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時間の巻き戻し3

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 ミエーレが徐にシェリの頭に手を乗せた。


「殿下に変化があった」
「!」


 ミエーレ曰く、アデリッサといるレーヴの目に以前程の熱愛が感じられないと言う。
 シェリはミエーレに、先日レーヴが屋敷に来たことを告げた。そして、彼がもう自分がアデリッサに魔法をかけられているとも。


「殿下がね……。殿下は馬鹿じゃない。きっとシェリに冷たくされ過ぎてアデリッサへの気持ちが揺らぎまくったのを不審に思ったんだろう」
「殿下が気付いてくれて良かったわ……でも、時間の巻き戻しが無理ならやっぱり……」


 元々、時間の巻き戻しという、不可能を可能にする大規模な魔法を簡単に見つけたとはしゃいだ自分が悪い。それこそ、巻き戻せるなら戻したい。


「“転換の魔法”に解除方法がないのは何故だと思う?」


 急にミエーレに問われ、目を丸くしながらも元からある感情の矢印の方向を換えるだけだからと答えた。
 ミエーレは正解と微笑み、シルバーブロンドを指に巻きつけた。


「そう。殿下のシェリに対する好意があったからこそ、“転換の魔法”は爆発的効果を発揮した。マティアスの付加した“増幅”にも原因がある。そこでだよ、シェリ。シェリは嫌いな人を好きになったりする?」
「余程のことがないと無理よ」
「そうだろう。“転換の魔法”も一緒なんだ。殿下はシェリが好き、アデリッサは嫌い。特に、昔からシェリに嫌がらせをしている挙句に性格も最悪なアデリッサを好く要素は何処にもない。だから最初、殿下はシェリをとても嫌ったのさ」
「……」
「でも今は違う。自分の好意の矢印をアデリッサに向けられていると知り、シェリへの気持ちを思い出した。これって、もう“解除されてる”って認識しても良いんじゃない?」
「!」


 そうか、と納得した。掛けられた当人は感情が転換されたとは知らない。最初は強制的に転換された好意の先にいる相手を好きになるが、元から存在する別の相手への好意があってこそ“転換の魔法”は成り立つ。
 だが、もしも元から好きな相手に冷たくされたら? 嫌いになられたら? 
 根本は揺らぎ、転換された好意の先にいる相手がいても気持ちが追い付かなくなる。


「……“転換の魔法”って、元々軍事利用する為の魔法だったのよね?」


 シェリなりに“転換の魔法”について調べていた。


「うん。情報を引き出すには、相手から好意を抱かれるのが最も手っ取り早い。“魅了の魔法”だと痕跡が残るし、やり過ぎると精神汚染の傾向が現れる。その点“転換の魔法”はそれらの痕跡を残さない。おれみたいに何でも視える目があれば別だけど」
「好意を抱く相手と嫌悪する相手を同じ環境には置かない」
「そして、転換した相手の近くに好意を抱く相手を近付けさせない」


 未だレーヴはアデリッサに対し愛しいと感じる情はあると言っていた。それも一時のもの。
 もう1つ、ある考えが浮かんだシェリはミエーレに相談した。
 端正な顔が歪んだ。


「知らないよ? どうなっても」
「覚悟の上よ。言ったでしょう? 私のせいで振り回した人の為に私自身で決着をつけたいの」
「頑固だね」
「知っているでしょう」
「知ってるよ」


 ――嫌でも……知ってるよ。


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