16 / 104
人気者は大変
しおりを挟む「朝から多い」
「あはは……」
げんなりとした声で前方の光景に文句を零したアウテリート様に苦笑する。教室に近い廊下で王太子殿下とリアン様の周りを囲む女子生徒の人数が多いのだ。婚約者のいない2人は、まだ相手のいない彼女達にとって絶対に手に入れたい相手。王太子殿下の伴侶となれば王太子妃に、リアン様の伴侶となれば公爵夫人に。やんわりと断って前に進みたいらしい王太子殿下とリアン様が困られている。助けてあげたいが、逆に私まで2人に気があると思われて嫉妬されるのも困る。
アウテリート様なら2人を助けるのに最も適した方だが、本人に関わる気は一切なし。
「遠回りしましょう」
「ですね」
申し訳なさを抱きつつも、私はアウテリート様の提案に乗った。……最後にリアン様のお顔をもう1度見ようと向いた時だ。
「!」
リアン様がこっちを見ていた。
嘘……しっかりと目が合って……――――
「あ、お姉様!」
背後から飛んできた声に私は猛烈に恥ずかしくなった。違う、リアン様が見ていたのは私の後ろから来ていたエルミナだったのだ。
……馬鹿。2人は両想いなのに。私が割り込む隙間なんかない。
「おはようエルミナ様」
「おはようございます、グランレオド様」
1年生と3年生では校舎が違う。離れている3年生の所に来るだなんてどうしたのだろう。
「どうしたの?」
「いえ。お姉様とお話ししたいなと」
「私と?」
学院で話さないとならない話題……何かあったかな……。心当たりがなくて悩んでいるとアウテリート様が苦笑され私の頬を人差し指で突いた。
「フィオーレ。察しなさいよ。妹君はあなたといたいのよ」
「? 屋敷で毎日会っていますが……」
「そういう意味じゃないわ」
困ったように笑われるアウテリート様の傍らで、エルミナも祈るように私を見ていた。本当にどうしたのだろう。やはり分からなくて首を傾げれば、焦りの相貌を浮かべたエルミナが「あ」と王太子殿下とリアン様の方を見て声を上げた。
「す……すごいですね……」
「ええ。3年間一緒になるから、もう驚きもないのよ。大変よね。婚約者がいないから、あの2人」
「王太子殿下は存じていましたがロードクロサイト様もですか?」
リアン様に婚約者がいないのはエルミナが好きだから。『予知夢』では、幼少期に2人の婚約が結ばれてないのは、裏では真に跡取りに相応しいのはどちらかとお父様が見極めていた最中だったから。私は見事期待を裏切った。
エーデルシュタイン家を継ぐのはエルミナとなった。私は誰も傷付けたくない。私1人が引き下がるだけで誰も不幸にならないのなら、私は自分の恋を諦める。
「さて、遠回りをして教室に入りましょう」
「そうですね。エルミナも鐘が鳴ってしまう前に戻りなさい」
「はい……。あ……あの、お姉様、ご昼食を一緒にして頂けないでしょうか……?」
「? 昨日、お友達が出来たと言っていたでしょう?」
学生時代に作る友人は貴重だとオーリー様も仰っていた。無理をして私とお昼を食べなくても、朝と夜はきちんと摂っている。やっぱりエルミナの考えが分からなくて首を傾げた。焦りの色が強くなり始めたエルミナを見兼ねてか、アウテリート様が耳打ちをされた。
「でも……」
「焦らないの。焦ったって良いことは何もないわ。フィオーレのことは、家族であるあなたが1番知っているのではなくて?」
「は……はい!」
何を言われか不明だがアウテリート様のお陰でエルミナの表情に笑顔が戻った。私が暗くさせたのに、喜んでる姿を見ると安心するのは卑怯だなあ……。
教室へは遠回りをして入ろうと歩き始めた時だ。
背中に刺さった強い視線。昨日学院内にいた時感じた視線と同じ。そっと後ろを見ても、誰も私を見ていない。廊下にいるのは多数の女性生徒と王太子殿下やリアン様。
「はあ……」
「フィオーレ? どうしたの?」
「いえ……」
昨日からだし、視線を受けるだけで直接何かをされた訳じゃない。アウテリート様に相談して心配されるのも申し訳ない。私は何でもありませんと笑って誤魔化した。
途中でエルミナと別れ、別方向で教室に入った私とアウテリート様は席に座って廊下に見た。まだ捕まっていた。
「殿下もガツンと言ってあげたらいいのに」
「殿下は優しい方ですから」
「だから囲まれるのよ。……うん?」
王太子殿下は誰に対しても穏やかに接せられるので王族特有の威圧感がない。数は少ないが何度か会話をしたことがあるがとても話しやすい方で聞き上手でもある。ふと、アウテリート様が怪訝な声を漏らされた。よく見ると王太子殿下が此方に……というより、アウテリート様に視線で助けを求めている。私が横で見ると溜め息を吐かれ、廊下に出て行かれた。
「大変ね……」
今日の放課後、用事がなければアウテリート様と大教会に行こう。昨日オーリー様と食べたスイーツが美味しかったのもあるが、アウテリート様も溜まった愚痴をオーリー様に聞いて貰えば気分転換にもなるだろう。
聞き上手なのはオーリー様もだ。白熱するアウテリート様の愚痴に、微笑ましいものを見る様子で付き合うオーリー様の光景がありありと浮かび、クスリと笑ってしまった。
途端。
また視線を感じた。
さっと周囲を見渡しても誰も見ていない。
……一体、どこから視線が飛んでくるんだろう……。
200
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
『恋心を凍らせる薬を飲みました』 - 残りの学園生活、どうぞご自由にお遊びください、婚約者様
恋せよ恋
恋愛
愛されることを諦めた。だから、私は心を凍らせた。
不誠実な婚約者・ユリアンの冷遇に耐えかねたヤスミンは、
伝説の魔女の元を訪れ、恋心を消し去る「氷の薬」を飲む。
感情を捨て、完璧な「人形」となった彼女を前に、
ユリアンは初めて己の罪と執着に狂い始める。
「お願いだ、前のように僕を愛して泣いてくれ!」
足元に跪き、涙を流して乞う男に、ヤスミンは冷酷に微笑む。
「愛?……あいにく、そのような無駄な感情は捨てましたわ」
一度凍りついた心は、二度と溶けない。
後悔にのたうち回る男と、心を凍らせた冷徹な公爵夫人の、
終わりのない贖罪の記録。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。
ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。
ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も……
※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。
また、一応転生者も出ます。
魔法のせいだから許して?
ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。
どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。
──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。
しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり……
魔法のせいなら許せる?
基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。
すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…
アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。
婚約者には役目がある。
例え、私との時間が取れなくても、
例え、一人で夜会に行く事になっても、
例え、貴方が彼女を愛していても、
私は貴方を愛してる。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 女性視点、男性視点があります。
❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。
前世と今世の幸せ
夕香里
恋愛
【商業化予定のため、時期未定ですが引き下げ予定があります。詳しくは近況ボードをご確認ください】
幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。
しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。
皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。
そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。
この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。
「今世は幸せになりたい」と
※小説家になろう様にも投稿しています
行動あるのみです!
棗
恋愛
※一部タイトル修正しました。
シェリ・オーンジュ公爵令嬢は、長年の婚約者レーヴが想いを寄せる名高い【聖女】と結ばれる為に身を引く決意をする。
自身の我儘のせいで好きでもない相手と婚約させられていたレーヴの為と思った行動。
これが実は勘違いだと、シェリは知らない。
王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?
ねーさん
恋愛
公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。
なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。
王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる