世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実

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やはり米こそが救いよ

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コニーの病気の原因がアレルギーだと分かり、快方への可能性が分かると親子は笑顔を浮かべて喜んでいた。
小麦アレルギーだった子供が成長と共に克服するというのはよく聞く話で、コニーも成長と共にアレルギーが収まるという可能性は十分にある。
それまでは米や豆、芋といったものを主食に食べて行けばいいだろう。
とりあえず、今日のところは俺が持って来た米で粥を作って食べさせるとしよう。

台所を借りて粥を作り、コニーの部屋へと持っていく。
今までろくに食事が出来なかった体にはあまり重いものは受け付けないだろうから、粥は実に理に適う。
「わぁいい匂い…これ、私が食べてもいいんですか?」
立ち上る香りに鼻をひくつかせて俺に食事の許可を求めるコニーだが、手を出さない理由は今まで食べた物をすぐに吐き出してきたことによる不安がよぎっているからだろう。
「大丈夫。これはコニーが食べても問題ないものだから。熱いから気を付けて」
木匙を握らせて粥を食べるように促すと、コニーは匙で掬った分を目の前に持ち上げ、しばらく見てから意を決した様に口に含んだ。

その瞬間、大きく目を見開いて粥を数舜見つめると、すぐに次を口に運ぼうとするが、その熱さに気付き息を吹きかけて冷ましながら食べ進める。
アツアツの粥というのは食事のスピードが抑えられるため、弱っていた胃には非常に優しい食べ物であった。
おまけに味付けには塩と、梅干し替わりの酢を少し混ぜて食欲増進を図っている。

夢中で食事をするコニーの姿を見ているパーバスの目には僅かに涙が浮かんでいた。
元気に食事を摂る娘の姿は随分久しぶりなのだろう。

「はぁーおいしかったです。こんなにお腹が一杯なのは本当に久しぶりです」
お替わりを平らげたコニーは満足気な顔を浮かべており、久方ぶりの満腹感に浸っていた。
「さあコニー、食べたら少し横になろう。もう今日からはお腹が空いて眠れないことはなくなるんだ」
パーバスの手でベッドに寝かしつけられ、部屋を出ていく俺達の背中に声が掛けられる。
「アンディさん。ありがとう…」
眠りに落ちる寸前の言葉であったが、しっかりと俺の耳には届き、満たされた気持ちで扉を閉めた。

再び応接室へと戻り、ソファーに座るやいなやパーバスが頭を下げてきた。
「まずは礼を言わせてくれ。一人の父親として、久しぶりに娘のあんな笑顔を見ることが出来て感謝の言葉しかない。本当にありがとう」
「パーバスさん、頭を上げて下さい。今回はたまたま私の知っていた症状と対処法が役に立っただけです。時間はかかったかもしれませんが、医者がいつか原因に気付いたはずですので」
「だがその時間はあの子にとって何よりも貴重なもの。それを守ってくれたのだ。礼をしてもし足りんぐらいだ」
まあパーバスの言うことも分かる。

子供の時間というのはあっという間に過ぎていく。
そんな貴重な時間をただベッドの上で大人しく過ごすだけではあまりにも寂しい。
だが俺がもたらした情報でコニーは普通の生活を送れるようになるのだ。
まさに暗雲立ち込める中へ光が差したような気分だったのではなかろうか。

「お礼の言葉は受け取りました。…それで例の件ですが」
「分かっている。米の税認証は必ず通して見せよう。コニーのためにも米の流通は急務だ」
私情が入っているようだが、俺の目的と特に反発するような物でもないので、別にいいか。

それからはべスネー村の位置と見込める穫れ高の予想を明かし、それらを書き記していくパーバスから時折出される質問に答えるという時間を過ごし、大筋がまとまる頃には陽が落ちる時間となっていた。
「大分遅い時間のようなので、そろそろ帰らせてもらいますよ」
「そうか、本当なら夕食でもといいたいところだが、今聞いた話をまとめなくてはならないから構ってやれんのだ」
「ええ、分かっています。それと、今日持参した米はそちらで好きに使ってください」
そう言って玄関に置いておいた米袋を指さす。

べスネー村と出る際に持たされた米袋の内の一つをパーバスの元へと持ってきていた。
これは当初は米をプレゼンする際の見本と、あわよくば試食させてその価値を知らしめるという目的があったのだが、コニーのことがあるのでパーバスに全て譲ることに決めた。
およそ30kgほどの米は、大人であれば半年もせずに消費しきるだろうが、まだ子供のコニーだともう少し持つだろうし、半年もすればべスネー村で次の米が収穫されるはずなので、それまでは十分に持つはずだ。

