思い込み、勘違いも、程々に。

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リアン様に嫌われたくて2

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「フィオーレ嬢? ここで何を」
「リアン様!?」


 今日の話し合いにリアン様がいても変じゃない。彼も現場にいたのだから。
 ただ、今こうして会うのが驚きが強くてつい声が上がってしまった。咄嗟に口を抑え罪悪感を混ぜて見上げたら、眉間に相応しくない皺が寄せられていた。私の声が大きかったから……ごめんなさい。


「何をと言う程ではありませんが……話し合いが始まるまで気分転換でもと」
「それでいいだろうよ。フィオーレ嬢、手の痛みは大丈夫か」
「はい。痣はまだありますが痛みはもう引いてます」
「……」


 袖で隠せる場所で良かった。他人からでも見える場所だったら要らぬ心配や憶測を呼ぶ。痛ましい面持ちをされるリアン様に心配させないよう笑って見せても変わらない。


「リアン様やオーリー様、王太子殿下が助けて下さったお陰で酷い怪我を負わずに済みました。ありがとう御座います」
「……良くない」
「え」


 負担になりたく故の言葉はリアン様にとっては重しでしかないの?
 首を振り、変わらない表情のまま近付いて来たかと思えば――リアン様に抱き締められていた。


「リアン、様……?」


 思いもしない行動に固まっていると上からリアン様の声が降りた。


「君が傷つくのは見たくない。頼りなく見えても頼ってほしい。俺は……君が心配なんだ」
「っ……」


 発せられる声色からは真剣に私の心配が伺える。大好きなリアン様に抱き締められて、香りに包まれて、自分の決意が簡単に揺らぐ。私の意思なんて結局その程度のもの。エルミナとリアン様が結ばれるようにと願いながらも、彼を諦めきれない自分がいる。その気持ちが特に強い。
 腕を回して抱きつきたい。大好きな人に抱きついて、抱き締められて、なんて幸福なんだろう。考えるだけで幸福に浸され戻れなくなる。

 ずっとこのままでいたい。
 このまま、リアン様と2人でいたい。


(……ううん。やっぱり駄目)


 脳裏にチラつく『予知夢』の自分。資格はないのにリアン様に愛されるのは自分だと高々に宣言して家族を困惑させ、実は両思いなエルミナに嫉妬して虐げた。最後は伯爵家を追放され、北の流刑地へ流された。その後を視たくても眩しい光に阻まれ視れない。

 リアン様の温もり、香りを忘れないようしっかりと自分の体に覚えさせ――私はリアン様の体を押した。


「フィオーレ嬢……?」


 呆然とした相貌で私を呼ぶリアン様は簡単に離せた。私も私程度の力で離せるとは予想しなかった。

 傷付いた、悲しい相貌で見つめられ胸が痛くて締め付けられる。耐えるのよ、耐えて見せればリアン様はエルミナと結ばれて幸せになれるのっ。
 私は隣国に行って2人の幸せを願って生きていけばいい。


「申し訳、ありませんリアン様。私は……リアン様と婚約は出来かねます」
「……何故? 君が知ったのがあの時だと俺も知った。答えを急くつもりはない」
「そういう問題ではないのです。リアン様、私には昔からの想い人がいますっ」


 私の想い人は昔も今もあなただけです……。


「……」


 限界まで瞠目する青水晶の瞳が次第に細くなっていき、込められている感情に変化があった。綺麗な青には似合わない強い翳りが生じ、向けられる威圧には気のせいか憎しみも含まれていた。
 リアン様に嫌われてから私は隣国へ行きたい。そうすれば『予知夢』通りリアン様はエルミナと結ばれ、幸せになれる。経緯はどうであれ、これが正しい選択だ。

 でもまだ足りない。リアン様に軽蔑されて、2度と会話をしたくないと抱いてもらわないと。


「エーデルシュタインの力が欲しければエルミナを婚約者にしてください。私は……」


 声は震えそうになるのを耐えて無理矢理気持ちを強く持って、ただリアン様と正面から向き合える度胸がないから俯いてでしか言えない。


「……分かった」
「……」


 重く、低い、諦めが混じったリアン様の声が安堵と共に絶望を呼び寄せた。自分で招いておきながら絶望するなんて……やっぱり私は身勝手な女だ。『予知夢』を持たない彼に未来は視えないのに、未来が視える私は2人の為とリアン様を拒絶した。
 婚約の打診は本心から私をとして下さったのに。いもしない架空の想い人をでっち上げてリアン様を傷付けた代償は大きい。

 これでいい。これでいいと泣きそうになるのを堪えて顔を上げ――背中に衝撃が走った。一瞬、何が起きたのか思考が追い付かなかった。
 眼前にある青水晶の瞳の昏さと途方もない激情に呑まれ硬直してしまった。
 だから、リアン様に口付けられていると気付けるのにも時間が掛かってしまった。


「ん……!?」


 気付いた時には遅かった。抵抗しようと体を押そうとしても逆に捕まれ、片手で頭上に固定された。顔を逸らそうとも顎を掴まれているせいで叶わず、息がし辛く空気を欲して口を開けた。


「んん……!!」


 口呼吸は間違いだった……開いた口内に生温い感触が触れた。驚いて肩を跳ねたら顎を掴んでいた手が頬に移動され、優しい手つきで撫でられる。


「……君が誰を好きでいようが……関係ない……」
「ん……リア、ン……様……」
「俺を好きにさせれば……いいだけだ……」


 キスの合間に呟かれる言葉が切なげでありながら、私の心を縛っていく。重い鎖に縛られ身動きが取れない。
 ……リアン様とのキスがずっと続いてしまえばいいという自分が勝って抵抗をしないと示すのに瞳を閉じた。


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