思い込み、勘違いも、程々に。

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人気者は大変

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「朝から多い」
「あはは……」


 げんなりとした声で前方の光景に文句を零したアウテリート様に苦笑する。教室に近い廊下で王太子殿下とリアン様の周りを囲む女子生徒の人数が多いのだ。婚約者のいない2人は、まだ相手のいない彼女達にとって絶対に手に入れたい相手。王太子殿下の伴侶となれば王太子妃に、リアン様の伴侶となれば公爵夫人に。やんわりと断って前に進みたいらしい王太子殿下とリアン様が困られている。助けてあげたいが、逆に私まで2人に気があると思われて嫉妬されるのも困る。
 アウテリート様なら2人を助けるのに最も適した方だが、本人に関わる気は一切なし。


「遠回りしましょう」
「ですね」


 申し訳なさを抱きつつも、私はアウテリート様の提案に乗った。……最後にリアン様のお顔をもう1度見ようと向いた時だ。


「!」


 リアン様がこっちを見ていた。
 嘘……しっかりと目が合って……――――


「あ、お姉様!」


 背後から飛んできた声に私は猛烈に恥ずかしくなった。違う、リアン様が見ていたのは私の後ろから来ていたエルミナだったのだ。
 ……馬鹿。2人は両想いなのに。私が割り込む隙間なんかない。


「おはようエルミナ様」
「おはようございます、グランレオド様」


 1年生と3年生では校舎が違う。離れている3年生の所に来るだなんてどうしたのだろう。


「どうしたの?」
「いえ。お姉様とお話ししたいなと」
「私と?」


 学院で話さないとならない話題……何かあったかな……。心当たりがなくて悩んでいるとアウテリート様が苦笑され私の頬を人差し指で突いた。


「フィオーレ。察しなさいよ。妹君はあなたといたいのよ」
「? 屋敷で毎日会っていますが……」
「そういう意味じゃないわ」


 困ったように笑われるアウテリート様の傍らで、エルミナも祈るように私を見ていた。本当にどうしたのだろう。やはり分からなくて首を傾げれば、焦りの相貌を浮かべたエルミナが「あ」と王太子殿下とリアン様の方を見て声を上げた。


「す……すごいですね……」
「ええ。3年間一緒になるから、もう驚きもないのよ。大変よね。婚約者がいないから、あの2人」
「王太子殿下は存じていましたがロードクロサイト様もですか?」


 リアン様に婚約者がいないのはエルミナが好きだから。『予知夢』では、幼少期に2人の婚約が結ばれてないのは、裏では真に跡取りに相応しいのはどちらかとお父様が見極めていた最中だったから。私は見事期待を裏切った。

 エーデルシュタイン家を継ぐのはエルミナとなった。私は誰も傷付けたくない。私1人が引き下がるだけで誰も不幸にならないのなら、私は自分の恋を諦める。


「さて、遠回りをして教室に入りましょう」
「そうですね。エルミナも鐘が鳴ってしまう前に戻りなさい」
「はい……。あ……あの、お姉様、ご昼食を一緒にして頂けないでしょうか……?」
「? 昨日、お友達が出来たと言っていたでしょう?」


 学生時代に作る友人は貴重だとオーリー様も仰っていた。無理をして私とお昼を食べなくても、朝と夜はきちんと摂っている。やっぱりエルミナの考えが分からなくて首を傾げた。焦りの色が強くなり始めたエルミナを見兼ねてか、アウテリート様が耳打ちをされた。


「でも……」
「焦らないの。焦ったって良いことは何もないわ。フィオーレのことは、家族であるあなたが1番知っているのではなくて?」
「は……はい!」


 何を言われか不明だがアウテリート様のお陰でエルミナの表情に笑顔が戻った。私が暗くさせたのに、喜んでる姿を見ると安心するのは卑怯だなあ……。
 教室へは遠回りをして入ろうと歩き始めた時だ。
 背中に刺さった強い視線。昨日学院内にいた時感じた視線と同じ。そっと後ろを見ても、誰も私を見ていない。廊下にいるのは多数の女性生徒と王太子殿下やリアン様。


「はあ……」
「フィオーレ? どうしたの?」
「いえ……」


 昨日からだし、視線を受けるだけで直接何かをされた訳じゃない。アウテリート様に相談して心配されるのも申し訳ない。私は何でもありませんと笑って誤魔化した。

 途中でエルミナと別れ、別方向で教室に入った私とアウテリート様は席に座って廊下に見た。まだ捕まっていた。


「殿下もガツンと言ってあげたらいいのに」
「殿下は優しい方ですから」
「だから囲まれるのよ。……うん?」


 王太子殿下は誰に対しても穏やかに接せられるので王族特有の威圧感がない。数は少ないが何度か会話をしたことがあるがとても話しやすい方で聞き上手でもある。ふと、アウテリート様が怪訝な声を漏らされた。よく見ると王太子殿下が此方に……というより、アウテリート様に視線で助けを求めている。私が横で見ると溜め息を吐かれ、廊下に出て行かれた。


「大変ね……」


 今日の放課後、用事がなければアウテリート様と大教会に行こう。昨日オーリー様と食べたスイーツが美味しかったのもあるが、アウテリート様も溜まった愚痴をオーリー様に聞いて貰えば気分転換にもなるだろう。
 聞き上手なのはオーリー様もだ。白熱するアウテリート様の愚痴に、微笑ましいものを見る様子で付き合うオーリー様の光景がありありと浮かび、クスリと笑ってしまった。
 途端。
 また視線を感じた。
 さっと周囲を見渡しても誰も見ていない。

 ……一体、どこから視線が飛んでくるんだろう……。



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