思い込み、勘違いも、程々に。

文字の大きさ
97 / 104

リグレットの悪足掻き②~リアン視点~

しおりを挟む


「なあ、ムル」
「どうした」
「エーデルシュタイン家の『予知夢』については知ってるよな?」
「ああ、勿論」


 王族であるムルが知らない筈がない。王国の未来に関する重要な事柄を予知する能力を持つ唯一の貴族家。現在能力を持つ者はいないとされている。本来ならフィオーレの為を思うなら、話さない方が良いのだがムルは他者に容易く口を滑らせる男じゃない。何より、俺自身確信を持ちたい事があった。


「エーデルシュタイン家の『予知夢』は、基本王国に関する事柄しか視ないもの、だったよな」
「合ってる。どうしたんだ、まさかフィオーレ嬢が『予知夢』の能力を持っていると言いたいのか?」
「……」
「……本当だったのか?」
「……ああ」
「……リアン」


 さっきまでの様子とは打って変わり、声を潜め慎重な声色でムルは囁いた。


「そんな報告は受けていないぞ。多分、父上も知らない」
「先代伯爵夫人には告げているようだが他には話していないようなんだ」
「『予知夢』の内容が異なるとか……?」


 コクリと頷き、以前フィオーレが視たという『予知夢』の内容をムルに話した。聞き終わると眉間には似合わない皺が寄せられていた。


「本来なら、王国に関する内容しか視ないのに、フィオーレ嬢の場合は無関係な『予知夢』を視ている……となるのか……確かに周囲に告げていないのは頷ける」
「どうも気になるんだ。明日、フィオーレに会ったら聞いてみようと思う」
「話してくれるといいがな。ああ、そうだ。おれから言うまでもないと思うがフィオーレ嬢に『予知夢』の能力があるとは周囲に知られるなよ? エーデルシュタイン家の『予知夢』の能力を欲しがる輩は、驚く程にいるんだから」
「分かってるよ」


 王国で王家以上の権力を持ちたい野心家は正に筆頭と言ってもいい。
 ムルとはその後も幾つか話をし、騎士が呼びに来ると俺も部屋を出て城から去った。馬車に乗り込み、ロードクロサイト家の屋敷へ向かう道中、どうしても思ってしまうのはフィオーレの事だけ。
 俺が好きだと言っても信じてくれないのも何故かエルミナ嬢と引き寄せようとしているのも『予知夢』のせいなのだとしたら、どんな内容のものなのかを聞かねばならない。

 早く明日になればいいものを……。


 ――翌日。屋敷を出る際、父に呼び止められた。


「リアン。少しいいか」
「なんですか」
「今日、陛下やリグレット王女殿下の処遇を決める会議があって私も出席する」
「知ってますよ」
「間違いなくリグレット王女殿下は幽閉される。そうなれば、お前の悩みの種も一つ減るだろう。フィオーレ嬢を婚約者にしたいなら、今が良い機会だと思うが?」
「父上に言われなくても解ってますよ」


 まさか父上に言われるとは……のんびり構えているように見えたのか?
 頭を軽く下げて今度こそ屋敷を出て、待たせていた馬車に乗り込んだ。
 ぼんやりと窓越しから外の光景を眺め、普段通りの時間で学院に到着。馬車から降り、近くにエーデルシュタイン家の馬車はないかと探すがなかった。一旦教室に向かう事にし、校舎内に入った。


「リアン」


 階段を上がろうとした足を止め、呼び止めた相手アクアリーナに向く。


「お父様から聞いたわ。あの我儘王女とやっとお別れできそうね」
「なってくれたら良いんだけどな」
「心配してるの? ロードクロサイト公爵が張り切ってるってお父様は言っていたし、陛下に呆れ果てていたお父様も張り切っているわよ」


 此処にムルがいなくて良かったがいないからこその発言なのだと解した。親しい間柄でも礼儀は存在する。
 以前から気になっていたある事をアクアリーナに訊ねようとすると「あ、用事を思い出したからまた今度話しましょう!」と何故か慌てて去って行った。俺の後ろを見ていきなり態度を変えたが何を見たんだと振り向くとそこにはフィオーレがいた。
 朝1番に会いたかったフィオーレ。目が合うと恥ずかしそうに頬を赤らめ、瞼を伏せたフィオーレの行動の1つ1つが可愛いと思えるのは俺も末期なんだな。


