思い込み、勘違いも、程々に。

文字の大きさ
21 / 104

3人の戸惑い

しおりを挟む
 





 オーリー様の知り合いで隣国の方ならアウテリート様もご存知の可能性もある。チラリと見ると遠い目をしていた。何故だろう。
 気を取り直してスイーツを頂く。謎のへの字型のクッキーを取った。食べてみると普通のクッキーよりも固く、バターの香りが強い。食感が楽しめるクッキーは大好きだ。食した後に紅茶を飲むとまた食べたくなった。
 手先の器用さを鍛えるのにスイーツ作りは打って付けだと話され、確かにと頷いた。1つ1つの材料の配分を間違えると味が大きく左右されるのが料理。スイーツもまた然り。私は料理をしたことはないけれど、隣国に行けば簡単な料理くらいは作れるようになりたい。

 楽しいお茶の時間もあっという間に過ぎ、黄昏色が空を染め出した。空を仰いだオーリー様は目を丸くした。


「おや。もうこんな時間か。馬車を用意してもらうから、今日はお帰り」
「気付かなかったわ。早く帰らないとうるさく言われる」
「私も。エルミナがまた心配してるかも……」


 昨日の今日だから油断ならない。
 ただ、エルミナが怒っている方が高い。
 オーリー様が手配した馬車にそれぞれ乗り込み、エーデルシュタイン伯爵邸へ馬車は走った。


「フィオーレ様。今日もエルミナ様が待っているようですが」


 御者の方は昨日と同じ人。エルミナはやっぱり、今日も門の前で待っていた。近くで停車してもらい、扉を開けられるとエルミナがすぐそこまで来ていた。


「お姉様!」


 目の前に立ったエルミナは可愛らしい頬を膨らませて腰に両手を当てた。


「もう! 今日は昨日より遅いではありませんか!」
「ごめんなさい。オーリー様とアウテリート様とのお話が楽しくて、つい時間を忘れてしまったの」
「心配したではありませんか!  お父様もお母様も心配してましたわ! 早く屋敷に入りましょう」
「ええ」


 御者の方に昨日と同様お礼を言い、馬車が見えなくなるまで見届けると邸内に入った。心配と言うがもう成人も迎え、3年生にもなった。
 大幅な時間遅れではないのだから、大袈裟な心配も過ぎたものだと思うけれど。
 先に部屋に戻って着替えを済ませ、部屋の前で待っていたエルミナと一緒に食堂へ足を運んだ。


「ただいま戻りました。お父様、お義母様」
「随分と遅かったな。あまり遅くなるとエルミナが心配するから、これからは気を付けなさい」
「申し訳ありません……」


 直後、お義母様が肘でお父様の脇腹を突いた。痛そうに脇腹を摩るお父様が「す、すまん、言い過ぎた」と謝られた。正論なので謝る要素はないのに……。
 エルミナが心配するから……か。そうね、私の帰りが遅くなって心配するのはエルミナだけだもの。まあ、お父様やお義母様は私が成人済みだから心配しないのだろう。
 自分の席に座り、夕食を始めた。

 食事中の会話は私を除いた3人が中心。これは普段と変わらない。私は黙々と食べるだけ。会話の中で偶に驚くことはあるものの、聞いていても私には関係ないから関心も然程抱かない。
 視線は変わらずあるものの、気にせず食べ進めていれば、不意にお義母様がこんなことを言い出した。


「エルミナも学生になったのなら、そろそろ婚約者を見つけないとね」
「わたしにはまだ早いですわ。それより、わたしよりお姉様が先では」
「フィオーレの婚約者の件も勿論。2人とも、誰か気になる殿方はいないの?」


 無意識にナイフを持つ手に力が籠った。『予知夢』の中の私は、リアン様をお慕いしていると高々に宣言した。驚愕した2人の姿が目に焼き付いて離れない。そうだろう、エルミナならまだしも、一応跡取りして育ている私がロードクロサイト公爵家の跡取りであるリアン様をなどと、空気を読めないのにも程がある。
 現実の私は愚かな真似はしない。
 また、エルミナとリアン様をくっ付ける作戦も手を抜かない。
 エルミナは照れながらもいませんと答え、私にも話題が振られたので真意を悟られないよう作り笑いを浮かべた。


「私もいませんわ。お父様やお義母様が認める方なら、誰でも」
「そ、そう」
「でも、エルミナにお似合いな方はいますわ」
「え?」


 一驚するエルミナ。大丈夫、あなたの幸福は姉である私が必ず守ってみせる。……最も邪魔をしていたのが私でも。


「ほら、新入生の歓迎会で王太子殿下とロードクロサイト様とお話ししたでしょう? アウテリート様が、エルミナとロードクロサイト様が並ぶ姿がお似合いだと仰っていたの」
「わ……わたしがですか……?」


 嘘です。ごめんなさい、アウテリート様。今度こっそりとお詫びをさせて下さい。
 幼少期からの片想いを誰にも内緒にしていたエルミナは知らない私が予想外にもリアン様を推したから、戸惑いの相貌を見せる。
 お父様とお義母様は感心しているだろうと一瞥した。……うん? エルミナよりも戸惑いが強い。2人顔を見合わせている。


「フィ、フィオーレ」


 お父様が妙に焦りの混じった声色で呼ぶ。


「フィオーレは、リアン様をどう思う?」


 どうして私に?
『予知夢』と異なる展開に今度は私が戸惑う番となるも、悟られないよう平静を装い、ただのクラスメートですと答えた。
 そうか……と考え込むお父様の手が食事を進めることはなかった。





しおりを挟む
感想 198

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

『恋心を凍らせる薬を飲みました』 - 残りの学園生活、どうぞご自由にお遊びください、婚約者様

恋せよ恋
恋愛
愛されることを諦めた。だから、私は心を凍らせた。 不誠実な婚約者・ユリアンの冷遇に耐えかねたヤスミンは、 伝説の魔女の元を訪れ、恋心を消し去る「氷の薬」を飲む。 感情を捨て、完璧な「人形」となった彼女を前に、 ユリアンは初めて己の罪と執着に狂い始める。 「お願いだ、前のように僕を愛して泣いてくれ!」 足元に跪き、涙を流して乞う男に、ヤスミンは冷酷に微笑む。 「愛?……あいにく、そのような無駄な感情は捨てましたわ」 一度凍りついた心は、二度と溶けない。 後悔にのたうち回る男と、心を凍らせた冷徹な公爵夫人の、 終わりのない贖罪の記録。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

魔法のせいだから許して?

ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。 どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。 ──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。 しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり…… 魔法のせいなら許せる? 基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…

アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者には役目がある。 例え、私との時間が取れなくても、 例え、一人で夜会に行く事になっても、 例え、貴方が彼女を愛していても、 私は貴方を愛してる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 女性視点、男性視点があります。  ❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。

前世と今世の幸せ

夕香里
恋愛
【商業化予定のため、時期未定ですが引き下げ予定があります。詳しくは近況ボードをご確認ください】 幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。 しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。 皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。 そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。 この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。 「今世は幸せになりたい」と ※小説家になろう様にも投稿しています

行動あるのみです!

恋愛
※一部タイトル修正しました。 シェリ・オーンジュ公爵令嬢は、長年の婚約者レーヴが想いを寄せる名高い【聖女】と結ばれる為に身を引く決意をする。 自身の我儘のせいで好きでもない相手と婚約させられていたレーヴの為と思った行動。 これが実は勘違いだと、シェリは知らない。

王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?

ねーさん
恋愛
 公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。  なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。    王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!

処理中です...