30 / 103
側にいてほしくて〜リアン視点〜
しおりを挟む初めて彼女を見た光景を鮮明に覚えている。父や母に話すと大層驚かれた。無理もない。それは俺が1歳にも満たない赤ん坊の頃の出来事だったからだ。
淡い黄色の粒子に包まれ、嬉しげに声を上げる真っ白な子。
色艶やかな紫紺色の瞳は天井に描かれる女神に向けられ、小さな椛を必死に伸ばしていた。
長い空色の髪、太陽を閉じ込めたような薄黄色の瞳の――この世ならざる雰囲気を纏った女性は赤子に告げた。
『貴女に……祝福を……』
後にそれは滅多にない、隣国の女神が人間の願いを叶えた瞬間だと言う。
「……」
「……」
無言が支配する室内。王太子であるアウムルが時々使用する休憩部屋にフィオーレを連れ、昼食を摂っているが会話がない。彼女から発せられる気まずさは俺のせいなのだろう。ちびちびとホットミルクの入ったマグカップを口に付けては飲むを繰り返していた。
俺が覚えている夢の赤子と目の前に座るフィオーレは同一人物だ。
幼少期に開かれたパーティーで彼女を見た時の衝撃は忘れられない。
冬の晴れた青空のような髪色と色艶やかな紫紺色の瞳。髪の色までは覚えてなくても、フィオーレの瞳の色だけは忘れられなかった。
父に話をした際、赤子がエーデルシュタイン伯爵家の長女フィオーレだと教えてくれた。丁度、隣国の教会で俺の祝福を授けてもらうべく両親も足を運んた時の出来事だったのだ。
伯爵夫人と妹に向ける、コロコロと変わる愛らしい表情も。妹の我儘で困ったように笑う姿も。伯爵夫人に連れられ、各々の家の夫人や子供に挨拶をする姿も。
そのどれもに目が離せなくなった。
愛らしくて、可愛くて、ずっと側にいてほしい……。フィオーレを婚約者にと願ったが不可能だった。
エーデルシュタイン伯爵家を継ぐのは、長子である彼女。
俺もまた、ロードクロサイト公爵家を継ぐ。
跡取り同士の婚約は無理だと両親は俺を諦めさせようと、他の婚約話を持ってくる。中にはフィオーレの妹エルミナ嬢もあった。妹と婚約してしまえばフィオーレに近付ける口実が増える。だが、それではエルミナ嬢に不義理な上、フィオーレにも失礼だ。かと言って、フィオーレを諦めて他家の令嬢とも嫌だった。
王家からの打診もあったようだが、これについては父が初めから断った。
現国王には王妃との子であるアウムルとは他に、王女が1人いる。身分の低い愛人に生ませた子でロードクロサイト公爵家の後ろ盾欲しさに打診してきているのだ。俺の母が王妃の姉である為、絶対にお断りであった。
俺はフィオーレがいい。
たった1度だけ……フィオーレと話した。と言っても、パーティーで顔を合わせた際の挨拶だが。
『初めましてリアン様。エーデルシュタイン家長女、フィオーレです』
可憐な姿にピッタリな声と仕草。洗練された動作は見事なもので、伯爵夫人も誇らしげにフィオーレを見守っていた。次にエルミナ嬢が挨拶をするもフィオーレに夢中な俺は目に見えなかった。
粘りに粘って、父にある条件を叩き付けて漸くフィオーレへの婚約の打診まで漕ぎつけた訳だが。……この2年、伯爵家からはずっと返事は保留にされている。
何度かエルミナ嬢はと言われるも、エルミナ嬢がいいなら最初からフィオーレに求婚なんてしない。
同じクラスなら、慌てなくても接触の機会はいくらでもあると高を括った俺も馬鹿だった。
1年生、2年生と……フィオーレはすぐに教室から姿を消す。選択授業も絶対に同じにならなかった。更に俺自身がアウムルの手伝いも相俟って余計時間が割けなかった。
気付くと既に最終学年……。伯爵家からは未だ返事が来ず。
恐らくだがフィオーレは婚約の件は知らないのではと疑問を抱く。
そうでなければ、俺に婚約者を早く見つけろ、などと言う筈がない。
「フィオーレ嬢は……」
「は……はいっ……」
「……」
昨日の食堂でもそうだ。俺が話し掛けると声が上がり、緊張が高まる。
「……フィオーレ嬢は……婚約者はいないのか……?」
146
あなたにおすすめの小説
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中
年に一度の旦那様
五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして…
しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。
幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ
猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。
そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。
たった一つボタンを掛け違えてしまったために、
最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。
主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
お姉さまは最愛の人と結ばれない。
りつ
恋愛
――なぜならわたしが奪うから。
正妻を追い出して伯爵家の後妻になったのがクロエの母である。愛人の娘という立場で生まれてきた自分。伯爵家の他の兄弟たちに疎まれ、毎日泣いていたクロエに手を差し伸べたのが姉のエリーヌである。彼女だけは他の人間と違ってクロエに優しくしてくれる。だからクロエは姉のために必死にいい子になろうと努力した。姉に婚約者ができた時も、心から上手くいくよう願った。けれど彼はクロエのことが好きだと言い出して――
【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~
黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。
今更ですか?結構です。
みん
恋愛
完結後に、“置き場”に後日談を投稿しています。
エルダイン辺境伯の長女フェリシティは、自国であるコルネリア王国の第一王子メルヴィルの5人居る婚約者候補の1人である。その婚約者候補5人の中でも幼い頃から仲が良かった為、フェリシティが婚約者になると思われていたが──。
え?今更ですか?誰もがそれを望んでいるとは思わないで下さい──と、フェリシティはニッコリ微笑んだ。
相変わらずのゆるふわ設定なので、優しく見てもらえると助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる