思い込み、勘違いも、程々に。

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婚約者〜リアン視点〜

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「婚約者……ですか……?」


 大きな紫紺色の瞳を丸くし、マグカップを持ったまま小首を傾げられた。何気ない動作でも可愛く映ってしまう。


「いえ……そのような話は聞いておりません。私は……お父様が決めた方が婿養子になるのだとは思っておりますが……」
「そうか……」


 フィオーレの様子で伯爵が婚約の打診を告げていないのは感じ取った。
 何故だ……此方としても跡取りであるフィオーレを妻にと望んだ無茶振りは自覚し、幾つかの条件をつけている。彼女が1人っ子だったら、俺が逆に伯爵家の婿となれば良いだけ。だが、エーデルシュタイン家にはエルミナ嬢がいる。彼女も非常に優秀な令嬢だと何度か噂を耳にした。エルミナ嬢でも十分伯爵家を継げる。
 ……まさか、伯爵が何度かフィオーレではなくエルミナ嬢をと勧めるのは、あの話が事実だからか?


「フィオーレ嬢は……エルミナ嬢と仲が良いな……」
「え? ……悪くは……ないと思います……」


 一瞬、ほんの一瞬だった。フィオーレの目に悲しみと衝撃が色濃く現れた。フィオーレはすぐに俯いてしまったのでそれが本当だったのか、自信が持てない。エルミナ嬢の話題を出してしまったのが原因なら……あの話は本当なのかもしれない。
 エーデルシュタイン家の姉妹は腹違いの異母姉妹。フィオーレの母君は彼女を産んで亡くなったと聞いた。周囲の勧めで幼馴染であるカンデラリア公爵家の次女シェリア様と再婚し、エルミナ嬢が生まれた。
 伯爵令嬢の娘と公爵令嬢の娘。どちらの娘と懇意になった方がいいか、などという話が社交界にあったそうな。無論、伯爵夫妻は事実無根だと噂を広めた者達を見つけ出し相応の制裁を加えたと聞く。
 更にあるのがフィオーレと家族の不仲説だ。俺が見た限りでは、エルミナ嬢とは仲良さげな上、何度か目撃する夜会やパーティーで伯爵夫妻と不仲には見えなかった。

 だが、こうしてエルミナ嬢との関係を訊ねた反応を見ると……噂は本当なのかもしれない。伯爵がエルミナ嬢を勧めるのも夫人にカンデラリア公爵家のご機嫌伺いなら……


「……あの……リアン……様……」


 遠慮がちに名前を呼ばれ、思考を一旦止めた。
 無理矢理な口実でフィオーレに名前を呼んでもらえるようになった。たかが名前を呼ばれるだけでも大きな進展だ。


「リアン様はエルミナが気になるのですか……?」


 不用意にエルミナ嬢との関係を訊いたのが痛手だったな……。
 軽く首を振ると不可解な顔をされてしまう。
 何故……?


「……いや、随分とエルミナ嬢が君といたがるのを見たからそう思っただけだよ」
「そう、ですか。……私、お父様と王太子殿下にエルミナを生徒会への加入に勧めてみようと思うのですが、リアン様はどう思われますか?」
「良いんじゃないのか。彼女を見る限り、王太子に媚びるような性格でもない上、周囲とも早く打ち解けて上手くやってくれそうだ」
「良かった」


 最も大事なのはアウムルにあからさまな媚びを売らない女子生徒だ。婚約者のいない王太子の心を射止めれば、自身が王太子妃、未来の王妃になれると信じる生徒が多い。隣国の高位貴族の令嬢で歳が近いとなるとアウテリート嬢しかいないが既に断られていると聞く。他は10歳も下になってしまう。
 成績も重要になるがエルミナ嬢は上位に食い込んでいるので問題はない。アウムルも異論は唱えないだろう。
 安堵の相貌を浮かべたフィオーレもとても可愛い。マグカップを置いて漸くコルネットに手を伸ばした。俺もそろそろ昼食を食べるか……。

 屋敷に戻ったら、伯爵からの返事を急かすよう父上に言わなくては……。


「…………エルミナが気になって当たり前よね……」


 伯爵からの返事の催促、更にリグレットが何かしでかさないか考えていた俺はフィオーレの落胆した呟きを拾えなかた。

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