「……フィオーレ」
「リアン様……」
「君に会いたかった。話がしたいから、場所を移そう?」
「はい……」


 了承をされ、ホッとする。手を差し出すと一瞬戸惑いを見せるがそっと小さな手が俺の手に重なった。フィオーレの手を引いて向かうのは、生徒なら自由に出入り可能な書庫室。テスト前では勉強に集中するようにと予約制の個室が存在する。テスト前じゃない朝で使用しているのは誰もおらず、適当な部屋を選んでフィオーレを引き入れた。
 二人きりになった途端、誰の目もないからとフィオーレを抱き締めた。会った時から抱き締めたくて堪らなかった。昨日の今日だから尚更。遠慮がちに、だが、背に回された小さな手の力強さにホッとする。

 拒絶されていないと。


「リアン様……私もリアン様とお話がしたいと考えていました。私の話も聞いてくださいますか?」
「勿論だ。君の話なら何だって聞く」


 少しだけ体を離し、腕の中にいるフィオーレを見つめた。抱き合っているのが恥ずかしいのだろう、顔は赤いまま。さっきと違うのは瞳はしっかりと俺を見上げている点。


「本当は暫く休学させるとお義母様に言われていたんです。私が怖い目に遭ったから。でも、リアン様と話がしたくなって無理を言って今日は登校させてもらいました」
「そうか。なら、この後エーデルシュタイン家へ送る。伯爵夫妻は心配で気が気じゃないだろうから」
「そうだとは思いますが今は別の件でも気が気じゃないかと」
「リグレットの件だな?」


 コクリ、と頷かれる。


「心配ない。隣国の王族が先代国王の遺言に従って対処をしている。国王もリグレットも愛人も直にいなくなる。君に危害を加えるリグレットは、2度と外には出られなくなるから安心して」
「お義母様が言っていた隣国の怖い人と言うのは、隣国の王族の方だったのですか……」
「多分そうだろう」


 毎日大教会の前にある花壇で如雨露を片手に水やりをしているオーリーと名乗る隠居貴族が、まさか隣国の前王弟だと顔を知る者以外は絶対に思わない。俺もアウムルから聞かされて知ったくらいだ。


しおりを挟む
感想 198

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

『恋心を凍らせる薬を飲みました』 - 残りの学園生活、どうぞご自由にお遊びください、婚約者様

恋せよ恋
恋愛
愛されることを諦めた。だから、私は心を凍らせた。 不誠実な婚約者・ユリアンの冷遇に耐えかねたヤスミンは、 伝説の魔女の元を訪れ、恋心を消し去る「氷の薬」を飲む。 感情を捨て、完璧な「人形」となった彼女を前に、 ユリアンは初めて己の罪と執着に狂い始める。 「お願いだ、前のように僕を愛して泣いてくれ!」 足元に跪き、涙を流して乞う男に、ヤスミンは冷酷に微笑む。 「愛?……あいにく、そのような無駄な感情は捨てましたわ」 一度凍りついた心は、二度と溶けない。 後悔にのたうち回る男と、心を凍らせた冷徹な公爵夫人の、 終わりのない贖罪の記録。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

魔法のせいだから許して?

ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。 どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。 ──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。 しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり…… 魔法のせいなら許せる? 基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…

アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者には役目がある。 例え、私との時間が取れなくても、 例え、一人で夜会に行く事になっても、 例え、貴方が彼女を愛していても、 私は貴方を愛してる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 女性視点、男性視点があります。  ❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。

前世と今世の幸せ

夕香里
恋愛
【商業化予定のため、時期未定ですが引き下げ予定があります。詳しくは近況ボードをご確認ください】 幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。 しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。 皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。 そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。 この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。 「今世は幸せになりたい」と ※小説家になろう様にも投稿しています

処理中です...