さらに米を炊く際に他の野菜を混ぜ込むことで嵩増しすれば1年は行けるかもしれない。
パーバスには米の調理法を教えているので、美味しい食事を楽しんでもらいたいものだ。
妻はどうしているのかと聞くと、コニーが生まれて暫くして亡くなったとのことで、今はパーバスの妹が時折コニーの相手をしてくれているのだそうだ。
そんなわけで今まではパーバスがコニーの世話にかかりきりだったが、これから快方に向かうことで職務への復帰も早まることだろう。

「すまんな、助かる。代替税の認証が通ったらすぐに伝える。エイントリア伯爵の所に連絡をやればいいか?」
「ええ、しばらくはそちらに世話になりますので。では、よろしくお願いします」
パーバスに見送られ、伯爵邸への帰路を辿る。
長い交渉を覚悟していただけに、トントン拍子に話が進んでしまって少し怖い位だ。
もしかしたら俺をこの世界に送り込んだ神が見ていて、いいように誘導しているのかもしれない。
そう考えると神の目に監視されているような錯覚を覚え、その場で足が止まる。

右手を顎に添え、左手の人差し指で天を指す。
「貴様!見ているなッ!」
・・・
・・

当然ながら反応は無く、ただおかしな人間が一人、現れただけだった。
突然道端で叫んだ俺に訝し気な視線が集まったのが分かり、周りからのひそひそ声の中に衛兵という単語を聞きつけた瞬間、ダッシュでその場を離れる。
あぶないあぶない、あのままだと衛兵に捕まって臭い飯を食う羽目になるところだ。
一応ルドラマの名前を出せば釈放は望めるが、そんなことをすれば迷惑をかけるし、絶対にアホな子を見る目をするのがわかりきっている。
このアンディ、誰かとアホをやるのは好きだが、一人でやったアホを冷めた目で見られるのだけは耐えられないんだ!

そんなことを考えながら伯爵邸へと戻ってきて、早速ルドラマに報告をする。
と言ってもパーバスが俺の話を呑んでくれたことと、コニーの病気の原因について聞かれただけで、特に難しい話はしていない。

「小麦が原因の病気とはな」
「正確には病気ではないんですが、誰でも成り得るという点ではその認識でもいいかもしれません」
アレルギー反応が起こるメカニズムは俺もテレビで見た知識程度しか持ち得ていないので、全てを説明できるわけではない。
そういうものだと言い含めることしかできないので、これは今後の医療の発展で解明していってほしい。

「パーバスがやるといったのなら代替税の件は心配しなくていいだろう。あれは恩を受けた以上は意地でも通す質だ」
「それは俺も感じました。なので心配はしていませんよ」
短い時間だったが、話をした感じでは義理堅い性格だというのは伝わって来たし、食事を摂っていたコニーを見る目は慈愛に満ちた父親のそれであったことから、俺に対する恩義は相当デカイものに育っていそうだ。
それだけにパーバスのすることに横槍が入ることはあまりよろしくない。

「できればルドラマ様からもそれとなくパーバスさんを援護して頂ければと思うのですが…」
「ふむ…まあよかろう。わしとしても米が出回るようになるのは歓迎するしな。知り合いにも根回しをしておこう」
「ありがとうございます」
よし、これで認証が通る可能性はさらに上がった。
伯爵の後押しがあればパーバスの声もよく通ることだろう。

一応ルドラマには結果が屋敷に来ることは話して快諾を貰ったが、まさか明日明後日に連絡が来るとは思えないので、それまでどうやって時間を潰そうかと悩んでいる。
パーラはセレンが構っているので暇を持て余すということは無いのだが、俺に関しては屋敷に留まるのは危険だ。
なにせここには|サティウ(ショタコン)がいるのだ。
ギルドで依頼をこなすのが無難だろう。

「すっかり話し込んでしまったな。もう遅いことだし、切り上げるとしよう。明日は何か予定は決まっているのか?」
「いえ、特には。とりあえずギルドに顔を出そうかと思っていますが。…何か?」
「いや、パーラがお前が作ったというチャーハンが絶品だと言っておってな。暇なら作ってもらいたかったのだが…」
何か大事なことを頼まれるのかと思ったら、ただチャーハンが食いたかっただけか。

ルドラマはこちらの都合を慮っているかのような口調だが、チラチラと期待の籠った視線を向けられては応えないわけにはいかない。
すっかりルドラマは米の魅力に取りつかれているようで、米の生産が軌道に乗ったらエイントリア伯爵家はいい客になるだろうな。

「…それぐらい構いませんよ。昼食でいいですね?」
「おおっ!作ってくれるか!催促したようですまんなぁ。いやぁ明日が楽しみだ。はっはっはっはっは」
上機嫌で部屋を出ていくルドラマの背中を見送り、少ししてから俺も自分の部屋に戻った。
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