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手がかりは1冊の本
しおりを挟むこれだけは、誰にも譲れない。
「だが……僕にも何か手伝えるは……」
「裏でアデリッサを断罪する準備をするのです。殿下には出来ません」
「っ」
苦しげに、傷付いたように歪むレーヴの相貌。違う、悲しい思いをしてほしいのじゃない。ずっと笑顔で、幸福になっていてほしい。
「殿下はもう暫く、アデリッサを好きでいる振る舞いをしていただきたいのです。殿下がアデリッサから離れれば、短気な彼女が何をしでかすか分かりませんから」
納得がいかないと顔は書いているが、現状突破口がない。レーヴがアデリッサの企みに勘付いたとまだ彼女に知られてはならない。レーヴは唇を噛み締め、ぐっと堪えると掠れた声で「分かった……」と発した。
「……アデリッサを好きな気持ちはありますか?」
「……そうだね。あるよ」
「……」
「でもこれは……シェリ。君への気持ちがあるからだよ」
「っ」
「これがなければ、僕はアデリッサをどうとも思わなくなるだろうからね」
堂々とした第2王子ではなく、力無く笑みを零す姿は年齢よりも幼く見えた。それから幾つか言葉を交わしてレーヴは帰って行った。見送りの際――
『シェリ』
『はい……』
『……シェリも、待っていてくれないか?』
『え』
何を、と訊く前にレーヴは言った。
『元に戻ったら、今度はちゃんとシェリと向き合う。だから……他の誰かとの婚約だけはしないでくれ』
懇願にも近いレーヴの言葉。向き合う、か。シェリはずっとレーヴに気持ちを伝えてきた。長年知らんぷりをされていたシェリにとって最後の機会かもしれない。
何を言おうか迷う筈が声は無意識に返事をしていた。安堵したレーヴの表情を初めて見た。
レーヴが馬車に乗り込み、出発しても暫く動けなかった。
自室に戻ったシェリはすぐに外に出た。
向かったのは書庫室。
なんでもいいから手掛かりが欲しかった。
魔法に関してはミエーレに訊ねるのが最も効率が良い。ミエーレを頼るのは明日にしよう。まずは自分が探れる範囲でやろう。
“転換の魔法”解除のヒントになりそうな本を片っ端から探していく。オーンジュ公爵家の書庫室は中々の広さだ。魔法の資料が置かれているスペースに入り、背表紙を指でなぞりながら歩く。
「あら……?」
3つ目の棚を見ていくと気になるタイトルがあった。『素敵な王子様と可愛いお姫様 ~略奪からの奪還~』
幼い頃から何度も読んでいる、シェリお気に入りの本と同じタイトルだが一部違う。初めて見る巻だと手にとった。
「とても気になるわね」
関係のなさそうな本は避けるべきだが、どうしても気になってしまう。
書庫室にある読書スペースに移動し、椅子に座ったシェリは本を開いた。
気が済むまで読んで飽きたら作業を開始しよう、と。
――読み始めてから、結局まで最後まで読み切ってしまい、気付くと外が暗くなっていた。
「……これって……こんな話があったなんて……でもこれなら……っ」
興奮収まらないシェリは本を抱き締めると涙を流した。意外な本から、大きなヒントを得た。同時に本の内容が事実なら、“転換の魔法”解除に成功出来る。
レーヴの心が元に戻るのだ。
レーヴとやり直す、かはまだ不明。今はアデリッサのやらかしに白黒つけるのが何よりも最優先。
「明日、ミエーレに……」
ミエーレの名前を出した瞬間、ハッとなって首を振った。
「……いいえ……これはわたし自身でどうにかしましょう。ミエーレに頼ってばかりでは駄目よ」
最後の最後くらい、自分の力でレーヴの為にしてやりたい。
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