行動あるのみです!

文字の大きさ
46 / 81

その瞳に映すのは2

しおりを挟む
 


 生真面目な者特有のサボり癖。ミエーレは真面目であり、不真面目である。魔法に関しては3日眠らず研究するくせに、他に対しては興味を示さない。学年の成績はトップクラスだからヴァンシュタイン公爵も深く注意をしない。
 魅力的なお誘いに感じるかはその人次第。シェリのちょっと前の不安定な心だったら乗ったが今は安定して魅力的には映らなかった。


「断るわ。放課後は?」
「おれの気分」
「あのね……」


 猫か、と突っ込みたくなる。
 会話は終わり。2人は再び食事を進めた。
 時折他愛もないやり取りを交え、平穏に昼食は終わった。
 ……かと思いきや、幸せをシェリに見せ付けたいアデリッサの自慢からは逃げられなかった。
 トレーを持ったアデリッサがシェリとミエーレのいる席まで態々来た。


「あらあ、ご機嫌ようシェリ様、ミエーレ様」


 悦に浸った人間の顔はなんと醜いことか。元が整った可憐な美貌の持ち主でも、内面が汚れていれば表面にも出る。暇ね、とカフェモカを飲みながらシェリが呆れて言う。
 何を自慢しても、悔しがるどころか馬鹿にしかされないアデリッサは当然怒りで顔を赤く染める。レ―ヴの心を手に入れても、内面が変わりさえしなければ何れ捨てられる。
 そのことをアデリッサは理解しているのか。


「っ、ほんと、気に食わない女っ。そんなんだから、レ―ヴ様に捨てられるのよ!」
「ふん。殿下に魔法をかけてまで見てもらおうとまでは思わないわ」


 ひゅっと息を呑んだ音がした。顔面蒼白となるアデリッサから、優雅にカフェモカを味わうミエーレへ意味ありげに瞳を滑らせた。
 アデリッサがヴァンシュタイン公爵家の天才の実力を知らない筈がない。
 碧眼に走る複雑な術式。凡る相手の情報を読み取るヴァンシュタイン公爵家の秘宝。それがアデリッサへ向けられている。
 ミエーレの目に映らない情報はない。即ち、自身がレ―ヴにかけた魔法が見破られている。禁忌魔法を使用していると自覚はあったらしく、顔の色は蝋燭と同じに、地震が起きてないのに体が小刻みに震えている。


「あ……なっ……」


 言葉にならない声を絞り出され、冷えた紫水晶の瞳で睨んだ。
 次の行動を予測していたら、近くを給仕が通っていく。トレイに乗せたスープを運んでいるようだ。
 アデリッサが咄嗟にスープの器を奪った。シェリは自分が掛けられると顔を腕で防いだが――


「きゃあああああああああぁっ!!」


 有り得ないことにアデリッサが出来立てのスープを自分にかけた。頭から全身に浴びたアデリッサは赤色――トマトスープに染まっていく。
 場所は食堂内。
 当然、悲鳴は全体に響いた。


「アデリッサ!!」


 アデリッサの悲鳴を聞き付けたレ―ヴが大慌てでやって来る。トマトスープまみれになって蹲るアデリッサの肩を抱くと……凄まじい嫌悪と敵意を含んだ青い宝石眼でシェリを見据えた。

 分かっている。
 レ―ヴが好きなのは自分。
 好意の矢印をアデリッサへ転換させられただけ。

 分かっている。
 ……分かっていても、怒りと憎しみに染まった青の瞳に映されるだけで、全身を天空から地上へ叩きつけられた激しい痛みを伴う。


「シェリ、これはどういうことだっ」


 ずっと好きだった。
 どんなに冷たくされても、声を掛けられなくても、何時かはと期待していた。
 ……所詮シェリもただの人間。ただの女の子。いくら、シェリへの好意があったからこそ絶大な効果を発揮したと言えど、違う相手を真に慈しむ光景を何度も突き付けられてしまえば……


「シェリ」


 落ちていく。レ―ヴへの気持ちが底へと落ちていく様をヴァンシュタインの秘宝は映している。場の雰囲気にそぐわない極めて平穏な美声がシェリをどん底から引き揚げた。


しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

チョイス伯爵家のお嬢さま

cyaru
恋愛
チョイス伯爵家のご令嬢には迂闊に人に言えない加護があります。 ポンタ王国はその昔、精霊に愛されし加護の国と呼ばれておりましたがそれももう昔の話。 今では普通の王国ですが、伯爵家に生まれたご令嬢は数百年ぶりに加護持ちでした。 産まれた時は誰にも気が付かなかった【営んだ相手がタグとなって確認できる】トンデモナイ加護でした。 4歳で決まった侯爵令息との婚約は苦痛ばかり。 そんな時、令嬢の言葉が引き金になって令嬢の両親である伯爵夫妻は離婚。 婚約も解消となってしまいます。 元伯爵夫人は娘を連れて実家のある領地に引きこもりました。 5年後、王太子殿下の側近となった元婚約者の侯爵令息は視察に来た伯爵領でご令嬢とと再会します。 さて・・・どうなる? ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

真実の愛は、誰のもの?

ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」  妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。  だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。  ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。 「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」 「……ロマンチック、ですか……?」 「そう。二人ともに、想い出に残るような」  それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

欲深い聖女のなれの果ては

あねもね
恋愛
ヴィオレーヌ・ランバルト公爵令嬢は婚約者の第二王子のアルバートと愛し合っていた。 その彼が王位第一継承者の座を得るために、探し出された聖女を伴って魔王討伐に出ると言う。 しかし王宮で準備期間中に聖女と惹かれ合い、恋仲になった様子を目撃してしまう。 これまで傍観していたヴィオレーヌは動くことを決意する。 ※2022年3月31日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

婚約破棄の前日に

豆狸
恋愛
──お帰りください、側近の操り人形殿下。 私はもう、お人形遊びは卒業したのです。

白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

瀬月 ゆな
恋愛
ロゼリエッタは三歳年上の婚約者クロードに恋をしている。 だけど、その恋は決して叶わないものだと知っていた。 異性に対する愛情じゃないのだとしても、妹のような存在に対する感情なのだとしても、いつかは結婚して幸せな家庭を築ける。それだけを心の支えにしていたある日、クロードから一方的に婚約の解消を告げられてしまう。 失意に沈むロゼリエッタに、クロードが隣国で行方知れずになったと兄が告げる。 けれど賓客として訪れた隣国の王太子に付き従う仮面の騎士は過去も姿形も捨てて、別人として振る舞うクロードだった。 愛していると言えなかった騎士と、愛してくれているのか聞けなかった令嬢の、すれ違う初恋の物語。 他サイト様でも公開しております。 イラスト  灰梅 由雪(https://twitter.com/haiumeyoshiyuki)様

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

処理中です...