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まさに僥倖とはこのことよ
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エイントリア邸でのオムライス発表会から数日後、俺はある屋敷の一室で家主の到着を待っていた。
パーバスとの面会の約束を取り付けてきたルドラマのドヤ顔をうざく思いながら、一人でパーバスの住んでいる屋敷へと赴いたのだ。
パーバスはいわゆる官僚というやつで、実家の爵位は彼の兄が受け継いでいるので彼自身の爵位というものは基本的にない。
だが、流石に政治の重要な部分である税を扱う立場の人間がただの平民と同じでは職務に妨害があっても困る。
そこで特定の条件を設定して限定的な権限を付与された職爵というものが政治の中枢に携わるものに与えられていた。
これは爵位を持たない者に対する措置であるので、実際に爵位を持っている人間には与えれることは無いが、職務の遂行に置いて保持している爵位で不足がある場合は職爵の授与が認められる。
職爵は任されている職務においては公爵以下の爵位からの要請に対しての拒否権を持ち、王国法にもその地位と身の安全を保障されている。
そんな立場にいるパーバスが職務を休止したということは、あくまでも一身上の都合であることは確かで、その悩みは彼の持てるコネを駆使しても解決できないということが推測できる。
そんなことを考えているところに、応接室のドアを開けてパーバスと思しき男性が入って来た。
細身の体に神経質そうな顔立ちは何となく銀行マンのような雰囲気を醸し出しており、聞いていた特徴通りであるため彼がパーバスだと判断した。
俺の対面に腰かけ、口を開く。
「待たせたな。私がパーバス・ガイマだ」
ガイマというのは職爵を賜る際に与えられる名前の一つで、一応家族も名乗ることは出来るが、職爵を返上すると名乗る権利を喪失する、いわば一時的な家名だとか。
「お初にお目にかかります。私は冒険者をしております、アンディと申します。此度はエイントリア伯爵様からの伝手を辿ってのこととはいえ、面会の機会を頂いたことを感謝いたします」
「そう固くならなくてもいい。君はまだ子供で、私はただの官吏に過ぎない。…それで、伯爵から聞いているが、新しい税の納め方についての承認が欲しいのだとか?米、だったか。伯爵が鼻息を荒くしていかに素晴らしいか語ってくれたぞ」
苦笑を浮かべながらそういうパーバスの顔は呆れも混じっており、ルドラマはどれだけ派手に吹聴してくれたのか少し怖くなってしまう。
話が早いのはいいのだが、ルドラマが向こうにどれだけの情報を与えているのかわからないので、まずはパーバスに税のことについての話をしてもらう。
専門家であるパーバスによると、米を新しい税として認めさせるのにはかなりの時間がかかるらしい。
なぜなら今も国中から新しく特産物を税として認めてもらうための嘆願が多数寄せられており、それらを税として認めるのには色々とクリアしなければならない条件があるため、一つ一つを精査している現状では俺が持ち込む米が案件に上るのは当分先になるとのこと。
ただこれはあくまでも正規の手段を踏んだ場合の話だ。
「さて、ここからは個人的な話だが、今私はある問題を抱えている。伯爵から聞いているが、君はとても博識だとか。おまけに発想も人より優れているとも聞いたよ。もし君が解決できれば代替税の認証は私の責任で優先的に進めさせると約束しよう」
ルドラマの手放しでの称賛が少し怖い今日この頃。
だが目の前のパーバスがどこか焦りを抱いているような印象を受けて、意外と事態は深刻なのではないかと思わせる。
パーバスには悪いが、これは俺にとってはチャンスだ。
解決できるかどうかわからないが、ここで尽力したことをアピールすれば多少の便宜を図ってもらえる可能性もある。
もちろん、解決できるのに越したことないが、俺とて万能ではないのだ。
出来ることと出来ないことの線引きはしっかりとしなくてはいつか慢心で足元をすくわれかねない。
とにかく、まずはその問題とやらを聞いてみなくてはならない。
