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好意の方向は再び3

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 “傾国の毒婦”とは、数百年前クロレンス王国を騒がせた1人の女性を指していた。
 ある伯爵が平民の侍女に手を出し、生ませた子。類稀なる美貌と人の心を掌握する術に長け、それらを駆使し、将来国の重要職に就く高位貴族の男性達に次々と取り入った。中には王子も数名いた。男性達が夢中になっていくにつれ、当然同性からの嫌がらせや嫉妬が相次いだ。女性は持ち前の美貌で男性達に助けを求め、嫌がらせをした女性達は続々と断罪されていった。中には婚約者を断罪した者もいた。王子の婚約者もこの中に含まれる。

 事態を重く見た国の上層部が女性を捕らえた。調査した結果、女性は当時は公にまだ知られていなかった“魅了の魔法”の使用者だった。捕らえた捕虜を魅了し、尋問する程度にしか使われたなかった“魅了の魔法”。それで異性を虜にし、贅沢三昧な生活を送った挙句用無しになれば捨てるを繰り返していた女性を助ける者は誰もいなかった。
 女性は即牢屋に送られ、死刑となった。処刑方法が惨く、彼女に婚約者を取られた女性達による投石が行われた。美しかった面影がなくなり、原型を留めていない姿を死ぬまで街中に晒され続けた女性は最後苦しみながら息絶えたという。

 アデリッサと“傾国の毒婦”の共通点は髪の毛の色。女性の生家である伯爵家は、責任を取る形で爵位を国に返上し存在しない。けれど、騒ぎになる前に正妻との間にいた正統な血筋の娘がナイジェル公爵家に嫁いでいた。
 ピンク色の髪は伯爵家の血を引く証だった。

 髪の色は関係ない。
 だが、歴史に残る悪女と同じものを持つというだけで印象は悪くなる。

 ナイジェル公爵は娘が周囲の悪意に晒されないよう大事に育てていたのだろうが……


「……結果はこうなった。報われないわね、公爵も」
「っ……さい、うるさいうるさい! “傾国の毒婦”とわたくしは無関係よ! わたくしは多数を侍らせるような淫乱じゃない! わたくしが心から慕うのはレーヴ様だけ! レーヴ様だけがいたらいいのよ!」


 対象を多数じゃなく、レーヴ個人に絞ったアデリッサは髪の色が同じだけで“傾国の毒婦”とは違う。
 言葉で違うと取り繕ってもやっていることが同じだ。

 魔力の上昇が止まった。魔法の才能に関してはイマイチなアデリッサが何を仕掛けてくるか警戒心を強くした。手に握られている銀の鍵は“魅了の魔法”発動道具。あれに触れるか、触れられてしまえばシェリも終わり。呼吸を荒く繰り返し、鬼気迫る形相にしてはアデリッサは何もしてこない。恐る恐る様子を伺うも動く気配がない。
 怒りで感情が昂り、魔力がアデリッサの感情に合わせて急上昇してしまったのか。それに反し、慣れない魔力の上昇に体がついていけず動けなくなっている。
 シェリは左手で空間を払った。魔力を練り込まれた小さな風は瞬く間に大きく、激しくなり、アデリッサの手から鍵を奪い取った。宙に舞った鍵が陽光を受けて輝く。風を操り自分側に鍵を引き寄せた。


「させないわ!!」


 刹那、前方から強い魔力を感じ取った。魔法がイマイチなアデリッサでも攻撃魔法は扱える。火力も大きさも速度も、相手に向けてはならないレベルの火球がシェリ目掛けて放たれた。
 離れれば鍵が取れない。
 離れれば火球を避けられる。

 自分の身を守るか、レーヴの為に残るか――
 シェリが取った選択肢はたった1つ。

 風を強くして鍵を手中に収めた。更に前方へ強い風の防壁を展開。火球と衝突すれば、防壁に守られるシェリも反動を受けるだろう。


「っ!」


 目前に迫った火球がより大きく、威力が増した。
 今更防壁の強度を上げようにも時間が全然足りない。

 大怪我をする覚悟で残った。
 襲いくる衝撃に備えて目を瞑った。

 
「――――シェリ!!!」


 目を閉じても眩しかった。
 遠くなる意識の向こう、知っている香りに包まれたシェリは誰かに強く抱き締められ……体が浮いたのを感じ取った。


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