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好意の方向は再び1
しおりを挟む今日最後の授業を終えた。この後は教会に向かう予定だったがミエーレに真っ向から思案したレーヴ救出作戦は見事木っ端微塵。他の作戦を思い付くも良い顔はされなかった。それはそうだろう。下手したらシェリだって無事で済まない。
ただ、偶には教会に寄りたい。亡き母が大好きなお菓子が教会の近くで販売されているので、久し振りに父フィエルテと食べたい。
「オーンジュ様!」
席を立とうとするとミルティーがやって来た。
「校門まで一緒に行きませんか?」
「ええ。あ、ミルティー様は教会に行くのかしら?」
「はい。今必死で【聖女】の魔法を習得する為に通っています。それがどうしました?」
「わたしも今日行こうと思って。行くのなら、わたしと馬車で行きましょう?」
「是非!」
今まで接点のなかった2人が急に親しげにするものだから周囲の目が集まる。若干気まずそうにするミルティーに堂々としていなさいと告げる。シェリはミルティーを連れ教室を出た。
「オーンジュ様はすごいです。私は全然慣れないです……」
「無理に慣れろ、とは言わないけれど、将来的にあなたは【聖女】として更に多くの人がいる場に立つことになるわ。学生の間はその練習期間と思ってちょうだい」
「はい……」
貴族でも人前に立つのが苦手な内気な人はいる。こればかりは個人の性格による。シェリは得意じゃないがオーンジュ家の娘として恥ずかしくないよう振る舞うべく気を張っている。
今日の授業内容を話しながら玄関ホールへ行く。
「あ、教会の近くにあるお菓子屋にも行きませんか? そこの焼き立てのアップルパイがとっても美味しいんです!」
「そうなの? そうね……頂きましょう」
母の好きだったお菓子はクッキー。違う店の美味しいお菓子の情報は是非とも知りたい。ひょっとするとヴァンシュタイン家の経営する店の1つかもしれない。もしそうだったら感想をミエーレに話してあげよう。
校舎から外へ一歩踏み出そうとした時だ。「シェリ様!」と聞き覚えのあり過ぎる声が飛んできた。頭が痛くなるとはこのこと。右手の親指と人差し指で眉間を触った後、嫌々振り返った。
案の定、アデリッサがいた。1日1回は突っ掛からないと気が済まない性質なのか。
「……何か用? アデリッサ」
「何か用、ですって? よくもぬけぬけと! わたくしのレーヴ様に何をしたのよ!」
何をしたのはそっちの方でしょう! と声を大にして叫びたいシェリとミルティー。
「わたしが殿下に何をしたと言うの?」
「レーヴ様がわたくしにちっとも微笑んで下さらなくなったのよ! それだけじゃないわ、一緒にいたいと言っても王子の執務があるからと籠りきり、昼食も一緒に摂れないと……!」
「……」
シェリの見た限りではレーヴはなるべくアデリッサといるように見えたが実際には違ったのだ。アデリッサは“魅了の魔法”でレーヴの心を手に入れたと勘違いしている。術者の都合の良いように精神を操る力が上手く作動していないことを腹立て、それをシェリに押し付けて来ている。
言葉を発しようとしたミルティーを制止し、前に出た。
「殿下はおかしな行動を取っているかしら?」
「何ですって!?」
「そうじゃない。殿下は王太子殿下の補佐をしているのよ? 王太子殿下も殿下を信用している。殿下が第2王子としての義務を優先しておかしいかしら?」
「……」
アデリッサは悔しげに黙った。
「殿下はクロレンス王国の第2王子よ。幼い頃からずっと王太子殿下の補佐をするのが夢だと語って必死に努力する殿下の邪魔をするなんて言語道断だわ。恥を知りなさい!」
「うるさい! わたくしがレーヴ様に愛されていることに嫉妬して嫌がらせをするくせに!」
「わたしはそんなことしない。本当に殿下が好きな人が出来たのなら、潔く身を引く。相手に嫌がらせをする器量の狭い女だと思われたくないから。アデリッサ、あなたと同じにしないで」
「わたくしはレーヴ様に愛されているの! ずっと婚約しておきながら心を向けてもらえないあんたと違うのよ!」
「それが何だと言うの。アデリッサ、真に殿下を想うなら、王子としての義務を果たそうとする殿下を支えるのならともかく、邪魔をする行動をするあなたは本当に殿下に相応しいのかしら?」
周囲に人が集まってくる。アデリッサの興奮した大きな声を聞き付けて。
レーヴの婚約者でありながら愛されないシェリと今まで存在すら認識されていたか不明だったのに急に愛され出したアデリッサ。
刺激に飢えた彼等にとれば格好の獲物。見ない訳がない。
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