100 / 104
リグレットの悪足掻き⑤
しおりを挟む拘束する騎士の手から逃れようと藻掻くリグレットであるが、非力で華奢な彼女では鍛えられた腕から逃れる術はなく、暴れようがスムーズに鉄格子付の馬車に押し込められた。扉は閉められ、鍵を掛ける音が鳴った。
「わたしを誰だと思っているの!? この国の王女なのよ!?」
鉄格子を掴み、外にいる騎士達に喚き、国王の愛娘である自分の立場を力説するが誰も耳を傾けない。彼等の後方から異母兄たるアウムルがやって来た。
「お兄様助けて! わたし、何も悪いことしてないのに!」
青の瞳をサッと向けられるが一瞬で。「リグレットを早急に離宮へ連れて行け。それと母上にこのことを至急報せてくれ」と騎士に指示を飛ばして以降、1度もリグレットを見なかった。馬車が走り出し、お兄様、お兄様とリグレットが叫ぼうとアウムルは見向きもしなかった。
——王妃セラフィーナは国王の執務室で2人の人物と会っていた。現在、国王を愛人やリグレット共々離宮に隔離しており、王妃や王太子、手が回らなければ宰相の力を借りて執務を行っている。昔から国王の仕事を代わりに熟すのは慣れており、重要性の高い書類から処理を進めていった。急を要する分のみ済ませ、残りは後で進めても問題ないものとし、一旦休憩に入ったところで来客があったのだ。
1人は今回国王達を退ける強制力を発動させたオルトリウス。もう1人については、姿を見た瞬間セラフィーナは顔を両手で覆ってしまった。オルトリウスの言い訳としては暇な子を寄越してほしいとお願いしたら、隣にいる人が来てしまったらしく、彼としても予想外な人で困ったと言いたげな表情で微笑を浮かべている。
「あ~……王妃殿下、君が言いたいことや君の気持ちは十分に分かってる。僕も同じ気持ちだ。前向きに考えたらある意味適任者が来たと思えるよ」
「お聞きしますが我が国への訪れをシリウス陛下はご存知なのでしょうか?」
「あー…………言った? シリウスちゃんに」
隣でうつらうつらとしている人は訊ねられた問いにゆるゆると首を振った。途端、オルトリウスは項垂れ「言ってないんだ」と零した。
「公式ではないとは言え、我が国に滞在している情報は隣国にも伝えておいた方が良いでしょう。すぐに報せを届けます」
「済まないねセラフィーナちゃん……ところで、自分から行くって行ったの?」
うつらうつらとしながらも彼はオルトリウスの問いに答えようと重い口を開く。
「最初に……シエルがあの子を連れて旅行でもしようかと言い出したらしくて」
「ああ、うん、容易に想像がつくよ」
「それは周りが止めた。ローゼが来た時にお前が暇人を欲していると言って、だが暇人がいないからどうしようかという話を私にした」
「あーうん、隣国に戻ったらローゼちゃんを叱っておくよ」
「私が行くことにした……」
「そこで貴方が行くとはローゼちゃんもシエルちゃんも予想外だったろうね……」
途中までは口調がはっきりしていたのにも関わらず、最後またうつらうつらとして顔が揺れ出した。眠気を堪えているのは目で見て分かるものの、傍から見れば今にも眠りに落ちかけている。
顔から手を離したセラフィーナは極度の眠気に負けそうになっている人を見上げ、客室の準備は済ませていると告げるも首を振られた。
「いや……まだ耐えられる程度だ……」
「無理しないようにね。違う国で倒れられたら、皆吃驚しちゃうから」
誰にも告げずに来ている時点で既に大騒ぎとなっているとセラフィーナは敢えて言わなかった。場の空気が落ち着きを取り戻してきた直後、1人の騎士が慌ただしく入室した。王妃の他にも人がいるのを気にするが「構わないわ、報告してちょうだい」とセラフィーナが促すと離宮に隔離していたリグレットが脱走したと発した。
1度は起きるだろうという予想は早く発生し、速やかに捕獲した後再び離宮に押し込められた。逃げ出したリグレットの行き先は容易に分かる。セラフィーナの予想通り、この時間リアンが必ずいる学院であった。
「王太子殿下がもうじき戻られます」
「分かったわ。詳細はアウムルから聞きます。報告ありがとう」
「はっ!」
一礼をした後騎士は退室。椅子に深く凭れたセラフィーナはこれで2度とリグレットが騒ぎを起こすことはなくなると多少の安堵を抱いたのだった。
585
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
『恋心を凍らせる薬を飲みました』 - 残りの学園生活、どうぞご自由にお遊びください、婚約者様
恋せよ恋
恋愛
愛されることを諦めた。だから、私は心を凍らせた。
不誠実な婚約者・ユリアンの冷遇に耐えかねたヤスミンは、
伝説の魔女の元を訪れ、恋心を消し去る「氷の薬」を飲む。
感情を捨て、完璧な「人形」となった彼女を前に、
ユリアンは初めて己の罪と執着に狂い始める。
「お願いだ、前のように僕を愛して泣いてくれ!」
足元に跪き、涙を流して乞う男に、ヤスミンは冷酷に微笑む。
「愛?……あいにく、そのような無駄な感情は捨てましたわ」
一度凍りついた心は、二度と溶けない。
後悔にのたうち回る男と、心を凍らせた冷徹な公爵夫人の、
終わりのない贖罪の記録。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
行動あるのみです!
棗
恋愛
※一部タイトル修正しました。
シェリ・オーンジュ公爵令嬢は、長年の婚約者レーヴが想いを寄せる名高い【聖女】と結ばれる為に身を引く決意をする。
自身の我儘のせいで好きでもない相手と婚約させられていたレーヴの為と思った行動。
これが実は勘違いだと、シェリは知らない。
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
前世と今世の幸せ
夕香里
恋愛
【商業化予定のため、時期未定ですが引き下げ予定があります。詳しくは近況ボードをご確認ください】
幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。
しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。
皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。
そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。
この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。
「今世は幸せになりたい」と
※小説家になろう様にも投稿しています
すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…
アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。
婚約者には役目がある。
例え、私との時間が取れなくても、
例え、一人で夜会に行く事になっても、
例え、貴方が彼女を愛していても、
私は貴方を愛してる。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 女性視点、男性視点があります。
❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。
最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。
ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。
ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も……
※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。
また、一応転生者も出ます。
【完結】あなたを忘れたい
やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。
そんな時、不幸が訪れる。
■□■
【毎日更新】毎日8時と18時更新です。
【完結保証】最終話まで書き終えています。
最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる