行動あるのみです!

文字の大きさ
72 / 81

好意の方向は再び2

しおりを挟む

 普段の愛らしい顔立ちも庇護欲をそそられる雰囲気もない、醜い女の本性を露わにしたアデリッサ。ミエーレから聞いた彼女のコンプレックス。ナイジェル公爵はこのこともあってアデリッサを殊更可愛がったのだろうが元からの本人の性格が災いして悪い方へ行ってしまった。


「で? 態々言いがかりをつける為に呼び止めたの? だったらもう行くわ。これから、ミルティー様と教会に行く予定なの」
「わたくしよりも平民の相手を優先するというの!?」
「彼女は伯爵令嬢よ。ラビラント伯爵が養女に迎えた正式な。それに、たとえ平民であろうと先約を優先するのは当然ではなくて?」
「わたくしを誰だと思ってるの!」
「ナイジェル公爵令嬢ね。それが何よ。わたしはオーンジュ公爵家の娘。身分は同じ」


 余裕のないアデリッサは次から次へと浅慮な言葉を投げかけてはシェリに一蹴される。周囲の目も増えてきた。いい加減離れたい。ミルティーが心配げに声をかけるも小声で「大丈夫よ」と返した。


「……に、本当に気に入らない女っ!!」


 途端、急激に上昇したアデリッサの魔力。周囲の生徒達が一目散に逃げていく。危険だと察知したシェリはミルティーに逃げるよう叫び、自身はアデリッサと対峙したまま残った。


「何をする気? 学院内での勝手な魔法使用は禁止されてるのよ」
「うるさい!! あんたさえ、あんたさえどうにかなればまたレーヴ様は……!!」
「っ!」


 鬼気迫り、殺気立つ迫力は途轍もない圧を放つ。真っ向から他人の殺気を受けた経験のないシェリも恐怖を感じ始めた。
 だが、意地でも逃げないと足を地面に強く押し付けた。逃げれば恥、とも思わなくもない。彼女のレーヴの婚約者だった意地とオーンジュ公爵家の娘としてのプライドが逃げる選択肢を消した。
 ミエーレに話した。アデリッサを嗾け、危害を加える様誘導すれば、必ず“魅了の魔法”を使ってくると。


「これさえ、これさえ使えばシェリ様……あんたは負け犬に成り下がるのよ」


 魔力を上昇させ不気味な笑みを零すアデリッサが片手に持つのは、淡い光を放つ銀の鍵。


「どうせ周りには誰もいないし、あんたの理性なんて吹っ飛ぶから教えてあげる。これはわたくしが従者に作らせた“魅了の魔法”を発動させる鍵よ」
「!」


 予想通り、アデリッサは“魅了の魔法”を仕掛けてきた。


「レーヴ様に使ったものよりも更に強力にしてもらったの」
「……アデリッサ。“魅了の魔法”を使ってまで人の心を手に入れて嬉しい? そんな、魔法で塗り固めた偽りの心を向けられて」
「何を言ってるの? “魅了の魔法”は相手を自分に魅了させる為の道具。偽りじゃない。現にレーヴ様はわたくしを愛してくれた。それが何故か今日になって急に冷たくなり出した……あんたさえいなくなれば、またレーヴ様に魔法をかければ今度こそずっとわたくしを見てくれる……!」


 レーヴに実際に掛けられたのが“転換の魔法”だと、やはり気付かないようだ。
 シェリは時間稼ぎの為に敢えて“魅了の魔法”の使い道を訊ねた。 


「わたしに“魅了の魔法”を使ってどうするのかしら? まさか、わたしにあなたを好きになれとでも?」
「馬鹿ね。あなたが好きになるのはレーヴ様よ。でも、レーヴ様にとっても嫌われているあなたはレーヴ様に邪険にされた瞬間、付加した“精神異常”で気が触れて廃人になるの。更にレーヴ様にはわたくし見えないようにする魔法をかけるの。そうして、わたくしとレーヴ様は邪魔者が消えて晴れて堂々と愛し合えるの!」
「……」


 かなり堂々と愛し合っているように見えたが……突っ込むことはしなかった。


「……“魅了の魔法”が禁術指定されている魔法と知っていて?」
「知っているわよ。でもそれが? 今ここにいるのはあなたとわたくしだけ。今からあなたは理性がなくなる。誰も証言なんてできないの」
「はあ……そう。アデリッサ、あなたの頭がおめでたいのは髪の毛の色のせいかしらね」
「!!」


 シェリが呆れるように紡いだ言葉にアデリッサの形相が瞬時に変わった。

 ミエーレの言っていたアデリッサのコンプレックス。


「“傾国の毒婦”と同じ髪をしてると性格まで同じになるみたいね」


しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

チョイス伯爵家のお嬢さま

cyaru
恋愛
チョイス伯爵家のご令嬢には迂闊に人に言えない加護があります。 ポンタ王国はその昔、精霊に愛されし加護の国と呼ばれておりましたがそれももう昔の話。 今では普通の王国ですが、伯爵家に生まれたご令嬢は数百年ぶりに加護持ちでした。 産まれた時は誰にも気が付かなかった【営んだ相手がタグとなって確認できる】トンデモナイ加護でした。 4歳で決まった侯爵令息との婚約は苦痛ばかり。 そんな時、令嬢の言葉が引き金になって令嬢の両親である伯爵夫妻は離婚。 婚約も解消となってしまいます。 元伯爵夫人は娘を連れて実家のある領地に引きこもりました。 5年後、王太子殿下の側近となった元婚約者の侯爵令息は視察に来た伯爵領でご令嬢とと再会します。 さて・・・どうなる? ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

真実の愛は、誰のもの?

ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」  妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。  だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。  ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。 「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」 「……ロマンチック、ですか……?」 「そう。二人ともに、想い出に残るような」  それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

欲深い聖女のなれの果ては

あねもね
恋愛
ヴィオレーヌ・ランバルト公爵令嬢は婚約者の第二王子のアルバートと愛し合っていた。 その彼が王位第一継承者の座を得るために、探し出された聖女を伴って魔王討伐に出ると言う。 しかし王宮で準備期間中に聖女と惹かれ合い、恋仲になった様子を目撃してしまう。 これまで傍観していたヴィオレーヌは動くことを決意する。 ※2022年3月31日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

婚約破棄の前日に

豆狸
恋愛
──お帰りください、側近の操り人形殿下。 私はもう、お人形遊びは卒業したのです。

白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

瀬月 ゆな
恋愛
ロゼリエッタは三歳年上の婚約者クロードに恋をしている。 だけど、その恋は決して叶わないものだと知っていた。 異性に対する愛情じゃないのだとしても、妹のような存在に対する感情なのだとしても、いつかは結婚して幸せな家庭を築ける。それだけを心の支えにしていたある日、クロードから一方的に婚約の解消を告げられてしまう。 失意に沈むロゼリエッタに、クロードが隣国で行方知れずになったと兄が告げる。 けれど賓客として訪れた隣国の王太子に付き従う仮面の騎士は過去も姿形も捨てて、別人として振る舞うクロードだった。 愛していると言えなかった騎士と、愛してくれているのか聞けなかった令嬢の、すれ違う初恋の物語。 他サイト様でも公開しております。 イラスト  灰梅 由雪(https://twitter.com/haiumeyoshiyuki)様

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

処理中です...