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式の前には穏やか時間を(2)
しおりを挟む我が国の王城は白亜色で、多分『ドイツ式建築?』になると思う。
『前世』においてわたしたちが考える『王城!』と言った雰囲気ではないだろうか。
こんな事を言うと「では学園は?」と疑問に思うだろう。
その答えが今、目の前に広がっている。
「<へぇ。これが学園か……じっくり見ると広いな>」
「<まぁね。王国で唯一魔法を取り扱う事が許可されている学園だもの。そして魔力持ちは基本的に貴族となれば、ねぇ?>」
広大な敷地が確保されており、セキュリティは万全。
最悪要塞としても機能できるような魔法が掛かっていても私は驚かない。
では、外観は? となると、此方も一言で言って「凄い」だ。
石が積み上げられた重厚感ある建物は歴史を感じさせる。
古びてはいるが、決して廃墟とは言えない、清潔であり、綺麗な外壁に包まれた建物達。
地震が来たら大丈夫なのだろうか? なんて考えてしまうのは『前世日本人』の性質だろうか?
まぁ、この世界ならば魔法でどうにかなるだろう。
そもそも地震なんてこの世界にあるのだろうか?
なんて事を考えつつ、見れば見る程、建築に興味のない私でもこの学園がとても古く、それでいて強く創られている事が分かる。
魔法も丁寧にかけられているのか聊かの乱れも見られない。
落ち着いた色合いもひっくるめて学び舎としての完成形を見せられている気分になるのだ。
「<これでいて中庭とかテラスとかは英国式? っぽい造りで華やかなのよねぇ>」
「<そうなのか?>」
「<うん。『ゲームのスチル』で見ただけど、そんな感じ>」
私は攻略本も買わなかったし、さっきも言ったように建築には興味が無かったから詳しく調べなかった。
テラスはそんな私の考えるハイティーやらなんやらにうってつけの場所って感じだった。
『前世』では憧れる人は多いんじゃないかなぁと漠然と思ったもんだ。
「<あー。それはオキゾクサマがおおいせーか?>」
「<ほぼ貴族だからねぇ。分からないけど、そうなんじゃない?>」
社交の場として提供される事もある中庭やテラス、後東屋? だし、多分そういった方面に相応しい造りが『前世』でいう『英国風建築』だったんじゃないかな?
と言うか製作サイドの考える貴族に相応しい造り? ってやつ?
などと少々メタい事を考えつつも歩みはとめない。
入口も目に見える学舎に相応しい見た目重厚感のある造りだ。
「<城門風の入口に兵の姿ねぇ。ここら辺は城っぽいな>」
「<うん。そこらへんはセキュリティの問題だし、同じ感じなんじゃない?>」
私はクロイツと会話をしているのを一切表に出さず、馬車を降りると入口から学園内に入る。
制服を着ているからか特に呼び止められる事も無い。
いや、そもそも馬車から降りるのを見てるし、馬車に家紋が刻まれているし呼び止める理由はないだろうが。
ちなみにルビーンとザフィーアは何やら言っていたが無視した。
聞いてると日が暮れてしまう。
だから、適当な時間に迎えにくるように言いつけると早々に離れたのだ。
「<それにしても広いな。これ迷わね?>」
「<実際『ヒロイン』と『第二王子』の出逢いイベントは迷ったヒロインを王子が会場まで案内するやつだからねぇ。……よくよく考えると無理があるんだけどね?>」
「<そうなのか?>」
「<うん>」
そう、実の所、『オープニング』とも言える『出逢いイベント』は無理があるイベントなのだ。
その事に気づいたのは私も学園に入学前に読む事が推奨されている冊子を読んだからなのだが。
私はその理由に近づくと謎の球体に手をかざす。
ブオンという音と立てて画面が眼前に現れたのを見てクロイツの驚いた声が聞こえる。
内心小さく笑うと指を透明な画面――まるで『壁掛けのテレビ』のような代物に向ける。
「<案内板ってやつだよ>」
「<ファンタジーとSFの融合かよ>」
「<本当にね。少し心が踊るよね>」
「<踊るなよ>」
「<踊らない?>」
「<……踊るけどよ>」
「<だよね!>」
過去の転移者や転生者が開発したのか、偶然こうなったのかは分からないけど、まるで魔法で現れたステータス画面のような透明な板は私達にとっては『SFに出てくる画面』のようなのだ。
これには男の子ではなくとも心躍るだろう。
「<けどまぁ、確かに。これがあれば迷わねーわな>」
「<相当の方向音痴や冊子を見ないおバカさん以外はね。更に言えばそんなおバカさんに一目ぼれって難しくない?>」
「<難しいな>」
「<ま、好みなんて人それぞれだし『ゲームの第二王子』はそんな『ヒロイン』が好ましく見えたんだろうけどね>」
平民でこの学園に入学を許された、いや正確には貴族に引き取られた庶子? の子が冊子を見ない事なんてあるのかね?
私がその立場だったら何か問題がないか隅々まで確認するけど。
幾ら学園では平等を許されていると言っても、完全に身分がなくなる訳じゃない。
学園における「平等」とは理不尽な権力から下を護るためにある「平等」なのであって無法地帯が許されているという事ではないだから。
「(『ゲーム』の『ヒロイン』はそこらへんは弁えていたし、それでいて背後にある家ではなく個人を見たからこそ気に入られた、好かれたって話だろうしねぇ)」
攻略対象キャラだって、別に家が心底嫌いな訳じゃないだろう。
ただ少し息苦しくて、自由になりたくて、けど貴族の家に生まれたからには柵が多くて。
そんな苦しい状況をヒロインといる時だけは忘れられた。
ヒロインと話すだけで前向きになれた。
一時の安らぎを得た事で彼等も現状を受け入れて前を向く事が出来た。
その結果ヒロインを好きになる。
多分、そういう過程を経たからこそ『彼等』は『彼女』を深く愛し、生涯の伴侶に選んだ。
「<家の否定は全ての否定。それを受け入れるなら貴族として失格だからね>」
「<うん? ああ、攻略対象とやらか?>」
「<そう。切っ掛けは一目ぼれでも、その後継続する理由って『ヒロイン』がくれた受容と安らぎなんじゃないかな、ってね>」
「<貴族の餓鬼はせまっ苦しい世界で生きてるからな。そういった理由で惚れるなら、まぁ分からなくもないか>」
「<と言うか、そう言う理由であって欲しいという願望かもしれないけどね>」
じゃなければ攻略対象達は愚か過ぎる。
お兄様が愚か者扱いされるのは許容したくない。
「<さて、と。入学式会場に行こうか>」
「<おう>」
私はこれからあるであろう出逢いイベントを見ずに歩き出す。
と言うかロアベーツィア様が一目ぼれするとは思えないのだが、どうなんだろう?
少し興味が引かれなくもない。
ないが……。
「ここに私がいると知り合いに視線が行って『イベント』が起こらない気がするんだよねぇ」
「それはそれでありじゃね?」
「まぁね。けど面倒だし、そこまで気にならないから」
「ドライだな、相変わらず」
「結果は入学式が始まる前に分かるしね」
私は口元を密かに緩めると講堂へと足を向けるのだった。
何処の造りも丁寧で眼で楽しめる建築だったのは蛇足である。
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