「全力を尽くします。それで、その問題というのは一体なんでしょう?」
俺の言葉を聞いて、一瞬ためらう仕草をしてから意を決した様に話し始めた。
「私には娘がいるんだが、最近おかしな病気にかかったらしく、食事をするとすぐに吐き出してしまう。初めは食材が傷んでいたのかと思ったが、私が食べても問題は無かったからその疑いは消えた。その後も食事の度に嘔吐と下痢を繰り返している。ドンドン衰弱していく一方の娘に私は何もしてやれない。もう1カ月はまともな食事を摂れていないんだ。…何人もの医者を頼ったが、誰も原因がわからないでいる。このままではコニーは死んでしまう…」
遂には頭を抱えてしまったパーバスはよほど参っているのか、客である俺の目を気にすることなく髪をかきむしっている。。
娘の名前はコニーだということは分かったが、聞くだけなら重い病気にも思える一方で、俺はある一つの可能性が思い浮かぶ。
「パーバスさん、話は分かりました。とりあえず娘さんと会わせてもらえますか?まずはそれからです」
「…済まない、取り乱してしまったな。こっちだ、ついてきてくれ」
パーバスの案内で部屋を出て二階へと続く階段を上りながら病気のことについてパーバスに質問をしてみる。
2ヵ月前がコニーの最初の異変だった。
初めは嘔吐するコニーに体調が悪いのかと思い、安静にさせていたが、その後も何度か食事を戻すことがあって、遂に1カ月前には完全に食事を戻すようになってしまった。
一欠けらのパンですら吐き出すので、パーバスは完全にお手上げ状態だった。
病気の特定が出来そうな情報は無かったが、それでも得るものはあった。
話をしている内に目的地である部屋の前へと着いた。
「コニー、私だ。入ってもいいかな?」
「お父様?どうぞ」
ノックをしてからパーバスが入室を求めると、中から少女の声で返事が返ってきて入室する。
室内にはベッドで身を起こしている少女がおり、こちらを見て首を傾げていた。
パッと見た感じだと、小学校低学年ぐらいかと思うのだが、明らかに痩せすぎているのがわかる。
布団の上に重ねて置かれた両手の指の太さは枯れ木かと見間違えるほどの細さで、頬のこけ方も尋常じゃない。
「そちらの男の子はどなたですか?」
「彼はアンディと言って、私の仕事に関係してうちに来ていたんだ。それでアンディにコニーの病気を少し診てもらおうと思っているんだが、どうだろう?」
「この方にですか?…お医者様には見えませんけど」
突然の来訪者が子供であることに加え、自分の体を診察させようとすることに抵抗があるのか、微かに眉をひそめていたが、父親の真剣な表情に諭されるようにして頷いた。
「では失礼して」
「あー…アンディ、娘はまだ嫁入り前の体だ。分かってるとは思うがあまりまじまじと見るのは―」
「分かっていますよ。あくまでも診察です。それ以外の感情はありませんから」
父親としてのパーバスの言葉に安心させる答えを返し、ベッドにいるコニーの元へと向かう。
「やあコニー。少し体に触れるけど、これは診察だからね。気持ちを楽にして」
「はい。よろしくお願いします」
ええ子や。
初対面の人間に体を触られるのは普通は嫌がるものだが、父親が自分のためにしてくれていることを理解しているがためにこうして素直に人の言うことに従ってくれている。
早速コニーの着ている夜着であるワンピースの上からお腹の部分を触っていく。
パーバスから話を聞いて最初に思い浮かべたのは内臓系の異常だ。
コニーが痛みを訴えていないことから沈黙の臓器と呼ばれる肝臓の異常を疑ったのだが、手で触れた感じでは特にしこりや硬さといったものは感じられず、違うと判断した。
一応念のために魔術での回復を軽く施したが、体調に変化はないのでやはり原因は他にあるようだ。
俺は別に医療知識が豊富なわけではないのだが、それでもテレビやネットで聞きかじった程度の知識に加え、田舎暮らしゆえに家庭内医学には詳しくならざるを得ない環境での経験がある。
一応当てはまる症状から疑いを一つずつ潰していくが、どれも外れだ。
となると、残るのは一つだけとなるのだが、俺はこれこそが本命だと思っていた。
「パーバスさん、今から言うものを用意してもらえますか?」
パーバスに用意してもらったのは針と小麦粉と火のついた蝋燭だ。
針を火で炙って消毒し、先端に小麦粉を振りかけて付着させる。
「コニー、少しチクっとするからね」
俺の言葉に警戒感を抱いたコニーだが、それでも逃げようとしないところを見ると、自分の病気の原因を知りたいという思いは強いようだ。
コニーの肘から先の腕の内側を小麦粉の付いた針で引っかくと、少し時間を置く。
すると引っかいた場所が赤くミミズ腫れの様になったのがわかる。
予想していた通りの結果に頷いていると、後ろから見ていたパーバスから声が掛けられた。
「アンディ、これは何をしている?針で引っかいた傷を見て何が分かるんだ?」
俺のしていることを理解できていないパーバスにはさぞ奇怪なことをしていると思えただろう。
「これはパッチテストと言って、植物や鉱物のどれが人間に害を及ぼすのかを特定するためのものです。この腫れをアレルギー反応と言うんですが、コニーは小麦アレルギーだったようですね」
「アレルギー…、なんだかよくわからんが、病気の原因が分かったということか?」
「本当に?私の病気が分かったの?それは治るの!?」
興奮する親子を落ち着かせ、一つ一つ説明していく。
そもそもパーバスから聞き出した話の内容から推測するに、小麦を使った料理かパンを食したときに症状が出ているようだった。
衰弱したコニーにはここしばらくはすりつぶした果物を与えていたのだが、その間は症状が出ることは無いというのも小麦アレルギーを疑わせた。
こっちの世界では主食であるパンは完全に生活から切り離せない存在であり、体に悪いものだという認識は持ちえないのも当然だ。
アレルギーという概念も持たない人間からすると、未知の病気であると思っても仕方のない事だろう。
このアレルギーというやつは時に死に至るほどの危険なもので、放置しておくと取り返しのつかない事態になっていたかもしれないのだ。
「小麦を使った物は全てダメです。パンはもちろん、小麦粉をまぶして焼く調理も当然いけません。それ以外では特に制限はありませんが、コニーの体調の変化に注意して食事を選択してください」
一通り話を終えると、コニーは半分も理解できていないようだったが、パーバスはさすがに教養があるのか大部分を理解して事の重大さに頭を抱えていた。
「パンがだめだというのは困る。コニーはまだ子供だ。パンを主食としなくては体の成長がおかしくなる」
一応この世界でも栄養学の土壌はあるようで、バランスよく食事を摂ることを推奨する空気が醸成されており、パンは主食でもあることから欠かすことは有り得ないのだろう。
もっとも俺から言わせれば小麦よりももっと素晴らしい穀物の存在に目を向けろと言う感じだが。
「お父様、私はもうパンを食べられないの?」
「あぁコニー、可哀想に。大丈夫だ。必ずよくなる。だからそれまでの辛抱だ」
娘を抱いて悲壮感を漂わせていうパーバスだが、俺はあっさりと解決案を出す。
「いえ、辛抱する必要はありませんよ。小麦がだめなら米を食べればいいじゃないですか」
そう、ご都合主義よろしく、俺がパーバスに頼む代替税である米がコニーの救世主となるのだった。
俺の言葉を聞いてキョトンとした顔を浮かべていたが、コニーは米を知らないがパーバスはルドラマから聞かされていたようで、理解が及ぶとその顔は明るいものに変わっていった。
一応米アレルギーの可能性も含めて、先ほどの針でのパッチテストに米粉を使ったものも同時に行っていたので、米は問題ないことは分かっている。
米を炊いて食べるのもよし、米粉にしてパンを作って食べるのもよし、まさに今のコニーにはうってつけの食材ではないだろうか。
これは何という僥倖か。
代替税として推すべき米が、パーバスの娘に必要だとなると、これはもう税として認証を受けるのは確実に違いない。
もはや目的は達せられた。
あとは俺の手を加えずとも全てがゴールへと進んでいく、完璧ではないか!ふははははははは!
「ひっ!お父様、アンディさんが怖いです」
「…アンディ、頼むから娘の前でそんな顔をしないでくれ。まだ体が弱っているんだ」
おっと、どうにも上手くいきすぎて感情がそのまま顔に出ていたようだ。
けどそんなに言うって俺はどんな顔をしていたんだろう?
自分では見れないからわからないが、コニーの反応には少しショックを受けた。
(´・ω・`)ショボーン
パーバスとの面会の約束を取り付けてきたルドラマのドヤ顔をうざく思いながら、一人でパーバスの住んでいる屋敷へと赴いたのだ。
パーバスはいわゆる官僚というやつで、実家の爵位は彼の兄が受け継いでいるので彼自身の爵位というものは基本的にない。
だが、流石に政治の重要な部分である税を扱う立場の人間がただの平民と同じでは職務に妨害があっても困る。
そこで特定の条件を設定して限定的な権限を付与された職爵というものが政治の中枢に携わるものに与えられていた。
これは爵位を持たない者に対する措置であるので、実際に爵位を持っている人間には与えれることは無いが、職務の遂行に置いて保持している爵位で不足がある場合は職爵の授与が認められる。
職爵は任されている職務においては公爵以下の爵位からの要請に対しての拒否権を持ち、王国法にもその地位と身の安全を保障されている。
そんな立場にいるパーバスが職務を休止したということは、あくまでも一身上の都合であることは確かで、その悩みは彼の持てるコネを駆使しても解決できないということが推測できる。
そんなことを考えているところに、応接室のドアを開けてパーバスと思しき男性が入って来た。
細身の体に神経質そうな顔立ちは何となく銀行マンのような雰囲気を醸し出しており、聞いていた特徴通りであるため彼がパーバスだと判断した。
俺の対面に腰かけ、口を開く。
「待たせたな。私がパーバス・ガイマだ」
ガイマというのは職爵を賜る際に与えられる名前の一つで、一応家族も名乗ることは出来るが、職爵を返上すると名乗る権利を喪失する、いわば一時的な家名だとか。
「お初にお目にかかります。私は冒険者をしております、アンディと申します。此度はエイントリア伯爵様からの伝手を辿ってのこととはいえ、面会の機会を頂いたことを感謝いたします」
「そう固くならなくてもいい。君はまだ子供で、私はただの官吏に過ぎない。…それで、伯爵から聞いているが、新しい税の納め方についての承認が欲しいのだとか?米、だったか。伯爵が鼻息を荒くしていかに素晴らしいか語ってくれたぞ」
苦笑を浮かべながらそういうパーバスの顔は呆れも混じっており、ルドラマはどれだけ派手に吹聴してくれたのか少し怖くなってしまう。
話が早いのはいいのだが、ルドラマが向こうにどれだけの情報を与えているのかわからないので、まずはパーバスに税のことについての話をしてもらう。
専門家であるパーバスによると、米を新しい税として認めさせるのにはかなりの時間がかかるらしい。
なぜなら今も国中から新しく特産物を税として認めてもらうための嘆願が多数寄せられており、それらを税として認めるのには色々とクリアしなければならない条件があるため、一つ一つを精査している現状では俺が持ち込む米が案件に上るのは当分先になるとのこと。
ただこれはあくまでも正規の手段を踏んだ場合の話だ。
「さて、ここからは個人的な話だが、今私はある問題を抱えている。伯爵から聞いているが、君はとても博識だとか。おまけに発想も人より優れているとも聞いたよ。もし君が解決できれば代替税の認証は私の責任で優先的に進めさせると約束しよう」
ルドラマの手放しでの称賛が少し怖い今日この頃。
だが目の前のパーバスがどこか焦りを抱いているような印象を受けて、意外と事態は深刻なのではないかと思わせる。
パーバスには悪いが、これは俺にとってはチャンスだ。
解決できるかどうかわからないが、ここで尽力したことをアピールすれば多少の便宜を図ってもらえる可能性もある。
もちろん、解決できるのに越したことないが、俺とて万能ではないのだ。
出来ることと出来ないことの線引きはしっかりとしなくてはいつか慢心で足元をすくわれかねない。
とにかく、まずはその問題とやらを聞いてみなくてはならない。
「全力を尽くします。それで、その問題というのは一体なんでしょう?」
俺の言葉を聞いて、一瞬ためらう仕草をしてから意を決した様に話し始めた。
「私には娘がいるんだが、最近おかしな病気にかかったらしく、食事をするとすぐに吐き出してしまう。初めは食材が傷んでいたのかと思ったが、私が食べても問題は無かったからその疑いは消えた。その後も食事の度に嘔吐と下痢を繰り返している。ドンドン衰弱していく一方の娘に私は何もしてやれない。もう1カ月はまともな食事を摂れていないんだ。…何人もの医者を頼ったが、誰も原因がわからないでいる。このままではコニーは死んでしまう…」
遂には頭を抱えてしまったパーバスはよほど参っているのか、客である俺の目を気にすることなく髪をかきむしっている。。
娘の名前はコニーだということは分かったが、聞くだけなら重い病気にも思える一方で、俺はある一つの可能性が思い浮かぶ。
「パーバスさん、話は分かりました。とりあえず娘さんと会わせてもらえますか?まずはそれからです」
「…済まない、取り乱してしまったな。こっちだ、ついてきてくれ」
パーバスの案内で部屋を出て二階へと続く階段を上りながら病気のことについてパーバスに質問をしてみる。
2ヵ月前がコニーの最初の異変だった。
初めは嘔吐するコニーに体調が悪いのかと思い、安静にさせていたが、その後も何度か食事を戻すことがあって、遂に1カ月前には完全に食事を戻すようになってしまった。
一欠けらのパンですら吐き出すので、パーバスは完全にお手上げ状態だった。
病気の特定が出来そうな情報は無かったが、それでも得るものはあった。
話をしている内に目的地である部屋の前へと着いた。
「コニー、私だ。入ってもいいかな?」
「お父様?どうぞ」
ノックをしてからパーバスが入室を求めると、中から少女の声で返事が返ってきて入室する。
室内にはベッドで身を起こしている少女がおり、こちらを見て首を傾げていた。
パッと見た感じだと、小学校低学年ぐらいかと思うのだが、明らかに痩せすぎているのがわかる。
布団の上に重ねて置かれた両手の指の太さは枯れ木かと見間違えるほどの細さで、頬のこけ方も尋常じゃない。
「そちらの男の子はどなたですか?」
「彼はアンディと言って、私の仕事に関係してうちに来ていたんだ。それでアンディにコニーの病気を少し診てもらおうと思っているんだが、どうだろう?」
「この方にですか?…お医者様には見えませんけど」
突然の来訪者が子供であることに加え、自分の体を診察させようとすることに抵抗があるのか、微かに眉をひそめていたが、父親の真剣な表情に諭されるようにして頷いた。
「では失礼して」
「あー…アンディ、娘はまだ嫁入り前の体だ。分かってるとは思うがあまりまじまじと見るのは―」
「分かっていますよ。あくまでも診察です。それ以外の感情はありませんから」
父親としてのパーバスの言葉に安心させる答えを返し、ベッドにいるコニーの元へと向かう。
「やあコニー。少し体に触れるけど、これは診察だからね。気持ちを楽にして」
「はい。よろしくお願いします」
ええ子や。
初対面の人間に体を触られるのは普通は嫌がるものだが、父親が自分のためにしてくれていることを理解しているがためにこうして素直に人の言うことに従ってくれている。
早速コニーの着ている夜着であるワンピースの上からお腹の部分を触っていく。
パーバスから話を聞いて最初に思い浮かべたのは内臓系の異常だ。
コニーが痛みを訴えていないことから沈黙の臓器と呼ばれる肝臓の異常を疑ったのだが、手で触れた感じでは特にしこりや硬さといったものは感じられず、違うと判断した。
一応念のために魔術での回復を軽く施したが、体調に変化はないのでやはり原因は他にあるようだ。
俺は別に医療知識が豊富なわけではないのだが、それでもテレビやネットで聞きかじった程度の知識に加え、田舎暮らしゆえに家庭内医学には詳しくならざるを得ない環境での経験がある。
一応当てはまる症状から疑いを一つずつ潰していくが、どれも外れだ。
となると、残るのは一つだけとなるのだが、俺はこれこそが本命だと思っていた。
「パーバスさん、今から言うものを用意してもらえますか?」
パーバスに用意してもらったのは針と小麦粉と火のついた蝋燭だ。
針を火で炙って消毒し、先端に小麦粉を振りかけて付着させる。
「コニー、少しチクっとするからね」
俺の言葉に警戒感を抱いたコニーだが、それでも逃げようとしないところを見ると、自分の病気の原因を知りたいという思いは強いようだ。
コニーの肘から先の腕の内側を小麦粉の付いた針で引っかくと、少し時間を置く。
すると引っかいた場所が赤くミミズ腫れの様になったのがわかる。
予想していた通りの結果に頷いていると、後ろから見ていたパーバスから声が掛けられた。
「アンディ、これは何をしている?針で引っかいた傷を見て何が分かるんだ?」
俺のしていることを理解できていないパーバスにはさぞ奇怪なことをしていると思えただろう。
「これはパッチテストと言って、植物や鉱物のどれが人間に害を及ぼすのかを特定するためのものです。この腫れをアレルギー反応と言うんですが、コニーは小麦アレルギーだったようですね」
「アレルギー…、なんだかよくわからんが、病気の原因が分かったということか?」
「本当に?私の病気が分かったの?それは治るの!?」
興奮する親子を落ち着かせ、一つ一つ説明していく。
そもそもパーバスから聞き出した話の内容から推測するに、小麦を使った料理かパンを食したときに症状が出ているようだった。
衰弱したコニーにはここしばらくはすりつぶした果物を与えていたのだが、その間は症状が出ることは無いというのも小麦アレルギーを疑わせた。
こっちの世界では主食であるパンは完全に生活から切り離せない存在であり、体に悪いものだという認識は持ちえないのも当然だ。
アレルギーという概念も持たない人間からすると、未知の病気であると思っても仕方のない事だろう。
このアレルギーというやつは時に死に至るほどの危険なもので、放置しておくと取り返しのつかない事態になっていたかもしれないのだ。
「小麦を使った物は全てダメです。パンはもちろん、小麦粉をまぶして焼く調理も当然いけません。それ以外では特に制限はありませんが、コニーの体調の変化に注意して食事を選択してください」
一通り話を終えると、コニーは半分も理解できていないようだったが、パーバスはさすがに教養があるのか大部分を理解して事の重大さに頭を抱えていた。
「パンがだめだというのは困る。コニーはまだ子供だ。パンを主食としなくては体の成長がおかしくなる」
一応この世界でも栄養学の土壌はあるようで、バランスよく食事を摂ることを推奨する空気が醸成されており、パンは主食でもあることから欠かすことは有り得ないのだろう。
もっとも俺から言わせれば小麦よりももっと素晴らしい穀物の存在に目を向けろと言う感じだが。
「お父様、私はもうパンを食べられないの?」
「あぁコニー、可哀想に。大丈夫だ。必ずよくなる。だからそれまでの辛抱だ」
娘を抱いて悲壮感を漂わせていうパーバスだが、俺はあっさりと解決案を出す。
「いえ、辛抱する必要はありませんよ。小麦がだめなら米を食べればいいじゃないですか」
そう、ご都合主義よろしく、俺がパーバスに頼む代替税である米がコニーの救世主となるのだった。
俺の言葉を聞いてキョトンとした顔を浮かべていたが、コニーは米を知らないがパーバスはルドラマから聞かされていたようで、理解が及ぶとその顔は明るいものに変わっていった。
一応米アレルギーの可能性も含めて、先ほどの針でのパッチテストに米粉を使ったものも同時に行っていたので、米は問題ないことは分かっている。
米を炊いて食べるのもよし、米粉にしてパンを作って食べるのもよし、まさに今のコニーにはうってつけの食材ではないだろうか。
これは何という僥倖か。
代替税として推すべき米が、パーバスの娘に必要だとなると、これはもう税として認証を受けるのは確実に違いない。
もはや目的は達せられた。
あとは俺の手を加えずとも全てがゴールへと進んでいく、完璧ではないか!ふははははははは!
「ひっ!お父様、アンディさんが怖いです」
「…アンディ、頼むから娘の前でそんな顔をしないでくれ。まだ体が弱っているんだ」
おっと、どうにも上手くいきすぎて感情がそのまま顔に出ていたようだ。
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