行動あるのみです!

文字の大きさ
67 / 81

手がかりは1冊の本

しおりを挟む


 これだけは、誰にも譲れない。


「だが……僕にも何か手伝えるは……」
「裏でアデリッサを断罪する準備をするのです。殿下には出来ません」
「っ」


 苦しげに、傷付いたように歪むレーヴの相貌。違う、悲しい思いをしてほしいのじゃない。ずっと笑顔で、幸福になっていてほしい。


「殿下はもう暫く、アデリッサを好きでいる振る舞いをしていただきたいのです。殿下がアデリッサから離れれば、短気な彼女が何をしでかすか分かりませんから」


 納得がいかないと顔は書いているが、現状突破口がない。レーヴがアデリッサの企みに勘付いたとまだ彼女に知られてはならない。レーヴは唇を噛み締め、ぐっと堪えると掠れた声で「分かった……」と発した。
 

「……アデリッサを好きな気持ちはありますか?」
「……そうだね。あるよ」
「……」
「でもこれは……シェリ。君への気持ちがあるからだよ」
「っ」
「これがなければ、僕はアデリッサをどうとも思わなくなるだろうからね」


 堂々とした第2王子ではなく、力無く笑みを零す姿は年齢よりも幼く見えた。それから幾つか言葉を交わしてレーヴは帰って行った。見送りの際――


『シェリ』
『はい……』
『……シェリも、待っていてくれないか?』
『え』


 何を、と訊く前にレーヴは言った。


『元に戻ったら、今度はちゃんとシェリと向き合う。だから……他の誰かとの婚約だけはしないでくれ』


 懇願にも近いレーヴの言葉。向き合う、か。シェリはずっとレーヴに気持ちを伝えてきた。長年知らんぷりをされていたシェリにとって最後の機会かもしれない。
 何を言おうか迷う筈が声は無意識に返事をしていた。安堵したレーヴの表情を初めて見た。
 レーヴが馬車に乗り込み、出発しても暫く動けなかった。

 自室に戻ったシェリはすぐに外に出た。
 向かったのは書庫室。
 なんでもいいから手掛かりが欲しかった。

 魔法に関してはミエーレに訊ねるのが最も効率が良い。ミエーレを頼るのは明日にしよう。まずは自分が探れる範囲でやろう。
 “転換の魔法”解除のヒントになりそうな本を片っ端から探していく。オーンジュ公爵家の書庫室は中々の広さだ。魔法の資料が置かれているスペースに入り、背表紙を指でなぞりながら歩く。


「あら……?」


 3つ目の棚を見ていくと気になるタイトルがあった。『素敵な王子様と可愛いお姫様 ~略奪からの奪還~』
 幼い頃から何度も読んでいる、シェリお気に入りの本と同じタイトルだが一部違う。初めて見る巻だと手にとった。


「とても気になるわね」


 関係のなさそうな本は避けるべきだが、どうしても気になってしまう。
 書庫室にある読書スペースに移動し、椅子に座ったシェリは本を開いた。
 気が済むまで読んで飽きたら作業を開始しよう、と。
 
 ――読み始めてから、結局まで最後まで読み切ってしまい、気付くと外が暗くなっていた。


「……これって……こんな話があったなんて……でもこれなら……っ」


 興奮収まらないシェリは本を抱き締めると涙を流した。意外な本から、大きなヒントを得た。同時に本の内容が事実なら、“転換の魔法”解除に成功出来る。
 レーヴの心が元に戻るのだ。
 
 レーヴとやり直す、かはまだ不明。今はアデリッサのやらかしに白黒つけるのが何よりも最優先。


「明日、ミエーレに……」


 ミエーレの名前を出した瞬間、ハッとなって首を振った。


「……いいえ……これはわたし自身でどうにかしましょう。ミエーレに頼ってばかりでは駄目よ」


 最後の最後くらい、自分の力でレーヴの為にしてやりたい。


しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

チョイス伯爵家のお嬢さま

cyaru
恋愛
チョイス伯爵家のご令嬢には迂闊に人に言えない加護があります。 ポンタ王国はその昔、精霊に愛されし加護の国と呼ばれておりましたがそれももう昔の話。 今では普通の王国ですが、伯爵家に生まれたご令嬢は数百年ぶりに加護持ちでした。 産まれた時は誰にも気が付かなかった【営んだ相手がタグとなって確認できる】トンデモナイ加護でした。 4歳で決まった侯爵令息との婚約は苦痛ばかり。 そんな時、令嬢の言葉が引き金になって令嬢の両親である伯爵夫妻は離婚。 婚約も解消となってしまいます。 元伯爵夫人は娘を連れて実家のある領地に引きこもりました。 5年後、王太子殿下の側近となった元婚約者の侯爵令息は視察に来た伯爵領でご令嬢とと再会します。 さて・・・どうなる? ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

真実の愛は、誰のもの?

ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」  妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。  だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。  ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。 「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」 「……ロマンチック、ですか……?」 「そう。二人ともに、想い出に残るような」  それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

欲深い聖女のなれの果ては

あねもね
恋愛
ヴィオレーヌ・ランバルト公爵令嬢は婚約者の第二王子のアルバートと愛し合っていた。 その彼が王位第一継承者の座を得るために、探し出された聖女を伴って魔王討伐に出ると言う。 しかし王宮で準備期間中に聖女と惹かれ合い、恋仲になった様子を目撃してしまう。 これまで傍観していたヴィオレーヌは動くことを決意する。 ※2022年3月31日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

婚約破棄の前日に

豆狸
恋愛
──お帰りください、側近の操り人形殿下。 私はもう、お人形遊びは卒業したのです。

白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

瀬月 ゆな
恋愛
ロゼリエッタは三歳年上の婚約者クロードに恋をしている。 だけど、その恋は決して叶わないものだと知っていた。 異性に対する愛情じゃないのだとしても、妹のような存在に対する感情なのだとしても、いつかは結婚して幸せな家庭を築ける。それだけを心の支えにしていたある日、クロードから一方的に婚約の解消を告げられてしまう。 失意に沈むロゼリエッタに、クロードが隣国で行方知れずになったと兄が告げる。 けれど賓客として訪れた隣国の王太子に付き従う仮面の騎士は過去も姿形も捨てて、別人として振る舞うクロードだった。 愛していると言えなかった騎士と、愛してくれているのか聞けなかった令嬢の、すれ違う初恋の物語。 他サイト様でも公開しております。 イラスト  灰梅 由雪(https://twitter.com/haiumeyoshiyuki)様

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

処理中です...