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興味を抱ける人
しおりを挟む言いたい言葉はまだまだあるけれど、顔面蒼白になってトボトボと帰って行く第二王子と慌てて後を追い掛ける第三部隊を見たらちょっとは溜飲が下がるというもの。ふんっと鼻を鳴らしたら横にいる公爵が動いたのが分かった。
「マルティーナ様」
見上げるといつもと変わらない貼り付けた微笑があるものの、微かに困っていそうな風にも見えた。
「ジョーリィは貴方を止められなかったようだ」
「ジョーリィ様を怒らないであげてください。私が部屋にいてくださいと念押ししただけです」
時間が掛かっているだろう公爵の手をこれ以上煩わせる訳にもいかないとやっぱり決めた私は、一緒に行くと言って聞かないジョーリィ様に頼み込んで部屋にいてもらったのだ。私にとって最低最悪な第二王子は、ジョーリィ様にとっては良い人なのだ。今後社交界に出るつもりもなければ、魔導研究所に関わっていない貴族の子供と交流を持とうと思えない。
「勢いで殿下の顔を二発叩いちゃったけど後でお父様に怒られないかな……」
「ルチアーノ様は怒らないのでは? 寧ろ、三日前念を押した王妃殿下に対して怒るだけかと」
今度こそお父様は自分の顔を王妃殿下に叩かせようとするだろう。そうなったらそうなったで王妃殿下はまた腰を抜かしそう……。
「はあ……」
「大きな溜め息ですね。どうしてもヴィクター殿下は嫌ですか」
「嫌です! 私は政略結婚をしなくてもいいとお父様に言質は取ってます。私にしたらメリットがありません」
「なるほど。確かに、メリットがあるのは王家だけ。マルティーナ様やルチアーノ様にとってはお荷物でしょうね」
私が第二王子を叩いたと知った王妃殿下や王太子殿下が次どう行動するかは謎だけれど、これを盾に陛下に私との婚約解消を願い出てほしい。公爵の言う通り私と殿下の婚約は、王家側にメリットがあるだけで私達には何もない。私が殿下を一目惚れしてどうしても殿下の婚約者でいたいならまだしも、全くそんなことはない。あの王子いいのは顔しかない。顔のいい人は眺めるだけに限る。
「ジョーリィ様にもいつか婚約者を作りますか?」
「そうなるかと。どうして?」
「そうなったら、こうやって遊びに来てもらうのも無くなっちゃうなって」
きっと婚約者ができてもジョーリィ様は招待すれば必ず応じてくれるだろう。何なら、公爵と一緒に必ず来てくれる。そうなってしまうと婚約者となる相手に申し訳がない。
「ふむ……ジョーリィに婚約者ですか」
高位貴族、公爵家の次期当主ともなるジョーリィ様に婚約者ができるのは不思議じゃない。なのだが、公爵の反応が微妙だ。まだ人との交流に慣れてないジョーリィ様には早いと思われたかな。
「ジョーリィに婚約者をつけるのは、ジュリエットをどうにかしてからでしょうな」
「ジュリエット様……」
私は地味に納得してしまう。
誰の目から見てもジョーリィ様を好きなジュリエット様。ジョーリィ様に婚約者が出来てしまえば、必ず相手に危害を加える確率大だ。公爵夫人の妹夫妻のお嬢さんらしいけど、いっそのことジュリエット様を婚約者にしてしまえば? と考えが浮かび、そのまま公爵に伝えた。
「ジュリエット様を婚約者には?」
「今後のジュリエット次第、と言いましょう」
あれ? 意外な反応。
「公爵にとっては、ぶっちゃけ誰でも良い感じですか?」
「誰でもという訳ではありませんが……大して興味がないとだけ」
他人に興味がないと言ってのけた人だけあって、自分の息子すら興味がない。公爵が興味のある人ってお父様以外誰なんだろう。
「興味ありますか?」
「へ?」
「ぼくが興味を抱く相手」
え? 声出てたの? 心の中で喋っていたと思い切っていたのに。
公爵の言葉に図星を突かれ、一人百面相をしていると「顔を見るだけで分かります」と教えられる。思い切り顔に出てたんだ……。
膝を折って私と目線を合わせた公爵は両手を私の頬に当てた。
「昔……子供の頃、ルチアーノ様にこうやって相手の顔をよく見ろと言われました」
男性なのに儚げな美人、それでいて感情を読ませない貼り付けた微笑と淡々とした声色、人間なのにどこか人外めいた雰囲気を漂わせる。垂れ目な紫の瞳に浮かぶ感情は読めないものの、気のせいか笑っている。
一番はお父様と言えど、公爵も公爵で超美形。ジョーリィ様も大人になったら公爵みたいな色っぽい人に……ならない、かな。ジョーリィ様は美少年が美青年に成長するだけの率が高い。
「ぼくは貴女にも興味を持っていますよ、マルティーナ様」
「お父様の娘だから、ですか?」
「それもありますね。ルチアーノ様は、自分の子供だからと無条件に愛する真似はきっとしなかった。貴女個人にルチアーノ様の関心を引き続ける魅力があるということです」
それって私が『転移者』っていう珍しい前世持ちって可能性が高いかも。
間近で見つめられると距離感を保って見るより恥ずかしい。顔だって絶対赤い……頬が熱いもん。
「ゴホン!」
そろそろ離れてほしいかもと頭に過るとタイミングよくヘレンさんが咳払いをした。
「公爵様、お嬢様に近いですよ! そろそろ離れてくださいまし!」
「これは失礼」
ヘレンさんの注意を受けて公爵は手を離した。やっと離れた。あのままだと私の心臓がやばかった。
「ふう……こういうのは奥様にするものですよ」
「妻に?」
ことりと首を傾げた公爵を見て嫌な予感がした。
「……あ、あの……公爵夫人にもさっきみたいにしたことは……」
「ないですね」
「……」
平然と言ってのけた公爵に衝撃を受けたのはきっと私だけじゃない。ヘレンさんも驚愕して固まっているもん。
他人に興味が抱けないとは言え、自分の奥さんにもこうなんだ……。
モーティマー公爵夫人がどんな人かは分からないけれど、さっきのことが知られないようにだけはしよう。勿論ジョーリィ様にも。ヘレンさんに目配せをすると心得たと頷かれる。
「さあ、部屋に戻りましょう」
「は、はい」
差し出された手を拒む方法を私は知らない。そっと手を乗せたら私の歩幅に合わせて歩き出した。
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