこに当てはまりそうである。
 
 うん。やっぱりこの世界って顔面偏差値が高いよね。どう考えても。

 『前のわたし』に揃って謝ってほしい所である。――いや、普通だっただけなんだけどね。
 今は物凄い美少女だから、なんとか崩さないように鋭意努力中である。
 この美貌を保つのは決定事項なのです。――いや、自分の顔だという意識はあるけど、時々飛ぶだけなので問題ありません。
 クロイツは猊下を見てぽかんとした顔をしていたが『念話』でとんでもない事をぶっこんできた。

「<腹黒そーな男だなー>」
「<いや。それ思ってても言っちゃダメなやつだから>」
「<オマエだって思ってたんじゃねーか>」

 だまらっしゃい。
 否定できないからやめて。
 考えないようにしてたのにさ。
 いや、こういった穏やかに微笑んでいる人程、警戒するべきなんだよね。
 特に教皇なんて言う高い地位にある人が一筋縄でいくわけがない。
 より正確に言うならば、元王族で現教皇である存在が、なんだけどさ。
 
「<少なくとも今日は大丈夫! 殿下達がいるから! 王家の人達はお互いにお互いが大事みたいだからね>」

 少なくとも現王家の方々は皆仲良しです。……今はね? 昔はどうだったか? なんて考えないように。
 それに今日の私はおまけだし、口を挟まなければ問題ありません。

「エファンリー叔父上。お久しぶりです」

 ヴァイディーウス様が優雅に一礼すると、そんな彼に猊下が破顔する。
 おおう。
 素の笑顔は破壊力抜群ですね、流石元王族。
 ヴァイディーウス様に続きロアベーツィア様も挨拶をすると猊下の笑顔が更に輝く。
 この方、物凄く甥っ子大好きですね。
 出来れば、私達……特にお兄様を殿下達に近寄る悪意と判断しないで下さい。
 私? いや、私は既に悪影響与えている気がしてならないからいいんです。
 今後教会に近づかなければいいわけだし。
 
「ヴァイ、ロア。久しぶりですね。元気そうで本当に良かった。――そちらはラーズシュタイン家の子供達ですね?」
「はい」

 ヴァイディーウス様に促されて私とお兄様は跪き頭を垂れる。
 
「お初にお目に掛かります、猊下。私はラーズシュタイン家子息、アールホルンと申します。こちらは妹のキースダーリエ。こたびはご尊顔を拝する事が出来、恐悦至極に御座います」

 大人顔負けの口上にクロイツが影の中で驚いている。
 実際、お兄様って神童って奴だよね。
 何の因果か私に【神々の気紛れ】が起きたから目立たなくなっているけど。
 しかも努力する天才。
 はっきり言って、今の時点で記憶のアドヴァンテージは殆ど無いと思っている。
 
 もー、努力する天才って、絶対に勝てないから! まぁ、多少の嫉妬あれど、「お兄様素敵!」としか思わないんだけどね。

 せめてお兄様に誇れる妹であれるように精進する所存です。

「成程。――顔を上げて下さい」

 猊下に促されて私達は顔を上げる。
 瞬間、猊下の表情に私は驚きの声を上げそうになった。
 だって、驚く事に猊下は殿下達程とは言わないが、柔らかい笑みを浮かべていたのだ。
 素と思われる笑みに私は動揺してしまう。
 しかもしかも、猊下は立ち上がった私達の前にしゃがみ込み私とお兄様の手を取ったのだ。
 これはもう混乱するしかないだろう!

「ヴァイとロアを救ってくれて有難う御座います。そして兄上の事も。長年の苦しみの元凶を排除する切欠を下さった。本当に有難う」

 温かい笑みと本音と思うしかない真摯な言葉にお兄様と顔を見合わせてしまう。
 同時に私はこの方が自分の意志で王位継承権を放棄し神官になったのではないかと直感的に感じた。
 兄と争う事を恐れた、というのが一番有り得そうな理由だろうか?
 真実は定かではないけど、分かるのは、それほどまでにこの方にとって陛下達は“特別”な存在なのだろうという事だ。
 ならば、あまり極度に警戒する必要はないかもしれない。
 私はこの国、ひいては陛下や殿下達と敵対するつもりは一切無い。
 お父様達がこの国を愛する限り絶対に。
 だからこそこの方の大切な方々を害する事は無い。
 ならば、この方とは適切な距離であれるだろう。
 それが分かり、少しだけ、ほんの少しだけ肩の力を抜く事が出来た。

