思い込み、勘違いも、程々に。

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リグレットの悪足掻き④

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「リアンその女から離れて! 貴女にはわたしがいるでしょう!」


 鬼気迫るリグレット王女殿下の身形はどうしてかボロボロ。即座に私を後ろに隠しリアン様が前に出た。


「ムルからは君や愛人、陛下は離宮に隔離されたと聞いたが?」
「お兄様の命令しか聞かない騎士なんていらない! パパがこの国で1番偉いのよ!? パパの命令に忠実な騎士がわたしを学院まで逃がしてくれたの!」
「まだ国王の命令を聞く騎士がいたのか……」


 唖然としながらも、一縷の望みを捨てないか、と呟いたリアン様。


「ねえリアン。わたしを妻にしてよ。わたしならリアンが望む物を何でもあげられる!」
「俺の望む物が何か知っているのか」
「わたしがパパにお願いしたら、リアンを王様にしてあげられる!」
「……」


 私はリアン様の後ろ姿しか今は見えない。
 見えなくてもリアン様が絶句しているのが何となく察せられる。
 私でさえ、殿下の発言に言葉を失った。

 王国の次期国王は王太子殿下ただ1人。万が一、王太子殿下に何かが起きて王位を継ぐ資格無しと判断されても王女殿下が女王になることは決してなく、リアン様が王になることもない。
 王太子殿下は国民からの信頼も篤く、貴族達からの支持も強い。陛下が王位を王女殿下のお願いでリアン様にと言おうと議会が決して認めない。また、王女殿下が女王になるという選択肢もない。


「リグレット」


 漸く声を発したリアン様の声色は険しさが格段に増していた。


「お前はその発言に責任を取れるのか」
「責任? そんなの知らない。でも、パパにお願いすればなんでも叶うわ。心配しないで」
「そうじゃない。リグレット、お前の発言はムル……アウムルに対しての——」  

「もういい、リアン」


 私の目から見てもリアン様と王太子殿下は信頼関係が深い友人同士だ。大切な友人を仮令王女殿下に悪意がなくとも貶された。リアン様が怒るのも道理。次の言葉を発しかけたリアン様の声を遮ったのは、数人の騎士を連れた王太子殿下だった。


「お、お兄様」


 王太子殿下達の姿を見るなり表情が青くなり、狼狽する王女殿下。


「リグレット。お前を逃がした騎士には全て白状させた。後日、その者は懲戒処分を受けてもらう。お前には離宮に戻ってもらう」
「い、嫌よ! お兄様わたしもう我儘言わないっ、リアンと結婚出来るなら王女の地位もいらないから、リアンを説得して!」
「あのな……」


 必死に王太子殿下に請う王女殿下に誰も彼もが呆れ、王太子殿下に至っては額を手で覆う。私の前に立っていたリアン様が振り向いて額にキスを落とした。


「フィオーレ。もう大丈夫だ」
「はい……」
「リアン! リアン助けて、わたしがいるのに他の女なんて見ないで!」


 リアン様から顔を横にずらせば、騎士に拘束された王女殿下がいて。


「リグレット、いい加減にしろ。リアンはお前を好きなどころか嫌いなんだ」
「なんでよ! わたしは王女なのよ、パパに愛されたこの国のお姫様なのにっ」
「散々説明したんだけどな……もういい、連れて行け。話しても時間の無駄だ」


 王太子殿下の合図で騎士達は暴れる王女殿下を連れて行ってしまった。


「リアン」


 この場に残った王太子殿下は私とリアン様の側へ来ると「行き先が分かりやすくて助かったよ」と疲れた息と共に吐き出した。


「脱走する可能性を視野に入れなかったのか?」
「入れていた。父上に絆されない見張りを配置したつもりだったんだがな。紛れていたらしい」
「早く来てくれたお陰で助かった」
「万が一を考えてお前の側を監視させていたんだ。案の定だったよ」


「おれはもう行く。リアン、フィオーレ嬢も。今度こそリグレットは外に出られなくなる。安心してくれ」と言って王太子殿下はこの場を去った。

 残ったのは私とリアン様だけ。


「リグレットの悪足掻きもこれで本当に最後になってくれればいいな……」
「王太子殿下があそこまで言うのなら、王女殿下は今後出て来れないのでは」
「そう信じよう」


 隣国の隠居した王族が動いているとリアン様は言う。お義母様も言っていた。先王陛下との約束らしく、今代の国王陛下が問題有りと判断した場合直系の王子又は王女に王位を譲るというもの。
 既に強制力は動き出したとリアン様は溜め息と共に放った。

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