ラヴィニアは逃げられない

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9話

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 夢の出来事だと思考が停止してくれれば、ぼんやりとしたまま身に降りかかっている現状から目を逸らせるのではないかと。抱く余裕さえ、最早ない。
冷たいメルの手がゆっくりと豊満な膨らみを脇から掬うように寄せ、全体を掌で覆われると「んうっ」とラヴィニアが声を漏らした。メルの掌が胸の先端に当たった。小さな痺れが走り、思わず声が出た。
 体にメルが掛けた重力の余韻がまだ残っているせいで動くのが億劫で抵抗する意思が湧かない。無理矢理にされたキスの時も魔力を注がれた。その意味を理解しようと考えるよりも、メルが胸に顔を近付けて先端を舌で触れた。


「きゃ……!」


 今度は大きな痺れとなってラヴィニアの体を得体の知れない感覚が襲った。
 先端を舌でコロコロと転がせて、硬くなったら歯を使って甘噛みされ、口に含んでいない方はメルの手が止まりなく弄ってくる。
 指先で引っ掻かれたのと歯に挟まれて舐められるのを同時にされ、声は甘さを濃くした。

 無理矢理なのにメルに触れられて気持ち悪さはない。
 気持ち良さしか感じられない。


「あ、や、メルっ、やだ怖いっ」
「ん……怖い? 俺以外の男の体を何度も見たんだろう? 怖いわけあるか」
「ああ……っ!」


 服のボタンを数個しか留めず、肌を露出させたメルに照れて理由を話したら揶揄われ、ついムキになって嘘の話を放った。
 異性の体を見たという発言はあまりに軽率だった。つまり、今と同じことを何度もしたと自分で言っているのと同じ。
 違う、と叫べばメルは止めてくれるだろうか。……でも、とラヴィニアは飽きずに胸へ愛撫を施される気持ちよさに喘ぎながら思考する。
 メルは自分を捨てて酷い言葉を放ったラヴィニアを憎んでいる。傷付いた心をプリムローズに癒してもらうのではなく、自分に報復することでメルが満足するなら……。このまま抱かれてしまえばメルのモノになれる、メルが飽きるその時まで側にいられるのなら。


「メルが乱暴に、するから、だよ」
「これが? 乱暴ねえ……」


 一か月前、悪女になりきってメルを拒絶した。なら、今も嫌な女になってメルを拒絶したらいい。
 何時か、メルに飽きられても未練がなくなるくらい酷く扱われるように。

 胸から下へ下がりながら肌への口付けは忘れず、触れられる度にぴくん、とラヴィニアの体は反応する。おへそに口付けられ、擽ったさで体が跳ねた。気にした風もなくメルに両脚を無理矢理開かれた。


「やだあ……!」


 誰にも見られたことがなく、自分ですら見ない場所を見られて羞恥心が一気に集中した。手で抵抗しようにも体はやっぱり動いてくれない。


「胸だけでかなり感じたんだな。見るだけで分かるくらい濡れてる」
「っ!」


 どういう意味を持つか分からないが嘲笑う言葉に違う意味の恥ずかしさが襲う。嫌がるラヴィニアの声は聞こえている筈なのに、お構いなしのメルが両脚を広げたまま間に顔を近付け下から上へ舐めた。
 胸の愛撫とは比べられない強い刺激に襲われ声が溢れる。表面全体を舐められている最中、ある場所に吸い付かれ一際大きな声で啼いた。


「は……はあ…………いたっ!」


 息を切らしても休憩は与えられず、中に熱い刺激が走った。気持ちよさなんて皆無の痛みと熱が襲い掛かった。


「痛い、メル、痛い!」
「すぐに慣れる」
「無理ぃ、いた……痛い……!」


 胸の愛撫と中心を舐められていた快感はあっという間に消え去り、中を無理矢理開かれる強い痛みに涙を流すしかない。口で何度訴えてもメルは聞き入れず、更に中を広げられる感覚と強い痛みが襲う。
 目を強く閉じ歯を食い縛っても止められない悲鳴がラヴィニアから絶え間なく叫ばれているのに無理矢理中を広げるメルの動きは止まってくれない。


「痛いって言う割にはかなり濡れてるな」
「メル、お願い……もっと優しく、優しくやって……!」
「ラヴィニアの態度次第、かな」


 態と音を鳴らして水音を聞かされ恥ずかしくて耳まで真っ赤にしても、メルが最後に言った言葉がどういう意味なのか知りたかった。
 ラヴィニアに強烈な痛みを与えていたものが抜かれた。体を動かせないラヴィニアは、濡れている二本の指を舐めたメルが自分を見て笑って初めて入れられていたのが指だと知った。先程の痛みで幾つもの涙が瞳から零れた。指で雫を拾われ、それを舐め取ったメルがゾッとする程の艶笑を見せた。


「俺の気分次第でラヴィニアをキングレイ家に戻すこともキングレイ家よりも酷い場所に放り込むこともできる」
「……」


 今のラヴィニアは実家から除籍された元侯爵令嬢。メルの気紛れで引き取られただけで、外に放り出されてしまえばただの小娘でしかない。


「……私は……メルに何をしたらいいの……?」
「ずっと傍にいろ。それだけでいい」


 要するにどんな風に扱っても困らない存在が欲しいだけだったのだと解釈しそうになるとメルに口付けられる。プリムローズとキスをした唇とキスをするのは嫌なのに、この状況で身を甘く蕩けさせるキスをされると抵抗する意思等最初から芽生えない。
 メルのキスに夢中になって痛みを意識の隅へ追いやりたい。メルから注がれる魔力を苦しいながらも飲み込むが量が多い。飲んでも飲んでもメルの魔力を注がれ、顔を逸らして逃げたくても顎を強く掴まれ動かせずにいた。


「んう……んんっ……! んあ……くる、しい……よ……メル……!」
「……我慢しろ……もう少しで……」
「んん……!」


 メルの魔力を飲み続けていると違和感が生まれ、心臓の鼓動が早まり全身の体温が上がっていく。


「ん……」


 漸く唇が離れ、最後に注がれた魔力を飲み込んでラヴィニアは涙で濡れた視界でメルを見上げた。息が荒く、体を襲う熱の正体を聞きたいのに、蕩けそうな甘い顔をしながら昏く濁った空色の眼で見下ろすメルから目を逸らせられない。
 動かせないのを頭に置いてメルへ手を伸ばそうとしたら全身に掛けられていた重力がやっと抜けていたようで。伸ばした手はメルの大きな手が掴んで手の甲に何度もキスをされる。


「ぅあ……あ……」


 触れるだけのキスなのに、キスしているのは手の甲なのに、メルの唇に触れられるだけでぴくぴくと小さく跳ね感じてしまう。さっきまでそんなことはなかったのに。
 嬉しそうな気持を隠す気がないメル。疑問を多分に含んだ声でメルを呼ぶも「今からたくさん気持ち良くしてやる」と言われた直後――メルの指が下半身に伸びた。
 また指を入れられ、あの痛みが襲い掛かる。
 ラヴィニアが嫌と叫んでも指を入れられた。


「あああぁ……」


 最初の痛みはどこへ、二度目は中を圧迫する感覚はあれど次に感じたのは快楽のみ。
 ホッとした顔をしたメルに気付けず、二本の指がラヴィニアのイい場所を見つけ出してそこをずっと触れ続けるせいで嬌声を上げ続ける。メルと繋いだ手を強く握って快楽に耐えた。


「……可愛いな」


 不意に呟かれた台詞は今まで何度もメルから贈られた言葉だが体の感度が上がってしまうくらい喜ぶとはラヴィニア自身思わなかった。
 痛みは消えて快楽だけを拾うようになったのはメルが注ぎ続けた魔力に正解がある。何らかの魔法を行使するのに魔力を注がれたのだ。
 メルを見ると湧き上がる罪悪感と後悔の後に必ず付いて来る愛しさ。

 プリムローズとの一件が無かったら、何事もなく日々を過ごし、軈て結婚式を挙げて、正式に夫婦となっていた。

 夫婦としての初夜ならメルは最初から優しくしてくれたのだろうか……

 繋ぐ手を離されメルを見やるとラヴィニアが留めたボタンを外して服を脱いでいるところ。適度に鍛えられ、引き締まった上半身は日焼けを知らない白い肌がメルに似合い過ぎて直視出来ない。疲れているフリをして目を逸らしていてもメルは絶対に向かせてくる。


「や……」
「俺を見ていろ」


 頬にキスをし、一旦離れたメルは。
 下も全て脱ぎ去り、自身を表面に何度か擦ると一気に挿入した。


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