「聊か、過大な評価に御座いますが、お気持ちだけは有難く頂きたく存じます」

 此処で気持ちすら断ってしまえば、それはそれで失礼である。
 だからまぁ、この程度で返せば問題無い……かな?
 問題無しとして欲しい所である。
 困惑していて苦肉の策を取ったのだと伝わったのだろう。
 猊下は苦笑して手を離して下さった。

「それで構いません。これからも二人の良き友人でいて下さいね。……では今回のお話とまいりましょうか」

 猊下に促されて全員が席についた。

 ……実はこの時、少しばかり揉めました。
 だって殿下達が座った後、何故か猊下が座らずニコニコ笑って私達を見ているんですよ。
 え? だって次に座るのって普通猊下ですよね?
 お兄様とどうしていいか分からず固まっていると、有ろうことか猊下が「私は教皇と呼ばれていますが、俗世の家格を持たない身です。ですから貴方方の方が位は上なんですよ?」と言い出してびっくり。
 いやさ、言っている事は分からなくもない。
 確かに俗世を捨てるという意味合いで神官になると家名を名乗らない。
 それは王族にも適用される。

 け れ ど

 別に戸籍? から除名される訳じゃないのだ。
 だから猊下は今でも王族として名を連ねているし殿下達も「叔父上」と呼ぶ。
 それを甘受していたのに、どうして今更、そんな事言い出すですか?!
 うん、お兄様と二人、虚無顔で固まりました。

 多分、ピシリという音がしたんじゃないかなぁ? あはは、人からそんな音ってするんだねぇ。

 殿下達は笑って助けてくれないし、護衛の方々はオロオロしているしで、場はあっという間に大混乱に陥った。
 最終的にはヴァイディーウス様が「叔父上。二人の事が気に入ったのは分かりましたから、御戯れはそこまでに」と取り成してくれて、ようやく席に着く事ができた。
 ……気に入られているという部分は聞かなかったことにします。

 と、一騒動の後ようやく本題に入る事が出来たのである。

「さて。それではまずは名目の方を先にお話しましょうか」

 今更ですけど、話の主導権を猊下が持つんですね。
 城から説明役の方が来るとばかり。
 いつの間にか書類も用意していますし。
 実は既にお話合いは終わっていて私達には結果報告だけして下さるんですね。
 別にそれで全然かまわないんですけどね。

「アールホルン君から呪いは完全に抜けています。解呪ではなく、力業だったとは聞いていますが、それを感じさせない程綺麗に消えていたようです。確認した呪術師の方が驚いていました。キースダーリエ嬢は呪術の才能もあるのですか?」

 目を細めて此方を見る猊下。
 あの、目に好奇心が宿っているように感じるのですが?
 ……まぁこの質問くらいなら答えても何の問題も無いけど。

「いえ。残念ですが、ワタクシには呪術の才能は御座いません」

 と、思う。
 【精霊眼】等の【視える】系統の魔眼があればなれると言うならば分からないけど。
 ただ、この世界だと呪術師の才能があればステータスに記載されるはず。
 実際【錬金術】は記載されてたし。
 その場合、私のステータスに呪術師という項目は記載されてない。
 つまり私には呪術師たる何かが足りていないって事になるんだと思う。
 即答で返したからか、暫く私の言葉の真意を探っていた猊下だったが、結局小さくため息をついて「今はそれでいいです」と話を戻した。
 ……いえ、信じてませんよね、それ。
 
 嘘は言ってないんだけどなぁ。少なくとも“現時点”で私には呪術の才能は示されていない訳だし。

 そこまで疑われる理由も分からず、何とも言えない気持ちで内心ため息をつく。

「解呪は完全になされていて媒介も回収され調べた後、処分していますので今後問題はおこらないでしょう」
「「有難う御座います」」
「構いませんよ。教会の人間として当然の事をしたまでですからね。――では次が本題です」

 猊下の双眸がきらりと光った。
 優美な動きで書類を机に置く。
 それをめくりながら緩やかに微笑む。
 
 怖い。目が笑ってない。いや、王家の本気が怖いです。

 何も悪い事はしてないはずなのに、思わず謝ってしまいそうだ。
 顔が整っているから、余計怖い。
 何で殿下達は平気なんですかね?
 お兄様さえ少々顔色が悪くなっているのに。
 護衛の皆さんも顔が真っ青です。
 もしかして魔力で威圧してませんか?
 え? 何が猊下を此処まで怒らせたのでしょうか?
 
「調べた結果【光の貴色持ち】の子供達が大勢、同一の手口で呪いを受けたという事が判明しました」

 な、成程。
 つまりロアベーツィア様にも被害が行きそうだから怒っているんですね!
 それなら納得です。
 家族思いですね、素敵です。……茶化さないと恐怖で思わぬ事を口走りそうなんです。勘弁して下さい。

「実行犯はそれぞれ違いますが、媒介に掛けられている呪術の魔力が一致しました。そのために媒介を同一の存在が作ったと我々は判断しています。また実行犯はそれぞれいますが、どの人間も少々の錯乱状態が見られているようですね」
「つまり、実行犯に何かしらの魔法が掛けられていた、という事ですか?」
「多分、そういう事なのでしょう。呪術師に尋ねた所、特定の感情を掻き立てる呪術は存在しているようです。この場合「嫉妬」や「羨望」など負の感情を掻き立てて犯行を行うように誘導したのでしょう」

 成程。
 だからお兄様を害した実行犯も、あんな支離滅裂な事を言っていたのか。
 だからと言って許せるわけないけどね!

「全容把握のためにはまだ調査が必要ですね。けれど、現時点で最も怪しい存在は特定できました」

 そう言って猊下は一つの名前を指さした。
  
 フェツィーアヒト家

 爵位は子爵らしい。
 残念ながら私は聞いた事が無い家だった。
 
「フェツィーアヒト家の当主……いえ、何故かつい最近当主の座を弟に譲ったそうですから、元当主ですね。その当主が出資していた診療所の所で被害者は皆診察を受けていたようです。しかも元当主――ツヴァイドというのですが――が全員と一度は顔を合わせているという事も判明しています。彼には医術の心得もあるようで、診察したり、診察所に来た際の見舞いと言ってあった方もいるようですね」
「それは聊か不思議ですね。診療所などに出資する貴族はいますが、頻繁にそこを訪れる方は多くはありません。フェツィーアヒト家は確か領地を持っていましたよね?」
「そうですね。いくら自らに医術の心得があろうとも、そこまで頻繁に診療所を訪れるのは珍しいと言えます。しかも呪術を受けた人間に限って言えば全員ともなると……」
「偶然にしては出来過ぎ、ですね」

 しかも、現在当主の座を弟に譲っている。
 猊下の口ぶりだと、どうもまだ若いみたいだし、不審な点が多すぎるよね。

「後、気になる証言が一つあります。治療を受けた子供の一人が言っていたらしいのですが――その子供は“治療の時、魔力を抜かれた気がする”と」

 魔力を抜く?
 確かに魔道具にしろ、そういった魔法にしろ、魔力を抜かれれば気づく人は気づく。
 けれど「気がする」という事は魔石のようなあからさまな方法ではなかったという事なのかな?
 けど、その場合大量には取れないって言う量の問題あるけど、そもそもそんな密かな方法で取られた魔力って他人だと使えないんじゃないっけ?

「ただその子も感覚の問題なので自信はないようです。ただ自分の中にある魔力、それも何となく属性を宿して循環させていた魔力が吸い取られたような気がしたそうです」

 気づいたのはそのせいかな?
 だとしても、その子凄いね。
 診察を受けたって事は体調に異変があったって事だし。
 其の上で魔力の循環をさせていたって事になるでしょ?
 よっぽど癖になっているのか、体調不良が思ったよりも大した事がなかったのか。
 何方にしろ、珍しい事しているなぁと思ってしまう。
 魔力に属性を宿す事は出来るし、それを循環させる事は出来る。
 実際私も錬金術を学ぶ際に先生に言われて出来るようになった。
 それが出来ると鍋に埋め込んである魔石を介さなくとも魔力を注ぐ事が出来るから。
 出来るようになれば、場所も道具も専用のモノに頼らなくとも錬成を行えるようになる。
 極端な話、野外で普通に料理とかに使っている鍋を使って高度な錬成を行えるようになるのだ。
 
「<けど、属性を宿したままの魔力を循環させたり、放出、というか【注入】させるのって大変なんだよねぇ>」
「<そうなのか?>」
「<そうなんだよねぇ。……あれ? フェルシュルグって錬成できないの? 壊れた例の魔道具にフェルシュルグの魔力の残滓があったって聞いたけど?>」
「<あれか? あれは他の奴が作った魔道具にフェルシュルグの魔力を定着させただけだぞ? ゼルネンスキルだったか? あれを応用しただけだ>」
「<へぇ。流石ゼルネンスキル。多様性に溢れている事で>」

