行動あるのみです!

文字の大きさ
66 / 81

レーヴとシェリ2

しおりを挟む
 

 向かい合って座るレーヴとシェリ。ルルの運んだ紅茶とカフェモカから湯気が上がるも2人は手をつけない。飲み物で気を紛らわせる気持ちが湧かない。無言のまま、時間だけが過ぎていく。気まずいながらもシェリはレーヴの次の言葉を待っていた。顔を青く染め、体を小さく震わせる弱い彼の姿を1度たりとも見たことがない。何時だってシェリが見ていた王子様は、王太子である兄王子の手助けをしたいと目に隈が出来ようが徹夜で勉学に励み、強くなろうと手の豆が潰れるまで剣を振り続ける姿。体調を崩そうが少々回復しただけで訓練に出ようとするレーヴに周囲がどれだけヒヤヒヤしたか。レーヴの見目に惚れたのは確か。一目見て婚約をしたい程に惚れたのは確か。でも、決して外見だけで好きになったのじゃない。必死に努力をするその姿に惹かれた。レーヴの妻になるのならとシェリも自分磨きを怠らなかった。アデリッサのように甘えた声ですぐに泣いていいのなら、何度そうしたいと思ったか。
 暫くするとレーヴが紅茶を飲んだ。シェリも釣られてカフェモカを飲んだ。温くな理、クリームの溶けたカフェモカも美味しいが出来立てがやはり一番美味しい。カフェモカを飲みつつ、レーヴの出方を伺う。
コトリとティーカップをテーブルに置いたレーヴは「シェリ」と呼んだ。ずっと呼ばれたかった名前呼び。アデリッサに魔法をかけられた当時の鋭さと嫌悪感はなくて、心の心の奥底が安堵した。


「はい……」
「僕は……元に……戻れるだろうか……」


 疑問形じゃない、でも否定してほしそうな声。ヴェルデとミルティーがどこまで話したか不明でも彼等が都合の良い嘘を吐くとは思えない。


「ミエーレはなんと言っているんだ……?」


 魔法の天才にして、ヴァンシュタイン秘宝を瞳に宿すミエーレの答えをシェリは告げた。
 “転換の魔法”に解除方法はないと。


「……そうか」


 諦念が浮かんだ青の宝石眼。恐らく、あの2人は“転換の魔法“についても話していたのだろう。


「ミエーレがそう言うのなら……間違いないんだろう」
「魔法に関してミエーレは嘘は言いませんから……」
「これが“魅了の魔法”なら、ミルティーの【聖女】の力で元に戻れたのだろうな」
「……はい」


 だが、仮にレーヴに掛けられたのが“魅了の魔法”なら、周囲の声を聞かず、アデリッサに心酔して破滅していた。魅了は相手の意思を自分だけのものにし、意のままに操ることが可能な一種の精神汚染でもある。


「殿下。殿下がアデリッサに魔法を掛けられた心当たりはありませんか……?」
「……きっと、あの時だろう」
「あの時?」


 ゆっくりと語られたレーヴの心当たりを聞き、シェリは泣きたくなった。
 王家主催の夜会翌日。やはりあの日、裏庭で彼が待っていたのはシェリだった。
 ヴェルデに聞き、翌日ならシェリは来る筈だと聞かされたレーヴだが、結局シェリは来ず(実際はレーヴがいてUターンをした)、なら次のチャンスは昼休憩時だと時間を改めようと教室に戻ろうとした。その際、アデリッサとぶつかって尻餅をつかせてしまった。手を貸してほしいと願う令嬢を無碍に扱うのも、王子として厳しく育てられたレーヴの矜持に反する。紳士として手を貸した直後……会って、想いを告げたい相手が目の前にいると抱いたのだとか。


(ああ……っ)


 力無く「僕も間抜けだよね」と笑うレーヴ。シェリは俯き、膝の上にある手を強く握り締めた。震えを、涙を、気付かれたくなくて。


(わたしが……わたしがあの時ちゃんとっ、レーヴ様と会っていたら……! こんな、事にはならなかったっ)


 後悔しても、もう遅い。
 償えない罪を背負った瞬間。
 ちっぽけな嫉妬と疑惑を抱いたせいでレーヴの心に大きな負担をもたらした。最初の、レーヴがミルティーを好きだと勘違いした時点で罪もない人達を不幸にし、振り回してしまっているのに。
 レーヴが自分を好きだと知った瞬間抱いた嬉しさも、昔からずっと一緒にいるミエーレに好きだと言われ戸惑った気持ちも。
 どれも、シェリが持っていいものじゃない。


「……レーヴ様」


 涙を堪えても、声は震えた。
 シェリの紫水晶の瞳が真っ直ぐ青の宝石眼と対峙した。


「待っていて、ください」
「待つ……?」
「わたしが……絶対にレーヴ様に掛けられた魔法の解除方法を見つけます。だからどうかっ、気を確かに持ってください。“転換の魔法”を解除さえすれば、あなたはもうアデリッサを好きだと思わなくて良いのです。……新しい、愛する人を見つけられるのです」
「っ」


 レーヴが好きなのはシェリ。
 ……自分には、誰かに好きでいてもらえる資格がないのだと、シェリは言い聞かせた。
 瞠目し、何故、とか細い声で発したのを聞かなかったフリをした。


「王族であるあなたに“魅了の魔法”じゃないとはいえ、心を操り自分の物にしようとしたアデリッサを決して許せません。そのせいで罪悪感に襲われているアデリッサの従者も救いたいのです。彼は、無理矢理元の主から引き離され、アデリッサの従者にされたので」
「シェリ、僕に出来ることは……」


 いいえ、と首を振った。


「……これはわたしの出来る、罪滅ぼしです。わたしのせいで振り回した人を助けるには、わたし自身がどうにかしないといけないのです」


しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

殿下の御心のままに。

cyaru
恋愛
王太子アルフレッドは呟くようにアンカソン公爵家の令嬢ツェツィーリアに告げた。 アルフレッドの側近カレドウス(宰相子息)が婚姻の礼を目前に令嬢側から婚約破棄されてしまった。 「運命の出会い」をしたという平民女性に傾倒した挙句、子を成したという。 激怒した宰相はカレドウスを廃嫡。だがカレドウスは「幸せだ」と言った。 身分を棄てることも厭わないと思えるほどの激情はアルフレッドは経験した事がなかった。 その日からアルフレッドは思う事があったのだと告げた。 「恋をしてみたい。運命の出会いと言うのは生涯に一度あるかないかと聞く。だから――」 ツェツィーリアは一瞬、貴族の仮面が取れた。しかし直ぐに微笑んだ。 ※後半は騎士がデレますがイラっとする展開もあります。 ※シリアスな話っぽいですが気のせいです。 ※エグくてゲロいざまぁはないと思いますが作者判断ですのでご留意ください  (基本血は出ないと思いますが鼻血は出るかも知れません) ※作者の勝手な設定の為こうではないか、あぁではないかと言う一般的な物とは似て非なると考えて下さい ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※作者都合のご都合主義、創作の話です。至って真面目に書いています。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

砕けた愛

篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。 あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

処理中です...