思い込み、勘違いも、程々に。

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側にいてほしくて〜リアン視点〜

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 初めて彼女を見た光景を鮮明に覚えている。父や母に話すと大層驚かれた。無理もない。それは俺が1歳にも満たない赤ん坊の頃の出来事だったからだ。

 淡い黄色の粒子に包まれ、嬉しげに声を上げる真っ白な子。
 色艶やかな紫紺色の瞳は天井に描かれる女神に向けられ、小さな椛を必死に伸ばしていた。
 長い空色の髪、太陽を閉じ込めたような薄黄色の瞳の――この世ならざる雰囲気を纏った女性は赤子に告げた。


『貴女に……祝福を……』


 後にそれは滅多にない、隣国の女神が人間の願いを叶えた瞬間だと言う。


「……」
「……」


 無言が支配する室内。王太子であるアウムルが時々使用する休憩部屋にフィオーレを連れ、昼食を摂っているが会話がない。彼女から発せられる気まずさは俺のせいなのだろう。ちびちびとホットミルクの入ったマグカップを口に付けては飲むを繰り返していた。

 俺が覚えている夢の赤子と目の前に座るフィオーレは同一人物だ。
 幼少期に開かれたパーティーで彼女を見た時の衝撃は忘れられない。
 冬の晴れた青空のような髪色と色艶やかな紫紺色の瞳。髪の色までは覚えてなくても、フィオーレの瞳の色だけは忘れられなかった。
 父に話をした際、赤子がエーデルシュタイン伯爵家の長女フィオーレだと教えてくれた。丁度、隣国の教会で俺の祝福を授けてもらうべく両親も足を運んた時の出来事だったのだ。

 伯爵夫人と妹に向ける、コロコロと変わる愛らしい表情も。妹の我儘で困ったように笑う姿も。伯爵夫人に連れられ、各々の家の夫人や子供に挨拶をする姿も。
 そのどれもに目が離せなくなった。

 愛らしくて、可愛くて、ずっと側にいてほしい……。フィオーレを婚約者にと願ったが不可能だった。
 エーデルシュタイン伯爵家を継ぐのは、長子である彼女。
 俺もまた、ロードクロサイト公爵家を継ぐ。
 跡取り同士の婚約は無理だと両親は俺を諦めさせようと、他の婚約話を持ってくる。中にはフィオーレの妹エルミナ嬢もあった。妹と婚約してしまえばフィオーレに近付ける口実が増える。だが、それではエルミナ嬢に不義理な上、フィオーレにも失礼だ。かと言って、フィオーレを諦めて他家の令嬢とも嫌だった。
 王家からの打診もあったようだが、これについては父が初めから断った。
 現国王には王妃との子であるアウムルとは他に、王女が1人いる。身分の低い愛人に生ませた子でロードクロサイト公爵家の後ろ盾欲しさに打診してきているのだ。俺の母が王妃の姉である為、絶対にお断りであった。

 俺はフィオーレがいい。
 たった1度だけ……フィオーレと話した。と言っても、パーティーで顔を合わせた際の挨拶だが。


『初めましてリアン様。エーデルシュタイン家長女、フィオーレです』


 可憐な姿にピッタリな声と仕草。洗練された動作は見事なもので、伯爵夫人も誇らしげにフィオーレを見守っていた。次にエルミナ嬢が挨拶をするもフィオーレに夢中な俺は目に見えなかった。


 粘りに粘って、父にある条件を叩き付けて漸くフィオーレへの婚約の打診まで漕ぎつけた訳だが。……この2年、伯爵家からはずっと返事は保留にされている。
 何度かエルミナ嬢はと言われるも、エルミナ嬢がいいなら最初からフィオーレに求婚なんてしない。

 同じクラスなら、慌てなくても接触の機会はいくらでもあると高を括った俺も馬鹿だった。
 1年生、2年生と……フィオーレはすぐに教室から姿を消す。選択授業も絶対に同じにならなかった。更に俺自身がアウムルの手伝いも相俟って余計時間が割けなかった。

 気付くと既に最終学年……。伯爵家からは未だ返事が来ず。
 恐らくだがフィオーレは婚約の件は知らないのではと疑問を抱く。
 そうでなければ、俺に婚約者を早く見つけろ、などと言う筈がない。


「フィオーレ嬢は……」
「は……はいっ……」
「……」


 昨日の食堂でもそうだ。俺が話し掛けると声が上がり、緊張が高まる。


「……フィオーレ嬢は……婚約者はいないのか……?」




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