 今更だけどフェルシュルグって錬金術の才能はなかったんだね。

「<魔力に属性を宿すのは結構簡単かな。ただそれをずっと定着させておくのは結構大変。それに循環させると濃度が濃くなるから、操作の難易度が上がるし。結果として循環させたままでいるのは大変なんだよねぇ>」
「<へー。そういうもんなのか。オマエが簡単にやってるから、そーでもないと思ってたな>」
「<これでも努力してるんですぅ>」

 錬金術に関しては手を抜きません。
 私がそんな事をクロイツと話しているうちに猊下達の話し合いも進んでいく。
 どうやらツヴァイドとやらは光属性の魔力を集めているのではないかという話になった。
 ただ理由までは流石に分からない。
 そうだよね。
 一つの属性を宿した魔力を集めて何になるの? って感じだし。
 研究の中にはそういったモノを必要とする研究もあるかもしれないけど、その人研究者じゃないみたいだし。

「実行犯の一部は見つかっていません。近いうちに捕まえてみせますが。……ですが、捕まえた人達の共通点を調べた所、面白い事が分かりました」

 猊下は穏やかな口調で、口元に笑みを浮かべて一枚の紙を私達が見えるように差し出した。
 ……ただし、目は一切笑ってないけど。

「実行犯、又はその近しい存在がある宗教団体に所属している事が分かりました」

 ただし光闇教として許可していませんが、と続けた猊下の言葉に私達は紙を覗き込む。
 その団体の名前と内容に私は猊下が目の前にいるにも関わらず顔を顰めてしまう。
 けれど、そんな反応をしたのは私だけではなかった。
 それも仕方ない。
 その団体は『例の噂』の団体だったのだから。

「“闇の安寧を護る会”と名乗っていますね。内容は闇の聖獣様とお逢いするためのあれやこれと言った、ありきたりなものです」

 猊下が一教義の事とはいえ“ありきたり”とか言っていいのだろうか?
 思わず、そんな事を考えてしまったけど、口には出さない。……言ってしまったら大変な事になりそうだし。
 いやまぁ、うん。
 良い事にしておこう。
 これ以上考えるのは厄介事の第一歩だ。

「定期的に開かれる講習会の内容も変な所はありません。孤児院の経営もまぁ概ね問題はありませんね」
「例の子供の一件がなければ、ですね」
「そうですね。今でも調査はしようとしているのですが、新興の団体の割には信徒たちの結束が高いので、中々と言った所のようです」

 ある意味凄いな。
 貴族からの調査をつっぱねるって。
 それともその団体にも貴族が付いてるのかな?

「何人かの貴族が支援しているようです。……フェツィーアヒト家も、ね」

 沈黙が部屋を包んだ。
 強引と言ってしまえば、それでおしまいだ。
 けれど、まさか此処が繋がるとは思わなかった。
 紙を見ると確かに支援者の一覧の所にフェツィーアヒト家の名前もある。
 それ以上に目を引くのは、個人出資としてツヴァイドの名前もある事だった。
 
「どうやら例の診療所と団体は繋がっているようですよ? 孤児達を診察しているのは例の診療所のようですから」

 私達の誰もがグルだと感じてるだろう。
 偶然と言えば偶然かもしれない。
 けれど、どうしても、繋がってしまった線を意識してしまう。

 診療所では【光属性を宿した魔力】を集めている。そして孤児院から消えたのは【闇の貴色を宿した子供】。この二つを切り離して考えるには何方も不穏な噂が付き纏い過ぎている。

 こういった事に先入観は禁物とはいえ『推理小説』のミスリードではあるまいし、実はクリーンな団体でした、とは言えないはずだ。
 少なくとも何方も何かしらの罪は犯している。

「<厄介なのは二つの団体が別の意志を持ってやらかしている場合、かな?>」
「<グルとしか思えねーけどな>」
「<私もそう思う。けどさ、協力しているだけ、って可能性もあるかも? とは思うんだよね>」
「<あー。その可能性は確かにあんな>」

 その場合、片方だけを潰しても、もう片方には逃げられてしまうだろう。
 そうして残った片方は再び何かをやらかすはずだ。
 最悪、潜伏されてしまっては不穏の芽を完全に潰してしまう事が不可能になる。
 何方も被害者が出ている以上、それだけは避けたい。

「勿論、現時点では明確に犯罪で繋がっているとは言い切れません。取り敢えず、フェツィーアヒト家以外の資金支援をしている貴族達を密かに調査しているとの事です。個人的な援助をしているツヴァイドだけなので後回し、ですね」

 外堀を埋めて罠にかけようとか思ってませんか?
 大変イイ笑顔の猊下に、そんな事が頭をよぎったが、口に出さずに飲み込む。
 肯定されても誤魔化されても後が怖い。

「今、分かっているのはこれくらいですかね」

 思ったよりも事が大きくなりそうな予感に内心ため息をつく。
 しかも私は【闇の愛し子】でお兄様は【貴色持ち】なのだ。
 この件が片付かない限り、楽しく王都見学とはいかないだろう。
 場合によっては私だけでも領地に帰った方がいいかもしれない。

 折角お兄様と一緒にいれるのに。それにお兄様を害した相手に何も出来ないなんて。

 もう少し実行犯と“オハナシアイ”をするべきだったかな? と思考が物騒な方にふれる。
 内心、そんな事を考えていると両殿下が私の方を向いた。

「キースダーリエ。オマエは俺が護ってやるからな。安心しろ」
「ロアベーツィア様。……お気持ちだけ頂きますわ。ですがワタクシ達臣下が殿下をお守りするべきです。ですから殿下の事はワタクシとお兄様がお守りいたしますわ」
「そうだよ、ロア。お前はまず自分の身を護る事を考えなさい。キースダーリエ嬢は私も気にかけておくからね?」
「いえいえ。ヴァイディーウス様もご自身を第一にお考え下さい。どう考えても殿下達の次に大切なのはお兄様であり、ワタクシの優先度は一番下ですわよね?」
「次期当主は決まってないから僕とダーリエは同じだからね? それに兄として妹を護らせてほしいな」

 がやがやとお互いに護りたい、護らせてくれと言っていると、笑い声が耳朶を打った。
 声の方を見ると猊下が声を上げて笑っていた。
 
 あ、しまった。此処には猊下もいるんだった。

 私とお兄様があからさまに「しまった」という顔をすると、何故か猊下は更に笑い声をあげる。
 けれど、しばし笑った後、私達四人を見る猊下の目はとても優しいものだった。

「仲が良いね」
「そうですね。二人には良くしてもらっています」

 ヴァイディーウス様の言葉に慌てたのは私とお兄様だ。
 むしろ私達が面倒みてもらっている方だと思う。
 特に私は貴族令嬢の枠組みにはどうしても嵌らないのだから。
 けど、何かを言う前に猊下に止められてしまった。

「それはとても良い事だね。――キースダーリエ嬢、アールホルン殿」
「「はい」」
「ヴァイとロアを宜しく。これからも二人の良き友となって欲しい」

 猊下の真剣な眼差しに私とお兄様は一瞬顔を見合わせると立ち上がる。
 そして会釈をした。

「「勿論に御座います」」

 頼まれなくても、と思わなくもない。
 けれど、猊下は本当に殿下達を心から心配なさっている。
 気づかいの気持ちから出て来た言葉だと分かる。
 ならば、私達が出来るのは、その気持ちを受け取ったという意志だ。
 態度はこれから示していけば良い。
 そんな私達の気持ちが猊下に伝わったのか、猊下が微笑む。

「本当にありがとう」

 そんなやり取りの後は事件についてではなく、軽い話をして時間は過ぎていった。
 中々濃い時間だったと思いながらも、私達に出来る事は無いのだという事も実感した。
 今回は巻き込まれてはいけないのだ。
 毎回好き好んで巻き込まれているわけではないが、今回は特に危険だ。
 私達兄妹と殿下達。
 四人ともターゲットになり得る。
 それが分かってしまえば、無理に首を突っ込む事は決して出来ない。
 いくらお兄様を害した相手でも、だ。
 無理して再びお兄様に手を出されては困る。
 少々口惜しいけど、お兄様達の安全が第一である。

 それにしても猊下は本当に家族を愛していらっしゃるのだなぁと思う。というよりも陛下と猊下はとても仲が良いんじゃないかな? そうなると亡くなった妹君とも仲が良かったのかな?

 前国王陛下の時代に何があったのか、私に知る術はない。
 ただ、ちょっとだけ思った。
 若くして即位した陛下。
 神官になる事で確実に継承権を放棄した猊下。
 ……そして亡くなった妹君。
 もしかしたら全てが繋がっているのかもしれない、と。

 だとしても、これ以上は王家の闇って奴になるんだろうなぁ。これぞ触らぬ神に祟りなし、なんだろうねぇ。

 これ以上の深入りは禁物である。
 それよりも目の前の事に集中するべきである。
 足元を疎かにしちゃダメだからね。

 それにしても……。
 ノギアギーツ様がアズィンケインを観察していたような気がするんだけど、気のせいだろうか?
 それにアズィンケインも何か様子がおかしかったような?

 気のせいかな?

 何となく引っかかるモノがありつつ、話が終わった私達は神殿を後にするのだった。


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