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見せ付けられる口付け3

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 碧眼が瞠目する紫水晶の瞳と重なると、反対に唇が離れた。呆然とするシェリだったが、次第に顔を赤く、果ては耳まで染めると――身体を震わせ目の前にいる相手に向けて声を上げたいのだろうが、そこは公爵令嬢としてのプライドで押し留め。涙目でミエーレを見上げた。


「な……何を、しているのよ、ミエーレっ」
「あれ? 【聖女】様が言っていたじゃないか。殿下におれとシェリの仲を見せ付ければ、揺さぶれるって」
「だからって……!」


 悪びれた様子もないミエーレのせいでシェリの怒りはどこへ向けて良いか分からず。りんごの如く真っ赤な顔も涙目な紫水晶も……どれもレーヴの知らないシェリの1面。嫌いなのに、ずっと好意を抱いていたアデリッサに危害を加える大嫌いな相手なのに――自分に向けられない感情それをミエーレが受けていることに途方もない絶望を味わう。
 隣でアデリッサが顔を赤らめ何かを言っているがシェリに釘付けなレーヴの耳には届いていない。


「っていうことで殿下。ナイジェル嬢に嫉妬してシェリがスープを掛けたのは出鱈目。だってもう嫉妬する意味がないじゃないか」
「ちょっとミエーレっ」
「黙っててシェリ。……君はナイジェル嬢が大事なんだろう? なら、ナイジェル嬢のことだけを考え、ずっと側にいたらいい。そうしたら、仮にまたシェリが危害を加えようとしても守れるだろう?」


 ミエーレの言うことは正しい。シェリがアデリッサに2度と危害を加えないようにするにはレーヴがずっとアデリッサの側に居続けたらいい。
 分かっているのに……優雅にこうべを垂れ、シェリの腕を掴んで離れていくミエーレが憎々しい。


――ミエーレは僕がどれだけシェリが好きか知っているのに何故……っ!

 ハッと、今自身に過ぎった感情に強烈な疑問を抱いた。シェリを好き? 何故そう抱く? 自分が好きなのはアデリッサなのに。


「殿下……?」
「!」


 たおやかな声で現実に引き戻されたレーヴが下を向くと、栗色の瞳に涙を溜めて見上げるアデリッサがいた。
 アデリッサを見るだけで包まれる果てのない愛情は本物だ。
 ……本物の、筈だ。

 嘗てない違和感を抱えたまま、2人の消えた方向とは別ルートで教室に向かった。
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