世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実

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異世界車検

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すっかりセレンと仲良くなったパーラを屋敷に残して、まだ明るいうちに用事を済ませようと、伯爵邸を出て職人街へと向かう。
目的はバイクの点検のためにクレイルズに会いに行くこと。
街中を珍しい乗り物が走るというのはやはり住民にはいい見世物になるようで、久しぶりのバイクの登場に道の脇では子供たちが手を振ってくるので振り返しながら進み、工房へと辿り付いた。

外観は前に来た時とさほど変わっていないが、建物の外にまで広がっていた資材の量が増えているのに少し驚く。
工房のドアをノックして店の中へ入る。
どうせ聞こえていないだろうと勝手に入らせてもらったが、案の定奥の作業場で何かを弄っているクレイルズを見つけて声をかける。

「クレイルズさん、俺です、アンディです」
気持ち強めに声をかけることで存在を知らせると、それに気付いたクレイルズが手元を見ていた顔を上げてこちらに向き直る。
「おぉ!アンディじゃないか。久しぶりだね」
「ええ、お久しぶりです」
「前に会ってから二カ月ぶりかな。あれからバイクの調子はどうだね?」
椅子からひょいと降りながらこちらに歩いてきてバイクのことを尋ねてきた。

「今日はそのことについて来ました。バイクを見てもらおうと思いまして」
「故障かい?」
「いえ、メンテナンスというか、悪い所が無いかを調べるというか、そんな感じを」
我ながらフワッとした頼み方だと思うが、こっちの世界でもメンテナンスという言葉が通じるかわからないので探り探りの言い方になるのは仕方ないだろう。
「メンテナンスってのは初めて聞く言葉だけど、何となく言いたいことはわかるね」

魔道具というのは壊れてから初めて修理が行われるため、事前に不具合を調べるというのは普通は行われない。
普通の道具と違って一般的な普及率がまだそれほど高くない魔道具は修理するにも手間と金が意外とかかるもので、そんな高価なものを壊れていないにもかかわらず金を出して調べてもらうという考えはこっちの世界ではあまり根付いていないようだった。
取り返しのつかない故障で魔道具を完全に壊すよりも、まだ手の施しようのある状態で直す方がコスト的にもずっと安上がりだと力説すると、クレイルズもこの考えには感心しきりだった。

「僕らもね、魔道具職人としては直すのも仕事の内だけどね。完全に壊れてしまったものを直すのは簡単じゃないんだよ。一から作り直すのも手間がかかるし、そうやって完成した魔道具はもう別物になるから、思い入れのある品なんかは手を入れづらいんだよね。そういう点からメンテナンスっていう考えはすごくいいと思う。もっと広まってほしい位だよ」
ガレージに搬入したバイクを点検しながら語るクレイルズの言葉は、職人として今まで直せなかった魔道具に対する懺悔のようにも聞こえ、それと同時に少し嬉しそうな顔をしていた。

フレームから動力に至るまで完全に調べ終わると、クレイルズから検査結果が伝えられる。
「特に問題はないみたいだね。車体に歪みも無いし、車輪もそれほど擦り減ってないから大丈夫」
レースの時に意外と派手に扱ったような気がするが、故障が無いのは堅牢さの証か。
クレイルズからの提案で今積んである魔力タンクの改良版があるということで、早速積み替えてもらった。
大きさは変わらないのだが、魔力の貯蔵効率が格段に上がって、今までの倍近い魔力をため込むことが出来るようになったのだそうだ。
さらには俺以外の普通の魔術師の魔力でもモーターへの出力が可能になるというので、随分使い勝手がいい。
航続距離は単純に2倍に伸びることになって嬉しい限りだが、俺としては金額が気になる。

「今回はタダでいいよ。メンテナンスの考え方を聞いて新しい商売につながりそうな気がしたからね」
「いいんですか?まあこっちもあまり資金には余裕がないので助かりますけど。けどまあ、保守点検を商売にですか。確かに今までにない考え方ですからしばらくは独占状態でしょうね。けど、良心的な値段設定にしておいて下さいよ?」
「大丈夫、あくまでも今の仕事の一部にするだけだからね。あんまり高いとすぐに他の人に取られちゃうよ」
クレイルズ以外にも魔道具の職人はいるのだから、点検だけなら安い値段でやるという所は他にも出てくるだろう。
だから最初のうちに点検を数多くこなして客の信頼を得ておくのは大事だ。
そうすれば継続的にクレイルズに仕事を頼むことも増えてくるはず。
この辺りは俺に何かできることは無いので、個人の努力で頑張ってほしいものだ。

異世界初の車検が終わり、クレイルズからお茶を勧められたのでガレージの隅に木材を重ねて即席のテーブルを組んで頂いていると、今受けている注文の愚痴がこぼされた。
「最近エイントリア伯爵からバイクの制作依頼を受けたんだけどね、一から設計図を引いて作るから時間がかかるって言ったら毎日のように催促の嵐でね」
俺がバイクに乗せたその日のうちにクレイルズに注文を入れ、バイクの制作を開始したのだそうだ。
ある程度の材料を揃え、後は車体のデザインの打ち合わせとなったのだが、伯爵というのは伊達ではなく、仕事の合間に顔を出すというのが簡単にできる身分ではないため、デザインが決定して制作に入れたのはつい最近のことだったのだそうだ。

「アンディの時は設計図がトントン拍子で書きあがってすぐに作れたけど、伯爵のバイクは僕が一から設計図を引かなきゃならないから時間がかかるんだ。いっそアンディのと同じにしたらどうかって提案してみたけど、自分だけのバイクじゃなきゃダメだって言われちゃうとね」
ルドラマは意外と子供のようなところがあるからな。
その時の光景が目に浮かぶようだ。
「それでつい先日完成したんだけど、引き渡しに行こうとしたら伯爵は今城に詰めてるからしばらく預かれって言われてさ」
チラリと隅に置かれた布の掛けられたバイクに目線が行き、つられて俺もそちらを見る。

大きさは俺のバイクとさほど変わらないが、横幅が多少あるのでそのことを聞くと、安定性を求めて車輪の数を前輪1に後輪2の計3つにしてあるために横に少し広く作ってあるのだそうだ。
練習が必要な2輪よりもそちらの方が確かに安全だしすぐに乗れるからこの形に落ち着くのも納得できる。
ただやはり速度はあまり出ないらしく、単騎の馬よりは幾分か劣る程度だが、馬車よりは早く走れるのでルドラマも満足できるだろう。

「今日は点検してもらってありがとうございました。あとお茶もご馳走様でした」
「うん、僕も有意義な話が聞けて良かったよ。点検ならいつでも受けるからまたおいで」
ガレージの前で別れのあいさつを交わし、道へと進み出て走り去る。
心なしかバイクの調子もいい気がして軽快にハンドルを切りながら通りを疾走する。

交換したての魔力タンクに取り付けられたメーターの減りもかなり緩やかなもので、航続距離が伸びたことが目に見えて分かり上機嫌で伯爵邸へと帰って来た。
玄関前に用意された駐輪場にバイクを停めてから家の中へ入ると、玄関ホールをなにやら荷物を持ったサティウが通りかかった。

「あぁ、アンディ殿ちょうどいい所に」
「はい?俺に何か?」
俺を見つけたサティウがこちらにすたすたと速足気味に近付き、手に持っていた荷物を目の前で広げて見せてきた。
それは子供のサイズに合わせて作られた半ズボンのようで、らんらんと輝いたサティウの目からその服を持っていた理由が透けて見える。

「少し時季外れですが、これを履いてみませんか?あぁ、ご心配なく。あちらの部屋が暖かいのでそちらで着替えれますよ。何でしたら私が着替えを手伝いますが?」
真冬に半ズボンは確かに時季外れだろう。
というか、需要のない季節によくそれを手に入れたものだと感心する。
いや、もしかしたら前々から持っていたのか?
この女、本物のショタコンじゃねーか。
マクシムは大丈夫なのかと心配になってくる。

人は隠し事がある時、何故か早口で聞いてもいないことを話し出すという。
今のサティウは正にその典型の様で、饒舌に話しながらも視線はチラチラと動いており、今この場所に他の人間が通りかかるのを恐れているように見える。

「…なぜ俺にこれを?」
「これを履いた少年を愛で…ん゛ん゛!偶然手に入ったので丁度いい相手を探していた所に偶々アンディ殿がいただけです。他意はありません」
嘘つけ。
半ズボンが偶然手に入るってどういう状況だよ。
あと最初の愛でるって言いかけたんだから明らかに俺をターゲットにしてたに違いない。

「いえ、俺はそういうのはちょっと「おっとー偶然水差しの水がー」―危なっ!?」
玄関ホールに水差しが常備されているのだが、サティウがそれをさも偶然肘が当たったかのように動いて俺の方に倒してきたのだが、その時の口調があまりにも棒読み過ぎて狙ってやったことがまったく隠せていない。
不自然なサティウの動きに気付いていた俺には水差しの水は簡単に避けられたのだが、その際にサティウの舌打ちの音が思いのほか大きく響いたのを聞いて、意外といい性格しているのはわかった。

「おっと床が濡れてしまいましたね俺は誰かを呼んでくるのでサティウさんは仕事に戻って下さいそれじゃあ」
「え?あ、ちょま、少年の太腿ー!!」
一息で全てを言い切り、その場を高速で立ち去る俺にそんな呪詛のような声を叫んで、しかし床を濡らした責任からかその場を放っておけないようで、サティウが追いかけてくることは無かった。
途中で見つけたメイド達に玄関ホールのことを伝えることは忘れずに、廊下を駆け抜けていく。
今はとにかくサティウから離れなければ。


SIDE:サティウ

「…チィッ、逃げられましたか」
私はアンディ殿が立ち去った後の玄関ホールで半ズボンを手に立ち尽くしていた。
床を濡らしたのは私に他ならないので、ここを放っておくのは流石にできず、誰かが通りがかるかアンディ殿が声をかけた誰かが来るまでこの場を動くわけにはいかない。

アンディ殿であれば似合うと思って、以前手に入れていた半ズボンを引っ張り出してきたのはいいが、どうやって履かせようかと悩みに悩んだ挙句、正面から堂々と頼むという手に出たのだが、なぜか思いの外警戒心が強いようで、すぐに私の思惑も見抜かれ、さらには咄嗟の策である『花瓶の水で濡れたので着替えを作戦』も失敗に終わってしまった。

もしも上手くいっていたらアンディ殿のまだ未成熟で未来への希望が詰まった太腿を拝むことが出来たというのに。
……ウェヘヘヘ……
…ハッ、危ない危ない。
少年の太腿を想像するだけで危うく意識を失うところだった。
これもアンディ殿がいけないのだ。
全く、私を惑わすとは悪い子ですね、そんな子は私の膝の上で抱きかかえて一日中頭と太腿を撫でてあげなくてはウヒヒヒヒヒ。

「あの…サティウ様?顔が凄いことになってますよ。それと涎も」
「放って置きなさい。またいつものよ」
いつの間にやら来ていたメイドの2人に訝しげな眼と呆れの籠った眼を向けられたが、そんなものに一々反応する時間が勿体ない。
今私の心は少年への愛で溢れているのだ!

SIDE:END
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