思い込み、勘違いも、程々に。

文字の大きさ
14 / 104

プライドだけは超一流〜義母シェリア視点〜

しおりを挟む
 




 フォークにブロッコリーを刺したまま固まった旦那様を放置し、並んで学院へ行ったフィオーレとエルミナを見送った私はそっと息を吐いた。エルミナが入学式を境に、8年前から距離を取り始めたフィオーレとの関係修復を試みた行動を不安と期待に満ちた気持ちで見守った。ぎこちなさも嫌悪もない、普通にエルミナと接したフィオーレに安堵すると同時に、まだまだ距離が遠いと思い知った。
 8年前、私達とフィオーレの間に高く硬い壁を作る元凶となった馬鹿弟トロント。遅くに出来た次男とあり、お母様に溺愛されて育ったトロントはどうしようもない馬鹿に育った。名門と名高いカンデラリア公爵家だろうが範疇を超えた我儘は許されない。厳格なお父様と違い、自分を甘やかしてくれるお母様にべったりだったトロントがお父様と同じで厳しいことしか言わない私やお兄様、お姉様に懐く訳もなかった。

 フィオーレが前妻ミランダ様の娘であり、私とは血縁関係がないと事実を話すのは、旦那様との話し合いで彼女がデビュタントを迎えたら話そうと決まった。義父や義母も納得し、アルカンタル伯爵家は私達の判断に任せるとのことだった。これに関して実家は口を出してくれるなと釘を刺した。お父様やお兄様は大丈夫。彼等はフィオーレのこともエルミナ同様大事にしてくれている。お姉様は隣国に嫁いでしまった後なので手紙だけで知らせた。
 問題なのはお母様とトロントだった。
 お母様は旦那様がいないのを狙ってよく伯爵家に訪れた。後妻として嫁いだ私が苦労していないかとか、前妻の娘が我儘で困ってないかとか、要らない気をばかり遣ってくる。質問責めを繰り返すお母様の声を遮った。


『お母様の心配は要らぬ心配です。どうぞお引き取りを』
『まあ! なんて言い草。わたくしはお前が幸せにやっているか心配を……!』
『問題ありません。旦那様も屋敷の者も良くしてくれています。フィオーレはとても優しい子です』
『だけど、エルミナとよく喧嘩をするとトロントが言っていたわ!』


 お母様の台詞に違うと反論した。


『あれはよくある姉妹喧嘩です。エルミナがフィオーレの物を欲しがるのをフィオーレが嫌がってるだけです。その都度、私が間に入って喧嘩を止めています』
『なんて子なの! 姉のくせに妹に譲らないなんて。これだから、爵位の低い血を引く子は嫌なのよ!』
『お母様! その発言撤回してください!』


 アルカンタル伯爵家は、爵位こそ伯爵だが、所有する財力は王国でもトップクラス。更に慈善活動にも積極的で領民からの信頼も篤い。また、伯爵家の方々の人柄は非常に穏やかで娘が亡くなってすぐの再婚の際、渋る旦那様の背を押したのは伯爵だった。エルミナのことも自分の孫同然のように可愛がってくれている。トロントの余計な言葉がなければ、今まで通り過ごせた。
 大公家出身のお母様はとにかく貴族としてのプライドが異常に高い。お父様と結婚したのも、カンデラリア公爵家の嫡男だったからというだけ。典型的な青い血主義のお母様を黙らせる一手を出すしかない。


『爵位が低い低いと言いますが伯爵は王家に嫁入り出来る位であるとお忘れですか?』
『ふん。そうだとしても最下位じゃない』


 主に王家に嫁入り出来る貴族は公爵・侯爵・伯爵まで。お母様の中では最低ラインが侯爵家なので何を言っても通じない。


『お母様。フィオーレの母君ミランダ様の祖母は隣国の公爵家の方です』
『それが何よ。既に薄いわ』
『その公爵家は、隣国の現王妃の生家です。更にフィオーレの瞳は、公爵家の特徴である紫紺色。王妃様も同じ瞳の色の方だったと記憶しております』
『!』


 お母様世代で知らない者はいない。隣国の恐ろしさを。大陸で唯一、女神の守護下にある国。隣国の王妃様の実家は、確か建国当初から中立を貫いてきたかなり珍しい家と聞く。あまり隣国の事情に詳しくない私だが、かなり遠いながらも王妃と同じ血を引き、更に同じ瞳の色を持つフィオーレを貶せば貶す程どういう意味を持つか分からない方ではなかった。見る見る内に顔を青ざめさせ、お決まりの台詞を言って慌てて帰って行った。
 ……2度と来てほしくないがそれでは屋敷の者に迷惑が掛かる。私が相手をするのが最も穏便に済むのでこれからも相手をしよう。

 はあ。

しおりを挟む
感想 198

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

『恋心を凍らせる薬を飲みました』 - 残りの学園生活、どうぞご自由にお遊びください、婚約者様

恋せよ恋
恋愛
愛されることを諦めた。だから、私は心を凍らせた。 不誠実な婚約者・ユリアンの冷遇に耐えかねたヤスミンは、 伝説の魔女の元を訪れ、恋心を消し去る「氷の薬」を飲む。 感情を捨て、完璧な「人形」となった彼女を前に、 ユリアンは初めて己の罪と執着に狂い始める。 「お願いだ、前のように僕を愛して泣いてくれ!」 足元に跪き、涙を流して乞う男に、ヤスミンは冷酷に微笑む。 「愛?……あいにく、そのような無駄な感情は捨てましたわ」 一度凍りついた心は、二度と溶けない。 後悔にのたうち回る男と、心を凍らせた冷徹な公爵夫人の、 終わりのない贖罪の記録。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

魔法のせいだから許して?

ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。 どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。 ──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。 しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり…… 魔法のせいなら許せる? 基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…

アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者には役目がある。 例え、私との時間が取れなくても、 例え、一人で夜会に行く事になっても、 例え、貴方が彼女を愛していても、 私は貴方を愛してる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 女性視点、男性視点があります。  ❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。

前世と今世の幸せ

夕香里
恋愛
【商業化予定のため、時期未定ですが引き下げ予定があります。詳しくは近況ボードをご確認ください】 幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。 しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。 皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。 そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。 この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。 「今世は幸せになりたい」と ※小説家になろう様にも投稿しています

行動あるのみです!

恋愛
※一部タイトル修正しました。 シェリ・オーンジュ公爵令嬢は、長年の婚約者レーヴが想いを寄せる名高い【聖女】と結ばれる為に身を引く決意をする。 自身の我儘のせいで好きでもない相手と婚約させられていたレーヴの為と思った行動。 これが実は勘違いだと、シェリは知らない。

王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?

ねーさん
恋愛
 公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。  なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。    王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!

処理中です...