思い込み、勘違いも、程々に。

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リグレットの悪足掻き③




 こうやって抱き締められているとリアン様の温もりをもっと感じたくて自分から抱き付いてしまう。背中に回ったリアン様の手は私を安心させようと優しく撫でる。心地好くて、ずっとこのままでいたいと私の意思を根こそぎ奪っていく。

 でも。


「……私が視た『予知夢』の世界は、私にとって残酷な世界でした」


 話すと決めたんだ。リアン様はきっと何時までも待っていてくれる。それだと駄目。ちゃんと話さないと。
 今まで私が視てきた『予知夢』はどれも私の自業自得によって招いた結果を示していた。

 現状、お父様やお義母様やエルミナとの関係は良好といっていい。実の母だと思っていた人が義母でエルミナが異母妹だと知った日以降、あからさまではなくとも距離を置いていった。
『予知夢』の世界の私と現実の私の共通点はどれもリアン様を好きな事。


「違いは……私がエルミナの事を好きじゃないところ……でした」


 エルミナはリアン様が好きで、リアン様もエルミナが好きだったから、自分こそがリアン様に愛されているという思考の私は次第にエルミナが邪魔になっていった。
 エルミナがいなくなればリアン様は私だけを見てくれる、私だけを愛してくれる、って。


「リアン様はエルミナの事が好きなんだと思っていたんです。エルミナもリアン様を……」
「……フィオーレ」


 固い声で呼ばれ顔を上げさせられた。青水晶の瞳はジッと私の瞳を映している。


「それは『予知夢』の世界の話だ。俺が好きなのは君だフィオーレ。エルミナ嬢だってきっとそう」
「『予知夢』を意識していなくても、二人は」
「フィオーレ」


 もう一度、今度は強い口調で呼ばれた。私の腰を強く抱いて近くのテーブルに座らされ、両頬をリアン様の手に包まれた。


「好きじゃない子にキスもしなければ抱いたりもしない。きっかけはあのワインのせいにしろ、君を抱いたのも俺の意思だ」
「でも」
「何度かエルミナ嬢と言葉を交わしているが彼女からは特別な好意を感じたことはない。俺もエルミナ嬢はフィオーレの妹で伯爵令嬢だとしか見ていない」


 私を視界に映す真摯な青水晶の瞳から嘘は感じられない。なら、私が今まで視た『予知夢』は一体何なのか。どうして私の破滅を映し、リアン様やエルミナが結ばれる光景ばかり映すのか。


「君が今まで俺にエルミナ嬢を推す理由は大体知れた。あくまで『予知夢』の世界の話であって現実じゃない」
「『予知夢』が全て嘘だとも思えないんです……」


 現に、窓から落ちた植木鉢がエルミナに当たり掛けた、エーデルシュタイン家に仕える執事が怪我をしかけた。外れもあれば当たりもある。


「君の視ている『予知夢』は、どれも身近な人に関係するものばかりだ。本来エーデルシュタインの血を引く者が視るのは、国に関わる重要な案件だと聞く。本当にフィオーレのそれは『予知夢』なのか?」
「私はそうだと思っています。リアン様の言う通り、今までの『予知夢』とは違うものだから、お祖母様にしか話していないんです」


 知る術があるのなら知りたい。私が視る『予知夢』の世界が何かを。


「フィオーレ。どうしても聞きたいことがある」
「はい……」


 固く、緊張した声。何を聞かれるのだろう。


「フィオーレ……君の好きな人が誰か教えて」


 私の好きな人……そんなの、目の前にいるリアン様。他に好きな人がいると嘘を言ってリアン様が私から離れるようにしたかった。エルミナが好きだからって。
 ……そして拒まれるのが怖かった。

 視線を逸らすのは駄目。揺れる青水晶の瞳には多分の熱があって……もう嘘も言えない、言い逃れもしちゃ駄目。


「リアン様……リアン様……貴方が好き……好きですリアン様」


 一度口にしたら止まらない。顔がとっても熱い。心臓が馬鹿みたいにうるさい。私を見つめるリアン様が直視出来ない……。


「フィオーレ。俺を見て」


 逸らした視線を再びリアン様へ向けキスをされた。


「ん……」


 リアン様に自分の気持ちを伝えた後のキスは今までで1番甘くて心地好い。
 ずっとこのままリアン様とキスをしていたい……そんな時ほど長くは続かなかった。


「——リアン!!」


 唇を離し、暫し見つめ合った後、もう一度キスをしようと目を閉じた直後に響いた声。乱暴に開けられた扉の先には、身形がボロボロなリグレット王女殿下がいた。

  



  
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