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見せ付けられる口付け2

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「あら? 事実じゃない。もう婚約解消は済んだ手前、あまり言いたくはないのだけれど……婚約中に他の相手と懇意にするのは、よろしくないと殿下がよくご存知の筈です」
「っ、ああ。だが僕が誰を好きになろうが僕の自由だ」
「……そうですわね」


 もしも、もしも。今までの婚約期間のどこかで、たった1度でもいい、好意を示してくれていたら、ずっと待っていられた。解除方法がなかろうと絶対にレーヴの心を元に戻すと行動した。
 現実は甘くない。魔法によって豹変した後に好意を抱いていたとヴェルデやミエーレから知らされても、……心の防御層は既に決壊し、ぼろぼろになっていた。

 自分自身を嘲笑い、目の前の相手に悲しみを帯びた相好でシェリはふっと微笑んだ。


「わたしはアデリッサが何もしなければ、2人には一切近付かないことをここに宣言しますわ」


 アデリッサがレーヴに泣き付くのはシェリに絡んだ挙句撃退されるから。絡まれる方も地味に精神力と体力を削る。面倒な程に。
 折角、もうレーヴには近付かないと敢えて周囲の目がある場で誓ったのにアデリッサの瞳から悔しさが消えることはなかった。


「嘘です! そう言ってシェリ様はわたくしに陰から嫌がらせをするに決まってます!」
「はは! シェリは常に堂々とするよ。ナイジェル嬢じゃないんだからさあ」
「なんですって!?」


 人の神経を逆撫でするのが得意なミエーレにまんまと乗っかり、逆上するアデリッサの顔は赤い。不敵で揶揄っているのが明白なミエーレの碧眼に複雑な魔法式が走った。ヴァンシュタインの秘宝が発動された。
 瞬時に顔を蒼白とさせたアデリッサが強い力でレーヴの腕を引っ張った。


「あ、ああの、殿下、もういいですわ、わたくし、シェリ様にもミエーレ様とももう関わりたくないですう!!」
「1度たりともこっちから関わった覚えはないのだけれど」
「っ!! 殿下あ……!」
「ど、どうしたんだ、急に」


 レーヴの困惑が見て取れる。ミエーレの魔法に恐れをなしたアデリッサは、早くこの場から離れたい一心で胸に飛び込んだ。


「お願いです……わたくし……ミエーレ様もシェリも怖いのです……っ」
「アデリッサ……」

 
 栗色の瞳からぽろぽろと流れ落ちる雫。頬に手を添え、痛ましげにアデリッサを見下ろす青の宝石眼がシェリとミエーレを捉える際には鋭さが増していた。
 ……それと同時に、限界まで目を見開いた。

 金貨を溶かしたような金糸と波打つシルバーブロンドが重なっている。背の低いシェリに覆い被さるようにミエーレが背を曲げていた。
 2人の唇が重なっていた。
 瞠目する紫水晶の瞳はミエーレを呆然と見続け……深慮を彷彿とさせる碧眼はレーヴを見ていた。キスをしながら、器用に口端を釣り上げた。

 ――挑発するかのように……。


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